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1章 ここがわたしの生きる場所
第4話 前世
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「君、だれ?」
兄さまにきつい目を向けられた。
びっくりした。
「リディーじゃないよね?」
記憶が混在しパニクっていたときも、ずっと優しかった兄さまに冷たい目を向けられて衝撃を受ける。話そうとするのに、声が出ずに口がぱくぱくするだけだ。
「ゆっくりでいいよ。言いたいことを言ってごらん」
父さまに頭を撫でられた。
緊張しながら、みんなを見上げる。
「わたし、リディア。……でも昨日、思いだした」
「思いだした? 何を?」
「前世」
「ぜんせい?」
わたしは頷く。
「ぜんせいってなあに?」
アラ兄が父さまに尋ねたけど、わたしが答えた。
「前の人生のこと。みんな生まれて死んでを繰り返す。ふつう次の人生で、前の人生覚えていない。わたしも急に思いだした」
「リーはリーなの?」
「リディアの記憶ある」
「……リーはなんで今日からオレたちのこと兄ってつけて呼んでくれたの?」
アラ兄に聞かれた。
「喋るの疲れる。なるべく短く話してた。呼んでないけど兄とは思ってた」
双子が顔を合わせている。
みんなの様子を伺う。
「気持ち悪い?」
周りの人から見れば、急に違う人格になったように感じられただろう。
リディアはめんどくさがりで、話すのさえ億劫だったし、いろんなことに興味はあるけれど、疲れるのがイヤだったのだ。だから疲れそうにないことしかやろうとしなかった。
わたしはリディアのそんな記憶があるけれど、みんなからは別人が乗っ取ったように感じたかもしれない。わたし、拒絶される?
でもそれは杞憂で抱き上げられた。
「うちのお姫さま。そんなことあるもんか。うちの子は賢くて可愛いな」
頬擦りしてくる。相変わらずチクチク痛いが我慢する。
「お、泣かないな」
「チクチク痛いけど、我慢」
「う、痛いのか」
「あ、母さま、リーが魚で手を怪我した」
ロビ兄が言って、母さまが手を見てくれる。
「あら、治さないとね」
手をかざすと温かい光に包まれて傷口がきれいに塞がった。
「しゅごっ。なに、魔法?」
「光魔法を見るのも初めてだったのね?」
母さまが微笑む。
「うん、前の世界、魔法なかった」
父さまと母さまが顔を見合わせている。
そっか、光魔法って灯りをだすんじゃなくて、治癒とかなんだ。
「魔法がなくてどうやって暮らしていたの?」
アラ兄が不思議顔だ。
「科学っていうのが発展してて、とても便利だった」
「生まれ変わったってことは、死んじゃったの?」
ロビ兄に言われる。
「うん。よく覚えてないけど、急に倒れてそのまま、たぶん」
わたしは日本という国でフリーランスで働くアラフォーだった。ありがたいことに、辛いとか苦しいとか死の恐怖みたいな記憶は残っていなかった。
「聞いて、ごめん」
ロビ兄に謝られる。
「だいじょぶだよ?」
もうこうやって転生しちゃってたし。
とりあえず、あからさまな拒絶はなくてほっとする。
「わたし、布洗う」
わたしは父さまからおろしてもらって、魚を包んだ布を桶で洗いに行った。
兄さまが無言で水を汲み、タライに入れてくれた。
袖をまくるがきれいにまくれない。腹がたったので、ただ袖を肘上まで持ち上げる。
アラ兄が気づいて、袖を折り返してくれた。
6歳児にやってもらうってどうなのと思ったが、怠けてやってもらっているわけではなく、本当にうまくできないんだよ。やり方はわかっているのに。
布をタライの中に入れて、ジャブジャブと擦り合わせる。うう、これもやはりうまくはいかない。でもしつこく擦り合わせていたら汚れが落ちた。これくらいでいいかな?
反対の端をアラ兄に持ってもらう。
そして捻っていって水を絞る。まだちびっちゃいし力がないから上手く絞れないのでふたりがかりで捻りあげる。木と木の枝にロープをかけて、そこに布をひっかけて乾かす。タライも洗って木陰に干しておく。
持ち帰った実が食べられるものか聞いてみると野菜だった。どれも食べられるというから、数個はお魚のお腹に一緒に詰めよう。お昼は硬いパンを食べて、お魚は夜ご飯だ。
眠くなってきたので、お昼寝をしようと思う。
さっきから一言も口をきかない兄さまの前にいく。
「嫌いになった?」
勇気を出して尋ねてみる。
兄さまは首を横に振った。
「ごめんね。リディーこそ、嫌いになった?」
わたしは首を横に振った。
「兄さま、大好き」
「本当?」
「ほんと」
「オレは?」
「おれは?」
「兄さまたちも大好き!」
わたしたちはベッドによじ登って、4人でお昼寝をした。
目が覚めてからは夕ご飯の支度を手伝った。血抜きした魚の内臓をとってもらって、お腹にビワンの葉と、収穫してきた野菜、メッキャベツとアカナスを一口大に切ったものを詰め込む。塩とオイルをしてオーブンにインだ。付け合わせにお芋を人数分入れておく。お芋だけはいっぱいあったから。
マルネギのスープの仕込みをしてもらったら、母さまには座ってもらうようにする。
やはり、顔色が悪い気がする。でもそうだよね、子供が4人もいて。それで旦那とふたりで引っ越しって大変でしかない。おまけに家電なんか全然ないんだから、全部人の手でやらなければならない。少しでも楽にしてあげなくっちゃ。わたしは心に決めるのだった。
兄さまはわりと魔力があるというので、ビワンの葉をからっからに乾かしてもらい、砕いてお茶の葉にした。母さまが大喜びだ。枇杷も6つ収穫してデザートにする。
夕飯はとってもおいしかった。ベアシャケがとってもいい味で。ビワンが臭みをとって爽やかにして、メッキャベツもアカナスもジューシーになっていておいしかった。メッキャベツは芽キャベツでアカナスはナス……みたいな感じだった。一緒にオーブンで焼いたお芋がおいしくて、パンは食べなくてもお腹がいっぱいになった。
食べるのに時間がかかるし。口の位置だってわかっているし、スプーンやフォークだって知っているのに、口に上手く運べなかったりするのだ。なんで?? そして眠さには絶対勝てない。
それにしても母さまがやはり心配だ。これは絶対にお風呂を作ろう。お風呂で体を休めたら、ちょっとは違うと思う!
兄さまにきつい目を向けられた。
びっくりした。
「リディーじゃないよね?」
記憶が混在しパニクっていたときも、ずっと優しかった兄さまに冷たい目を向けられて衝撃を受ける。話そうとするのに、声が出ずに口がぱくぱくするだけだ。
「ゆっくりでいいよ。言いたいことを言ってごらん」
父さまに頭を撫でられた。
緊張しながら、みんなを見上げる。
「わたし、リディア。……でも昨日、思いだした」
「思いだした? 何を?」
「前世」
「ぜんせい?」
わたしは頷く。
「ぜんせいってなあに?」
アラ兄が父さまに尋ねたけど、わたしが答えた。
「前の人生のこと。みんな生まれて死んでを繰り返す。ふつう次の人生で、前の人生覚えていない。わたしも急に思いだした」
「リーはリーなの?」
「リディアの記憶ある」
「……リーはなんで今日からオレたちのこと兄ってつけて呼んでくれたの?」
アラ兄に聞かれた。
「喋るの疲れる。なるべく短く話してた。呼んでないけど兄とは思ってた」
双子が顔を合わせている。
みんなの様子を伺う。
「気持ち悪い?」
周りの人から見れば、急に違う人格になったように感じられただろう。
リディアはめんどくさがりで、話すのさえ億劫だったし、いろんなことに興味はあるけれど、疲れるのがイヤだったのだ。だから疲れそうにないことしかやろうとしなかった。
わたしはリディアのそんな記憶があるけれど、みんなからは別人が乗っ取ったように感じたかもしれない。わたし、拒絶される?
でもそれは杞憂で抱き上げられた。
「うちのお姫さま。そんなことあるもんか。うちの子は賢くて可愛いな」
頬擦りしてくる。相変わらずチクチク痛いが我慢する。
「お、泣かないな」
「チクチク痛いけど、我慢」
「う、痛いのか」
「あ、母さま、リーが魚で手を怪我した」
ロビ兄が言って、母さまが手を見てくれる。
「あら、治さないとね」
手をかざすと温かい光に包まれて傷口がきれいに塞がった。
「しゅごっ。なに、魔法?」
「光魔法を見るのも初めてだったのね?」
母さまが微笑む。
「うん、前の世界、魔法なかった」
父さまと母さまが顔を見合わせている。
そっか、光魔法って灯りをだすんじゃなくて、治癒とかなんだ。
「魔法がなくてどうやって暮らしていたの?」
アラ兄が不思議顔だ。
「科学っていうのが発展してて、とても便利だった」
「生まれ変わったってことは、死んじゃったの?」
ロビ兄に言われる。
「うん。よく覚えてないけど、急に倒れてそのまま、たぶん」
わたしは日本という国でフリーランスで働くアラフォーだった。ありがたいことに、辛いとか苦しいとか死の恐怖みたいな記憶は残っていなかった。
「聞いて、ごめん」
ロビ兄に謝られる。
「だいじょぶだよ?」
もうこうやって転生しちゃってたし。
とりあえず、あからさまな拒絶はなくてほっとする。
「わたし、布洗う」
わたしは父さまからおろしてもらって、魚を包んだ布を桶で洗いに行った。
兄さまが無言で水を汲み、タライに入れてくれた。
袖をまくるがきれいにまくれない。腹がたったので、ただ袖を肘上まで持ち上げる。
アラ兄が気づいて、袖を折り返してくれた。
6歳児にやってもらうってどうなのと思ったが、怠けてやってもらっているわけではなく、本当にうまくできないんだよ。やり方はわかっているのに。
布をタライの中に入れて、ジャブジャブと擦り合わせる。うう、これもやはりうまくはいかない。でもしつこく擦り合わせていたら汚れが落ちた。これくらいでいいかな?
反対の端をアラ兄に持ってもらう。
そして捻っていって水を絞る。まだちびっちゃいし力がないから上手く絞れないのでふたりがかりで捻りあげる。木と木の枝にロープをかけて、そこに布をひっかけて乾かす。タライも洗って木陰に干しておく。
持ち帰った実が食べられるものか聞いてみると野菜だった。どれも食べられるというから、数個はお魚のお腹に一緒に詰めよう。お昼は硬いパンを食べて、お魚は夜ご飯だ。
眠くなってきたので、お昼寝をしようと思う。
さっきから一言も口をきかない兄さまの前にいく。
「嫌いになった?」
勇気を出して尋ねてみる。
兄さまは首を横に振った。
「ごめんね。リディーこそ、嫌いになった?」
わたしは首を横に振った。
「兄さま、大好き」
「本当?」
「ほんと」
「オレは?」
「おれは?」
「兄さまたちも大好き!」
わたしたちはベッドによじ登って、4人でお昼寝をした。
目が覚めてからは夕ご飯の支度を手伝った。血抜きした魚の内臓をとってもらって、お腹にビワンの葉と、収穫してきた野菜、メッキャベツとアカナスを一口大に切ったものを詰め込む。塩とオイルをしてオーブンにインだ。付け合わせにお芋を人数分入れておく。お芋だけはいっぱいあったから。
マルネギのスープの仕込みをしてもらったら、母さまには座ってもらうようにする。
やはり、顔色が悪い気がする。でもそうだよね、子供が4人もいて。それで旦那とふたりで引っ越しって大変でしかない。おまけに家電なんか全然ないんだから、全部人の手でやらなければならない。少しでも楽にしてあげなくっちゃ。わたしは心に決めるのだった。
兄さまはわりと魔力があるというので、ビワンの葉をからっからに乾かしてもらい、砕いてお茶の葉にした。母さまが大喜びだ。枇杷も6つ収穫してデザートにする。
夕飯はとってもおいしかった。ベアシャケがとってもいい味で。ビワンが臭みをとって爽やかにして、メッキャベツもアカナスもジューシーになっていておいしかった。メッキャベツは芽キャベツでアカナスはナス……みたいな感じだった。一緒にオーブンで焼いたお芋がおいしくて、パンは食べなくてもお腹がいっぱいになった。
食べるのに時間がかかるし。口の位置だってわかっているし、スプーンやフォークだって知っているのに、口に上手く運べなかったりするのだ。なんで?? そして眠さには絶対勝てない。
それにしても母さまがやはり心配だ。これは絶対にお風呂を作ろう。お風呂で体を休めたら、ちょっとは違うと思う!
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