プラス的 異世界の過ごし方

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1章 ここがわたしの生きる場所

第16話 勝負(下)

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『獣のベアと一緒にしないでください。わたくしは魔を持つマジックベアです』

 気持ち胸をそっている。誇らしいことのようだ。

「マジックベア?」

「マジックベア??」

 わたしが首を傾げるとビリーが声をあげた。

「マジックベアなのか?」

「そう言ってる」

「マジックベアって言ったら魔物じゃんか」

 魔物、いるんだね。そういえばもふさまは主人さまらしいけど、魔物とは違うのかな?

「魔物、問題?」

「領地の森に魔物いたらヤバいじゃんか」

「そーなの? でも、話わかる、いい子」

『いい子??』

 マジックベアが目を白黒させている。

「そりゃそーだけど」

 今も許してもらったばっかりだもんね、ビリーはバツが悪そうだ。

「魔物、森いないの普通?」

 わたしはもふさまに尋ねる。

『こいつは魔物の中でも高位で積極的に人を害するわけではないからな。人が気づいてないだけで高位の魔物ならどこにでもいるぞ。下位の魔物は結界に引っかかるし暴れるから人の目につくんだ』

 聞いたことを伝えると、ビリーが顔を青くしていた。

『してお前は蜜が欲しかったのか?』

 アリクイじゃなかった、ベアさんからの疑問をビリーに伝える。
 ビリーはわたしたちをちらっと見た。
 ん?

「こいつらの母ちゃんが具合悪いって聞いて、蜜は力がわくって聞いたことあったから……」

 母さまのために、くれようとしてたの?
 ビリー、いい子だ。

『主人さまと対等に話す赤子よ。お前の母親は具合が悪いのか?』

「赤子、違う。母さまは具合悪い」

 アリク……じゃないベアさんは両手で抱え込んでいた蜂の巣をじーっと見てから、上の部分を咥えて歩いてきて、わたしにそれを押しつけるようにする。

「くれ……るの?」

『わたくしはまた探すからいいです。早くお母様が良くなるといいですね』

「ありがと! 好きなもの、何?」

『え? わたくしのですか?』

 わたしは頷く。

『ブンブンの蜜とシャケです』

 おー、ブレないね。

「覚えとく!」

 ベアシャケをいっぱい獲ろう。それで塩漬けや干物も作ってお礼をしよう。

「ビリー、ありがと。ベアさんに母さまへって蜜もらった!」

 ビリーはにかっと笑う。

「そうか、良かったな! 蜜を食べたらきっと良くなる」

 もふさまにも間に入ってくれて助けてくれたお礼を言う。蜂の巣は大切にバッグに入れたよ。
 ベアさんと別れ、みんな心配しているだろうから川原へと急いだ。


 川原へ行くと、子供だけでなく、大人も集まっていた。手には武器を抱えている。

「ビリー!」

 紺色の髪をお団子にゆいあげた女性がビリーを見るなり走り寄って抱きしめた。その二人ごとイカツイ男性が抱え込む。

「母ちゃん、父ちゃん、心配かけてごめん」

 周りの人々も、無事でよかったと胸を撫で下ろしている。
 前領主に酷い目にあわされて、わたしたちは嫌われているけれど。ちょっと嫌な態度をとられて、嫌な人たちなのかなとチラッと思いもしたけれど、領地の人たちはとてもあったかくて優しくて、みんなで力を合わせることを知っている人たちみたいだ。

 状況を知りたがる大人たちに、わたしたちはくる途中で打ち合わせした通りに、もふさまが吠えたら驚いたみたいで山に帰っていったのだと伝えた。
 にわかには信じられないようだが、わたしたちが無事に帰ってきたので説得力はあったみたいだ。大人たちは仕事の途中で抜けてきたからと帰っていったが、その前に微妙な表情で女性たちに尋ねられた。
 母親が具合が悪いと聞いたが、食事はちゃんとしているのかい?と。
 兄さまが自分たちで作っているから大丈夫ですと、気にかけてくれたことにお礼を言うと、お母さんたちが顔を赤くした。やるな、兄さま、年齢を選ばず女性の心を鷲掴みだ!


 夕方前にまた山に行く。大人にはしばらく山に入るなと言われたが、内緒で入る。ベアに関しては問題ないからね。
 怖かったら川にいてと言ったのに、みんなで山に行くことになった。わたしたちの仕掛けた3つの罠のうち、ひとつにノシシがかかっていた。

 落ちた時に足を怪我したようで、蹲ったまま、威嚇し、すごい目で見られている。
 そうだ。罠を仕掛けるということはこういうことだった。
 わたしたちの様子を見てカールが言った。

「おれも最初怖かったし、泣いた。でもさ、おれたちこうやって獣や何かの命をもらわないと飢え死にしちゃうんだ」

 そうだよね。肉も魚も、野菜も。みーんなに命を分けてもらって、そうやってしか生きられないんだよね、わたしたち。

「獣を獲るので一番難しいのは、罠を用意することでも、道筋を考えることでもなくて、命を奪うことだと思う」

 ああ、だから彼らは恐ろしい思いをした山に、一緒に入ってくれたんだ。最後の難関をわたしたちに教えるために。

 カールが持ち手をわたしたちに向ける。大ぶりなナイフだ。
 兄さまが受け取る。

「兄さま」

 呼び掛けたアラ兄に、兄さまは微笑む。

「私にやらせてくれ」

 そして穴に飛び込んだ。ノシシがキーキー鳴いた。
 カールたちや双子は淵まで近寄って覗き込む。双子は歯を食いしばってお互いの手を握っていた。しっかり見なくちゃいけないと思うのに、足が動かない。ロビ兄に手を引かれた。わたしを淵に近づけながらも、顔はしっかりとロビ兄の胸につけられる。
 ノシシの一際高くあがった鳴き声と同時に、わたしの頭を押さえる手に力が入る。

「……このあと、どうすればいい?」

 淡々とした兄さまの声がする。
 血抜きの方法を教わり、血は穴に埋めて隠滅する。他の獣が寄ってこないようにするためだそうだ。その間ずっとロビ兄の胸に顔を埋めていた。
 兄さまたちの顔が青白かった。わたしだけ、甘えてごめん。

 口数少なく川原まで歩いた。
 ビリーが先についていて、獣が2匹横たわっていた。血抜きも終わっているようだ。

「そんなしけた顔すんな、獲った獣に失礼だろ?」

 言われて、もっともだと思った。これは自然の摂理だから。生きていくには、また逆もあることだ。生き残ったら、讃え感謝をするべき、いや、するしかない。そう思うと勝負に持ち込んだのは良くないことだと思うが、おいしく糧にさせていただこうと思うので許してほしい。

 みんなで検分だ。ビリーが獲ったのは山鴨と穴ベア。デフォルメされたアヒルみたいな容姿の山鴨と、尻尾が平べったく太いビーバーを思い起こさせる獣の穴ベアだった。
 ビリーは小さいの2匹。兄さまは1匹だけど、割と大きめ。判定は兄さまの勝ちとなった。

 ビリーは潔く負けを認め、仁王立ちして腕を組む。

「約束通り、ひとつ、なんでもいうことをきく!」

 そう宣言した。みんなハラハラして兄さまをうかがう。
 兄さまは言った。

「これからは、妹の名前をちゃんと呼んでほしい」

 え? せっかく勝ったのに、そんなこと?

「そんなんでいいのかよ?」

「そんなじゃないよ。リディーにとって大切なことだから」

 ビリーはわたしを見た。

「わかった。おい、リディア、これでいいか?」

 わたしはもちろん頷いた。そして兄さまに飛びつく。

「兄さま、ありがと!」

 兄さまはわたしの頭を撫でてくれる。ぎこちなく撫でた後、わたしをギュッとする。

「兄さま?」

「ごめん、ちょっとだけ」

 やっぱりショックだったんだ。

「兄さま、辛いことさせてごめん」

 手を伸ばして顔に添えると、兄さまは目を大きくする。

「初めてのことだったからで、辛くはないよ。ありがとう」

「「兄さま」」

 双子がシンクロして抱きつく。挟まれてちょっと苦しかった。
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