プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
8 / 891
1章 ここがわたしの生きる場所

第8話 聖なる獣

しおりを挟む
『ガキが! どうやってここに入った? 我の聖域で何をしてる?』

 声が頭に響く。ファンタジー、きた!
 もふもふは怒っているみたいだ。でも、とりあえず。

「後ろ向いて」

『なんで我が後ろを向く必要が?』

「幼女の裸、見てたいの?」

『な、人の格好など気にならん』

 そう言いながらも、白いもふもふはわたしに背を向けた。
 斜めがけバッグから手拭いを出して、水分を拭き取る。そして服を着た。

「もう、いいよ。聖域だった? ごめん。汗を流した」

 もふもふがこちらを見た。
 わたしに鼻先を近づけてくんくん匂いを嗅いでいる。

『ガキ、お前、何者だ?』

 もふもふは怖がれとでもいうように大きな口を開けた。わたしぐらい2、3口でいけそうだ。でも怖がらせようとしているだけなのはわかる。何かする気なら、最初の時点でバクッだろうからね。

「ガキ、違う。リディア」

 もふもふは口を閉じた。

『名前など聞いてない』

「人族?」

 なんて言えばいいのかわからないので疑問形になってしまう。

『…………』

「ここはあなたの家?」

『ここは我が水浴びするところだ。お前はなんでここにいる。どうやって入った?』

「歩いて。家、帰るところ。くだって行けば着くか」

 いつもの場所はきっとここより下流だろう。

『……なんだ迷子か』

 聞き捨てならん。

「迷子じゃない!」

 キッと、もふもふを見る。

『……帰り道がわからないのだろう?』

「川たどれば着く」

『ここは聖域、川といっても人族の住処に通じる川とは違う』

 え、そうなの?
 兄さまたちきっと心配してる。どうしよう。

 ちょっと不安に思ったら、目から涙が溢れ出す。自分にびっくりだ。

『なっ』

 でも驚いたわたしより、もっと驚いたのがもふもふみたいだ。

『な、泣くな。我がいじめたみたいではないか!』

 すっごい焦っている。
 違うよ。違うってわかってるよ。そう言おうとしたが、予想に反してよけいに涙が出てきた。
 ベロンと大きな舌で顔を舐められた。

「ごめん、泣くつもりない。なのに、子供、感情止まらない」

 何せ思い通りにならないだけで涙が出てくるのだ。痛みにも弱い。
 どうしようという思いがうねりまくってわたしを支配する。
 大丈夫、なんとかなるから。いや、するから! そう自分で思ってみても、実際のわたしは首を横に振って不安を大爆発させている。
 もう、なんで自分のことなのにままならないの?

『な、泣くな。泣き止んでくれ。わかった、我が家まで送ってやる』

「本当?」

 もふもふが頷く。ゲンキンなもので涙が引っ込んだ。
 リディア、お前って奴は……。精神年齢はいささかトウが立っていても、見た目通り入れ物はもうすぐ5歳だ。5歳児ならそんなものか。けど、泣いて〝足〟を手に入れるとはっ。5歳児恐るべし。

『して、お前の家はどこだ?』

「え?」

『お前の家だ』

「……引っ越してきたばかりで、よく知らない。領主。町外れの丘の上」

 住所とかあるのかな? 知らないや。

『領主? どこの領主だ?』

「シュタイン伯」

『お前、シュタイン伯の子か?』

 わたしは頷いた。先ほどまでと違い、胡散臭そうな目で見られる。

『シュタイン伯の屋敷は町中だろう? 町外れとは?』

「よく知らない。一昨日、引っ越してきた。ビワンの木ある」

『ビワンの木、あそこか』

 わかったみたいだ、よかった!
 そう喜んだのまでは覚えているが、安心した途端気が緩んだのか、この日お昼寝をしていなかったので、わたしは眠ってしまったみたいだ。

 起きたとき、もふもふの尻尾の上で盛大によだれを垂らしていた。

『起きたか?』

 ジト目で見られている。わたしは手拭いでよだれを拭いた。

「よだれ、ごめん。お昼寝、ありがと」

 もふもふに包まれて眠れて最高に気持ちよかった。
 もふはよだれを拭いたのに、尻尾を滝の中に入れて洗った。
 フルっと振るわすと一瞬で水分が飛ぶ。わたしは思わず拍手した。

『話の途中で倒れるから驚いたぞ。眠っているとわかったから寝かしておいた』

 尻尾が左右に揺れる。

「ごめん、ありがと。子供、眠る我慢できない」

『お前、へんな子供だな』

 ひどいな。

『お前の家族が心配するだろう。家に連れていってやる』

「ありがと」

 わたしは背中によじ登ってもふもふに抱きついた。
 首を器用に曲げて、そんなわたしの様子を見る。

『何をしている?』

「もふもふ、好き。気持ちいい!」

『す、好き? 人族に好かれたって嬉しくもなんともないぞ。いいからしっかり捕まっていろ!』

 もふもふが駆け出した。空を。
 空を?

「飛んでる」

『驚いたか。我は空を駆る』

「かっこいい!」

『そうか、かっこいいか!』

 もふはもっとスピードをあげた。
 何もないところを走っていく。軽やかに駆る。森を抜けてあっという間に家が見えた。
 もふはビワンの木の隣りにシュタっと降り立つ。

「父さま、リーだ。白い獣に!」

 双子が家から出てきた、もふを見て硬い表情で足を止めている。
 もふは器用に口を使って、わたしを地面へとおろしてくれた。
 ベシャッと座り込む。

『どうした?』

 舌でベロンと顔を舐められる。
 空を駆けるのは気持ちよかったけど、ちょっと怖かった。足にきてるみたいだ。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura
ファンタジー
 その日、明日見 遥(あすみ はるか)は見知らぬ森の中で目を覚ました。  だが超能力者である彼女にとってそれはあり得ないことではない。眠っている間に誤って瞬間移動を使ってしまい、起きたら知らない場所にいるということはままあるからである。だから冷静に、家に戻ろうとした。しかし何故か能力を使っても家に戻ることができない。千里眼を使って見れば見慣れぬ髪色の人間だらけ、見慣れぬ文字や動植物――驚くべきことに、そこは異世界であった。  元の世界に戻る道を探すべくまずはこの世界に馴染もうとした遥だったが、重大な問題が発生する。この世界では魔力の多さこそが正義。魔法が使えない者に人権などない。異世界人たる遥にも、勿論魔法は使えない。  しかし彼女には、超能力がある。使える力は魔法と大差ない。よし、ならば超能力を使って生きていくしかないと心に決めた。  ――まずはそこの、とても根が良さそうでお人好しで困っている人間を放っておけないタイプらしいお兄さん、申し訳ないが私が生きるために巻き込まれてください。  これは超能力少女が異世界でなんやかんやと超能力を駆使してお人よしのお兄さんを巻き込みつつ、のんびり(自称)と暮らす物語である。

処理中です...