プラス的 異世界の過ごし方

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1章 ここがわたしの生きる場所

第10話 呪い

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 聖域に着くと、父さまは母さまを抱き上げたまま浅瀬に入っていった。そして滝に打たれる。

 もうすぐ夕方だ。日が落ちて一気に寒くなるだろう。
 でも呪いの方が手強そうだから、たとえ風邪をひいて具合が悪くなるとしても、進行の早い呪いから少しでも回復させないとだ。

 手を組んで祈る。
 神様、母さまを連れて行かないでください。
 わたしの寿命で母さまが呪いに打ち勝つ体力を授けてください。
 これから毎日感謝とお祈りします。だから、どうかお願いします!

 こんなときだけすがるのも調子がいいだけで違うと思っても、他にできることもない。
 神様が喜ぶことってあるのかな?
 わたしが知っているのはお供えや感謝、祈りをすることだけだ。それしか知らないから、やはりそれをするしかなく。
 
 ずいぶん時間が経ったような気がしたが、4、5分だったかもしれない。
 母さまが身動ぎした。

「あなた?」

「気がついたか?」

「リディーは?」

「大丈夫だ、そこにいる」

 父さまが母さまの存在を確かめるかのようにギュッと強く力を込めた。

「滝? ここは? なぜ滝に?」

 冷たいんだろう、皮膚が赤くなっている。でも生気のない顔よりよっぽどいい。

 母さまはおろしてといったけれど、父さまは許さなかった。

『ずいぶん回復したぞ。しばらくは大丈夫だろう』

「父さま、回復したって、しばらくは大丈夫って」

 神様! ありがとうございます。
 これから感謝と祈りは続けようと思う。
 もし、喜ぶことを教えてくれるなら、それもしますと付け足しておく。

 父さまが川から出てくる。
 母さまがくしゃみをした。

『暗くなる前に送ろう』

 風邪も怖いしね。お言葉に甘えて母さまたちはびしょ濡れのまま、もふさまに乗り込んで家に帰った。もふさまがブルッと身を震わせると水分は見事に飛んだ。すげー。

 小さくなってもらって、家に招き入れる。
 父さまたちには着替えてもらい、わたしは兄さまたちを指導してご飯を作った。もふさまにお礼もしなくちゃ。ご馳走はできないけれど。
 塩漬け肉を分厚く切り分けてニンニクと焼いた。今日収穫したものの中に、ニンニクに似た物があって、割ってみたらニンニクだったんだ。ロビ兄にはぶどうをお鍋で煮てもらった。砂糖はないが、十分に甘いからいけると思う。野菜は茹でた。芋はバターとミルクでマッシュポテトにした。パンは少し手をかけて、蒸してからオーブンで温めた。すると、かったいパンが驚きの柔らかさになった。病み上がり?の母さまにはこのパンとぶどうのジャム。それからマッシュポテトだ。お肉も食べられるといいんだけど。

 おいしそうな夕飯だ。テーブルに運んでもらって、みんなで席についた。
 どう食べるのかわからなかったので、もふさまにも普通にお皿に盛り付けた。
 みんなでいただきますだ。

 もふさまが食べられるかが一番心配だったが、手をお皿に添えたり押さえたりしながら器用に食べ始めた。
 お肉を食べると尻尾がピンと立った。大興奮だ。マッシュポテトに舌鼓を打ち、野菜も飲むかのように一気食いして、ぶどうのジャムには尻尾のフリフリが止まらない。お気に召したようだ。

 ビワンのお茶をみんなで飲み、まず、もふさまにみんなでお礼を言った。
 母さまはお礼を言ってから、勘違いをして引っ叩いたことを謝った。
 もふさまは「もういい」みたいなことを言ったけれど、尻尾がパタパタ嬉しそうに振られていた。もふさまのお家は水浴び場よりも遠くて、一人暮らしだというので、もう外は暗いし、泊まることを勧めた。ぜひ、もふんもふんを抱きしめて眠りたい!
 もふさまが泊まってくれるというので、話は明日することになった。母さまは特に体を休めないとね!
 全然口をきかなかった双子だが、ベッドに入ってわたしがもふさまを抱きしめながら眠ると、その毛並みを撫でだして、4人でもふさまを抱きしめるようにして眠った。


 翌日も起きるのが一番遅かったみたいだ。母さまに起こしてもらう。

「起きましょうね、リディー」

 ほっぺにキスをくれた。母さまの声だけど、本当に母さまかと目を擦って見ようとする。

「あらあら、そんな強く擦ったら後でヒリヒリするわよ」

 母さまだ。母さまに抱きつく。

「心配かけたのね、ごめんね」

 首を横に振る。
 今は少し回復しているけど、呪いが解けたわけじゃない。ぎゅーっと母さまにしがみつく。
 母さまの匂いだ。
 すっごく安心する。わたし、今、母さまの子なんだなと改めて思った。
 絶対、呪いなんかに負けないんだから。

 
 着替えて隣の部屋に行く。やっぱりキスの嵐だ。もふさまと挨拶を交わし、顔を洗うために外に出る。兄さまに水を汲んでもらって顔を洗う。ロビ兄にビワンを7つ取ってもらう。畑に水をやって、スープをこしらえる指導をする。パンを温めて、朝ごはんにする。
 昨日の残りも一緒に盛れば、豪勢な朝ごはんだった。もふさまも満足そうだ。


 一通りの家事は終わらせて、お茶を飲みながら作戦会議だ。

「父さま、もふさま、呪いのこと、教えて」

「お前たちは幼いからまだ知って欲しくなかったが、家族の問題だから話すことにする」

 兄さまたちの喉がゴクッと鳴る。

「呪術屋というのがいて、お金を出せば誰でも人を呪うことができるという。噂では聞いたことがあったが、呪術屋が本当に存在するとは思わなかった。なぜかというと呪いは国の法で禁止されている古代の魔術のひとつだからだ」

 そう言って、隣の母さまの手を握った。

「父さまもよくは知らないんだが、呪いとは呪いをかけたいものに、霊的な手段で不幸に導くことを指す」

「れいって? 精霊とかのこと?」

 アラ兄に父さまが答える。

「詳しくないんだが、精霊も含まれるかもな。でもそれよりおどろおどろしい存在を怨念と言って、世の中には強い恨みがこもった想いだけが残っていることがあって、それを使役すると言われている」

「しえきって?」

「うーーーーん、自分の代わりに働いてもらうってことだ」

 ロビ兄がふむふむ頷いている。

「怨念は負の感情、辛いとか悲しいとか痛いとかの感情が大好きでな。だから喜んで働くんだ」

 父さまはみんなの顔を見渡し続けた。

「呪う道具、媒体に呪いたい者の一部を込め、触れさせて呪うと聞いたことがある。どんな作用があり、どんな結果になるか、術によりけりだ」

「たきゅにわたるのね」

「たきゅ?」

「滝?」

「多岐にわたる、いくつもあるってことだよ」

 兄さまが双子に解説をする。

「もふさま。かいじょは媒体を聖女か、強い光魔法で壊す、あと何ある?」

『呪いをかけた者が取りやめることだな』

 あー、それは手強そうだね。簡単に引くことなら最初からやらないだろうし……。ということは、媒体を強い光魔法で壊す一択だ。
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