プラス的 異世界の過ごし方

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1章 ここがわたしの生きる場所

第15話 勝負(上)

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 約束通りいつもの川原で集合した。そして川を渡り、そこから山に入っていく。

「チビも来たのか?」

「チビ、違う。リディア」

「チビには変わらないだろ?」

 そりゃ9歳のビリーに比べたらちっちゃいけどさ。

「山だって危険なんだからな、にーちゃんとはぐれるなよ。万が一獣に出くわしたら、目は離さないで後ずさるんだぞ。普通に逃げたら追ってくるからな」

 わかったと頷く。
 そっか。罠をいくつかの場所に仕掛けて、夕方また見にくることになっていたけれど、獣と遭遇する可能性もあるのか。

『その時は、我が追い払ってやろう』

「もふさま、頼もしい! お願いね」

 抱っこしたもふさまに頬擦りする。

『こら、やめろ』

「けち」

『眠る時は許してやっているだろ』

 そうか、あれは譲歩なのか。

「わかった、頬擦り眠るときだけ」

 あとは我慢だ。
 緩やかといっても登り坂だ。わたしは息が切れるようになり、もふさまには自分で歩いてもらった。ビリーがあっちに罠を仕掛けると行って別れた。わたしたちにはカールとサロと他に何人かついてきてくれている。

「あった!」

 サロが大声を出して、双子が駆け寄る。

「これが足跡だよ」

 おお、わたしの拳ぐらいの大きさの獣の足跡が残っている。足跡の向かう先を目で追う。

「上から降りてきて、あっちに向かっている。ここが通り道みたいだね」

「それじゃあ、フランツだったらどこに罠を張る?」

 カールが兄さまに尋ねた。

「そうだね、あっちから降りてきて、向こうに向かうんだから、ここら辺?」

「場所はいいと思う。でも、あいつらも賢いから、罠ってわからない罠にするのに、木の近くとかの方が気づかれにくいんだ」

「っていうと、ここかな?」

「いいと思う」

「これ、貸してやる」

 少年が兄さまに突き出したのは、硬い素材でできた大きなシャベル型のものだった。

「ありがとう!」

 兄さまとロビ兄が交代で穴を掘った。土魔法でやったらと口からでかかったが、基本はセオリーを押さえたほうがいいかと思ったので黙っておく。

『人の子は面白いことをするな』

 もふさまが楽しげに見ている。
 その間にアラ兄とわたしは小枝と草を集めた。原始的な落とし穴的な罠だ。
 その他にも作れる罠はあるようだが、初心者にはこれがオススメらしい。

『我が追い込んでやろうか?』

「どうやって?」

『ちょっと上の方から吠えてやれば、山裾に向かって逃げ惑うだろう』

「どうしても獲れない時はお願い、けど、今はいいや。ありがと」

 なんかとんでもないことになりそうな予感がするので、ありがたく断っておく。
 そうやっていくつかの罠を設置し終わった時だった。

 もふさまが何かに気づいたように、急に顔をあげた。

『追われてる』

「追われてる?」

 わたしが首を傾げると、兄さまがわたしの前に立った。もふさまの目をやった方向をみんなでみつめる。
 バキバキっと木が折れるような音がする。
 走ってきたのはビリーで

「逃げろ!」

 そう叫んだ。その後ろには黒くて大きな獣が迫っていた。
 兄さまたち以外は身を翻して走り出す。わたしは動けなかった。
 血走った目をした真っ黒の生き物。圧倒的な自分より強い者に遭った時の恐怖。
 臆したわたしに気づいたかのように、獣は大きく口を開け咆哮が響く。

 うっ。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 咆哮と同じぐらいの音量の泣き声に困惑しながらも、うっさいーなと思えばそれが自分から出ていて二度驚いた。そして涙腺大崩壊だ。ぶわぶわっと涙が溢れかえり、よく見えない。獣にもだけど、自分の耐性のなさに驚きまくっていた。なぜ、泣く?? 泣いても何も解決しないだろうよ。
 わたしの泣き声によって覚醒した双子と兄さまがわたしを守ろうと抱きついてきた。
 ビリーが固まったわたしたちを逃げる傍ら連れて行こうと引っ張る。

 獣の方へ走り出したもふさまは、タタっと助走して、黒い獣に飛び蹴りを決めた。

「「「「なっ」」」」

 兄さまたちとビリーの声が重なる。

『お前が怖がらせるからリディアが泣いただろーが!』

 馬よりも大きな獣が子犬に飛び蹴りをされて、ゴロンと転がった。放心状態で上半身を起こし足を投げ出して人みたいに座り込んでいる。
 瞬きをして、自分に何が起こったか考えているみたいに見えた。
 黒い獣は、長い睫毛をビシバシ言わせて2、3回大きく瞬きして、ハッとしたように、一見子犬に見えるもふさまに土下座をした。いや、頭を地面につけるようにしただけなんだけど、一瞬土下座したかのように見えたのだ。

『主人さま、お久しぶりでございます。しばらく見ない間にずいぶんお小さくなられたようにお見受けいたしますが、ご健勝何よりにございます。して、主人さま、わたくしめが何か粗相をいたしましたでしょうか?』

『なにゆえ、あの小童を追いかけていた? そのせいでリディアが泣いたじゃないか』

 黒い獣がこちらをチラッと見た。びくりとして涙が流れるともふさまは黒い獣の鼻面をパンチする。

 ひえーーー。

「もふさま、だいじょぶ。びっくりすると涙出るだけ」

 もふさまはじろじろとわたしを見る。
 ひとつ、発見だ。子供は驚いても泣ける。

『そうか? それならいいが。で、なぜ追いかけていた』

『それはあのボウズがわたくしの大事なものを盗ったからでございます』

「ビリー、何か持ってる?」

 荒い息でへたり込んだビリーは、肩で息をしながら考えて、懐から小さな何かを取り出した。
 明るい土色。釣鐘型で、下のその特徴ある穴の形。それはもしかして……。

『主人さま、あのボウズはわたくしの大事な蜜をとったのでございます。やっと中のブンブンを追い出して、あとは舐めるだけにしてとっておいたのに!』

 ハンカチでも持たせたい。その端を噛んでキーッと引っ張って睨みつけるパフォーマンスをしそうなぐらい盛り上がっている。

「ビリー、それ、……獣さんのものだって。盗ったって怒ってる」

 そう伝えると、ビリーは確かめるように尋ねてきた。

「お前、白いのや黒いのの言葉わかるのか!?」

 あ。そうだ。もふさまと喋ったし、黒い獣さんの声はもふさまと同じように声が頭に響いてきてわたしも最初は驚いたんだっけ。でもすっとんでいた。

「うん、わかるみたい」

 わたしが言うなり、兄さまが言葉をかぶせるように言った。

「ビリー、このことは秘密にしてくれ。たぶん、リディーのギフトが関係しているみたいなんだけど、目立たせたくないんだ」

「別に、言いふらしたりしねーよ」

 お尻についた土を払って、ビリーは立ち上がった。
 そして覚悟を決めたように黒い獣に近づいていって、小さな蜂の巣を返した。

「ごめん。ちょうどよく落ちていると思ったんだ」

 黒い獣はビリーを見て、わたしを見て、もふさまを見てから、それを受け取る。

『謝罪は受け取った。赤子よ、伝えてくれるか』

「赤子、違う!」

 子供はまだしも、赤ちゃんは違うから!

「ビリー、謝罪受け取ったって」

『リディアはベアのいうこともわかるようだな?』

「ベア? ベアなの?」

 父さまからベアがいるかもと聞き、もちろんデフォルメされたティディベアを思い浮かべていたわけではないが、動物園のクマを想像していたみたいだ。真っ黒の毛の長い大きなアリクイみたいに見えるんだもん。そうか、これがこちらのベアなのか。
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