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<前編>
第1話 ときめきはお金になりません
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「そんなことをして、あなたに何かあったら私……」
女の子の舌っ足らずな少々甘ったるい声がする。
「君は何もしていない。それは事実だ。全てはわたしが勝手にやったことだ、そうだろう? だから君は何も口にしてはいけないよ。私はどうなってもいいんだ。君がそれで救われるなら」
どんな状況だ。男女は窮地に追い込まれているらしい。そして男はひとりで背負い込む気だ。
「……でもそれで、あなたと会えなくなってしまったら……」
あ、止めはしないんだ、どうでもいいけど。と、わたしは心の中でツッコミを入れていた。
わたしの1日は散歩から始まる。毎朝、領地に広がる森を物色していた習慣かもしれない。我が家はいたって貧乏だったので森の恵みにヒジョーに助けられていた。王都にはさすがに森はないから得るものは少ないけれど、小川などではときどき収穫物がある。今日は残念なことに何もなく、朝の静謐な空気を楽しむだけとなった。
あともう少しで家という路地に入ろうとしたところで、ふと足を止めた。少し先に人の気配がしたからだ。そしてなんとなく壁に身を寄せて隠れるような体勢をとってしまったのは、何か不審なものを感じたのだろう。その直感は正しかった。ひと組の男女がイチャイチャしていた。
いくら朝早いといっても道の往来でどうかと思うよ。まだ年若い。同年代じゃないかな。それに貴族じゃないか? 良いものを身につけているのがわかる。住宅地で早朝なのも手伝って静かで、男女の声はしっかり聞き取れる。
「ああ、愛しい人よ。そんなことを言われたら決心が鈍ってしまう。でも、君を守るためには……」
そしてふたりは感極まったように熱い口づけを交わす。
うわー、よくやるわ。
女性がベールのついたツバありの帽子をかぶっていたので、邪魔だろうにかぶったままどういう角度だとそんな器用なことができてしまうんだ? とついつい身を乗り出してしまう。ハッと我に返る。いや、そうじゃない。
ああ、もう、通れないじゃないか。何もわたしが通る道でやらなくてもいいのに。行為に興味を持ったかのように覗き込んだのが恥ずかしくて、熱くなった頬を押さえた。
羨ましくなんて決してない。なんてったって、ときめきはお金にならないもんね。
ふたりはやっと離れた。長い間みつめあい、言葉にできない思いを伝えあえたのか、取り合っていた手を十分惜しんでから離し、やっと男が背を向けて歩き出した。
それで終われば〝イチャイチャを見てしまった〟だったけれど、目を留めてしまったのは、その女の子が袖口で口を拭いたからだ。拭い去りたいとばかりに強く。その仕草は雑で粗野で、今の抱擁は少しも嬉しくなく、いやどっちかというと嫌で嫌で仕方がなかったように見えた。
そして、ベールのついたツバありの帽子に隠れて顔はよくわからなかったけれど、その赤くなった口の広角が恐ろしいぐらい上にあがった。してやったりと言わんばかりに。
恐っ。思わずそんな感想を持ってしまい、わたしはそのまま女の子が去るのを待った。
怖いものには近づかない。
さーて、わたしは何も見なかった!
静かに息を吐き出し気持ちを入れ替えて、わたしは家に向かって歩き出した。思わぬところで時間を取られてしまった。急いで仕事に行く用意をしなくては。今日行くお屋敷は……。その日のスケジュールを考えていくうちに〝怖い令嬢〟のことはきれいさっぱり忘れていた。
本日の仕事先に到着した。
決して華美ではないが、実直に真摯に生きてきたことを窺わせる佇まいだ。家というのはそこで暮らす人をそのまま映す。いくつものお屋敷に従事したからこそわかるようになってきたことのひとつだ。
深呼吸をして自分におまじないをかける。
わたしはメイドの、リリアン・オッソー。落ち着きがあり、18歳ながら何事にも動じず、いつも堂々と仕事を遂行することができる。できるメイド像をリリアン・オッソーに当て嵌める。おまじないをかけると、心なしか声音も少し低くなる気がする。
強そうな獣の顔を模したノッカーを叩くと、執事らしき人が現れた。
「オーディーンメイド紹介所から参りました、リリアン・オッソーと申します」
オーディーンの紋章で封蝋印された紹介状をその場で渡すと中へと通された。そのままメイド頭さんのところに連れて行かれる。上から下までじろっと見られ、黒が基調のお仕着せを渡される。説明もそこそこにまずは着替えてからということらしい。わたしは案内された部屋でお仕着せに着替えた。黒のフワッとしたワンピースに真っ白のエプロンをつけるスタイルだ。襟は大きな白いものがついていて、なかなか可愛い。
着替えて指示をもらいに行くと、今日は令息たちの集まりだと教えてもらった。
代々近衛騎士を輩出し、現総騎士団長の伯爵家令息マテュー・パストゥール坊ちゃん主催の集まりであるので、呼ばれた令息たちも身分は高い。とにかく失礼のないようにと注意を受ける。メイン会場は庭となるが、わたしにはサロン内での給仕をするよう言われた。
お茶の種類は7種類。コーヒー、紅茶、菊花茶、宝煎茶、オデオ茶、レモン水、水。
お茶菓子は、パウンドケーキにマカロン、クッキー類、一応軽食でパンにチーズとハムも用意されているとのことだ。
「扱いのわからない茶器はありますか?」
「ありません」
「尋ねたいことはありますか?」
「お茶菓子の材料はわかりますでしょうか?」
資料を渡される。材料と味と食感などの書かれた一覧表だった。尋ねなかったら渡されなかったんだろうなーと気を引き締める。
お茶や食べ物以外での要求があった場合は執事に告げればいいらしい。溢した、汚したなどもそれぞれ対処する専属の者がいるから執事に告げよと言われる。本当にお茶とお菓子の給仕だけでいいみたいだ。なんておいしい仕事!
本当に人手が必要だったわけでなく、人数が必要だったんだなとあたりをつける。やんごとない身分の方々は財力を疑われないために、こういうことをすることがある。
「ありがとうございます。時間は14時から17時までと聞いておりますが、間違いなかったでしょうか?」
「集まりの終わりが16時半の予定なの。残られる方もいらっしゃるだろうから、もしかしたらそれよりのびることもあるけれど、お願いできるかしら?」
「承知いたしました、メイド長様」
わたしはしおらしく頭を下げた。残業はウエルカムだ。お給金は多いほうがいい。
サロンの担当はわたしと他のふたりの20歳前後の女性で、少し浮き足立っているように見えた。
ミレーヌさんとメルさん、ふたりとも長くこのパストゥール家で働いてきたようだ。
サロンにはあまり人はこないだろうから、そうしたら庭の方にヘルプに行ってもいいことになっているそうだ。どうやらパストゥール家の3男と第二王子様は仲が良いらしく、今日の集まりにお忍びで来るのではないかと期待している。その他仲の良いご学友もイケメンらしい。
貴族を見慣れていて、目が肥えているふたりが称賛するのだから、本当にイケメンなんだろう。それはちょっと楽しみだ。イケメンだろうがなんだろうがわたしの人生には関わってこないだろうけど、見ている分にはいいものだし、いいものを見たらそれをみんなで共有するのがまた楽しい。
少し水を向けると、嬉々としてイケメン談義をしてくれる。噂話は基本タブーだが、ひとつだけ大目に見てもらえ、ついつい口にしてしまうことがある。それが美男美女の話題だ。これはメイドだけでなく〝見た〟人は当然何かしら感想を持つことなのだから、人の口に戸は立てられないということなんだろう。だから共有する話題としても適していて、仲良くなるにもちょうどいい。まぁ、時たま美醜に関して絶対に話したり広めてはいけないっていうお屋敷もあったけれど。
坊ちゃんが連れてくる令息たちはイケメンが多いらしい。なかでも王子様と宰相、魔術師長、司祭長の令息たちのレベルが違うという。
まずこの家の令息、坊ちゃんのマテュー・パストゥール様。第三子で三男。藍色の髪に青い瞳、17歳。長身でがっしりした体格。堅物で正直者。坊ちゃんはお家のメイドたちにお兄様たちよりも愛されているみたいだ。
第二王子様は、金髪に王族の証である紫色の瞳をお持ちだそうだ。そりゃそうか。いつも笑みを絶やさず、気さくにメイドにも話しかけてくれるらしい。気品に溢れていて、ただそこにいらっしゃるだけで眩しい気がするとか。アントーン・マンフリード・ゲルスター様、18歳。
へー、王子様はちょっと見てみたいかも。
宰相の令息であるタウデス・ボウマー様。茶色の髪に茶色の瞳。あまり人とは目を合わさず、辛辣なところがある。それなのになぜか守ってあげたくなるらしい。16歳で小柄。第三子で次男。
魔術師長の令息のテオドール・リングマン様。19歳。白髪を長く伸ばし、その切れ長の紅い目といい、とてもセクシーな方だそうだ。魔力が凄いらしい。第一子、長男。
司祭長の令息のラモン・ハイン様、17歳。赤毛に黄金色の瞳。落ち着いた優しい印象の方らしい。第一子、長男。
容姿も家柄もよく文武両道、そのうえメイドにも礼を尽くすことを知っている坊ちゃんのご学友を、彼女たちはお気に入りらしい。
もし、暇なようだったら庭に行ってもいいかと尋ねられ、わたしは快く引き受けた。これくらいの広さなら、溢れるほどの人が入ってこない限り1人でもまわせるだろう。
30分が過ぎ、サロンで待機していたが、案の定誰も来ない。
窓からは令息たちが所々集まっているのが見えて、その間を忙しそうにメイドたちが動き回っている。ふたりに期待に満ちた目で見られたため「どうぞ」とわたしは促した。ふたりは喜んで早足で庭へと急ぐ。
大変、可愛らしい。現世では年上になるけれど、微笑ましく思ってわたしはふたりを見送った。
女の子の舌っ足らずな少々甘ったるい声がする。
「君は何もしていない。それは事実だ。全てはわたしが勝手にやったことだ、そうだろう? だから君は何も口にしてはいけないよ。私はどうなってもいいんだ。君がそれで救われるなら」
どんな状況だ。男女は窮地に追い込まれているらしい。そして男はひとりで背負い込む気だ。
「……でもそれで、あなたと会えなくなってしまったら……」
あ、止めはしないんだ、どうでもいいけど。と、わたしは心の中でツッコミを入れていた。
わたしの1日は散歩から始まる。毎朝、領地に広がる森を物色していた習慣かもしれない。我が家はいたって貧乏だったので森の恵みにヒジョーに助けられていた。王都にはさすがに森はないから得るものは少ないけれど、小川などではときどき収穫物がある。今日は残念なことに何もなく、朝の静謐な空気を楽しむだけとなった。
あともう少しで家という路地に入ろうとしたところで、ふと足を止めた。少し先に人の気配がしたからだ。そしてなんとなく壁に身を寄せて隠れるような体勢をとってしまったのは、何か不審なものを感じたのだろう。その直感は正しかった。ひと組の男女がイチャイチャしていた。
いくら朝早いといっても道の往来でどうかと思うよ。まだ年若い。同年代じゃないかな。それに貴族じゃないか? 良いものを身につけているのがわかる。住宅地で早朝なのも手伝って静かで、男女の声はしっかり聞き取れる。
「ああ、愛しい人よ。そんなことを言われたら決心が鈍ってしまう。でも、君を守るためには……」
そしてふたりは感極まったように熱い口づけを交わす。
うわー、よくやるわ。
女性がベールのついたツバありの帽子をかぶっていたので、邪魔だろうにかぶったままどういう角度だとそんな器用なことができてしまうんだ? とついつい身を乗り出してしまう。ハッと我に返る。いや、そうじゃない。
ああ、もう、通れないじゃないか。何もわたしが通る道でやらなくてもいいのに。行為に興味を持ったかのように覗き込んだのが恥ずかしくて、熱くなった頬を押さえた。
羨ましくなんて決してない。なんてったって、ときめきはお金にならないもんね。
ふたりはやっと離れた。長い間みつめあい、言葉にできない思いを伝えあえたのか、取り合っていた手を十分惜しんでから離し、やっと男が背を向けて歩き出した。
それで終われば〝イチャイチャを見てしまった〟だったけれど、目を留めてしまったのは、その女の子が袖口で口を拭いたからだ。拭い去りたいとばかりに強く。その仕草は雑で粗野で、今の抱擁は少しも嬉しくなく、いやどっちかというと嫌で嫌で仕方がなかったように見えた。
そして、ベールのついたツバありの帽子に隠れて顔はよくわからなかったけれど、その赤くなった口の広角が恐ろしいぐらい上にあがった。してやったりと言わんばかりに。
恐っ。思わずそんな感想を持ってしまい、わたしはそのまま女の子が去るのを待った。
怖いものには近づかない。
さーて、わたしは何も見なかった!
静かに息を吐き出し気持ちを入れ替えて、わたしは家に向かって歩き出した。思わぬところで時間を取られてしまった。急いで仕事に行く用意をしなくては。今日行くお屋敷は……。その日のスケジュールを考えていくうちに〝怖い令嬢〟のことはきれいさっぱり忘れていた。
本日の仕事先に到着した。
決して華美ではないが、実直に真摯に生きてきたことを窺わせる佇まいだ。家というのはそこで暮らす人をそのまま映す。いくつものお屋敷に従事したからこそわかるようになってきたことのひとつだ。
深呼吸をして自分におまじないをかける。
わたしはメイドの、リリアン・オッソー。落ち着きがあり、18歳ながら何事にも動じず、いつも堂々と仕事を遂行することができる。できるメイド像をリリアン・オッソーに当て嵌める。おまじないをかけると、心なしか声音も少し低くなる気がする。
強そうな獣の顔を模したノッカーを叩くと、執事らしき人が現れた。
「オーディーンメイド紹介所から参りました、リリアン・オッソーと申します」
オーディーンの紋章で封蝋印された紹介状をその場で渡すと中へと通された。そのままメイド頭さんのところに連れて行かれる。上から下までじろっと見られ、黒が基調のお仕着せを渡される。説明もそこそこにまずは着替えてからということらしい。わたしは案内された部屋でお仕着せに着替えた。黒のフワッとしたワンピースに真っ白のエプロンをつけるスタイルだ。襟は大きな白いものがついていて、なかなか可愛い。
着替えて指示をもらいに行くと、今日は令息たちの集まりだと教えてもらった。
代々近衛騎士を輩出し、現総騎士団長の伯爵家令息マテュー・パストゥール坊ちゃん主催の集まりであるので、呼ばれた令息たちも身分は高い。とにかく失礼のないようにと注意を受ける。メイン会場は庭となるが、わたしにはサロン内での給仕をするよう言われた。
お茶の種類は7種類。コーヒー、紅茶、菊花茶、宝煎茶、オデオ茶、レモン水、水。
お茶菓子は、パウンドケーキにマカロン、クッキー類、一応軽食でパンにチーズとハムも用意されているとのことだ。
「扱いのわからない茶器はありますか?」
「ありません」
「尋ねたいことはありますか?」
「お茶菓子の材料はわかりますでしょうか?」
資料を渡される。材料と味と食感などの書かれた一覧表だった。尋ねなかったら渡されなかったんだろうなーと気を引き締める。
お茶や食べ物以外での要求があった場合は執事に告げればいいらしい。溢した、汚したなどもそれぞれ対処する専属の者がいるから執事に告げよと言われる。本当にお茶とお菓子の給仕だけでいいみたいだ。なんておいしい仕事!
本当に人手が必要だったわけでなく、人数が必要だったんだなとあたりをつける。やんごとない身分の方々は財力を疑われないために、こういうことをすることがある。
「ありがとうございます。時間は14時から17時までと聞いておりますが、間違いなかったでしょうか?」
「集まりの終わりが16時半の予定なの。残られる方もいらっしゃるだろうから、もしかしたらそれよりのびることもあるけれど、お願いできるかしら?」
「承知いたしました、メイド長様」
わたしはしおらしく頭を下げた。残業はウエルカムだ。お給金は多いほうがいい。
サロンの担当はわたしと他のふたりの20歳前後の女性で、少し浮き足立っているように見えた。
ミレーヌさんとメルさん、ふたりとも長くこのパストゥール家で働いてきたようだ。
サロンにはあまり人はこないだろうから、そうしたら庭の方にヘルプに行ってもいいことになっているそうだ。どうやらパストゥール家の3男と第二王子様は仲が良いらしく、今日の集まりにお忍びで来るのではないかと期待している。その他仲の良いご学友もイケメンらしい。
貴族を見慣れていて、目が肥えているふたりが称賛するのだから、本当にイケメンなんだろう。それはちょっと楽しみだ。イケメンだろうがなんだろうがわたしの人生には関わってこないだろうけど、見ている分にはいいものだし、いいものを見たらそれをみんなで共有するのがまた楽しい。
少し水を向けると、嬉々としてイケメン談義をしてくれる。噂話は基本タブーだが、ひとつだけ大目に見てもらえ、ついつい口にしてしまうことがある。それが美男美女の話題だ。これはメイドだけでなく〝見た〟人は当然何かしら感想を持つことなのだから、人の口に戸は立てられないということなんだろう。だから共有する話題としても適していて、仲良くなるにもちょうどいい。まぁ、時たま美醜に関して絶対に話したり広めてはいけないっていうお屋敷もあったけれど。
坊ちゃんが連れてくる令息たちはイケメンが多いらしい。なかでも王子様と宰相、魔術師長、司祭長の令息たちのレベルが違うという。
まずこの家の令息、坊ちゃんのマテュー・パストゥール様。第三子で三男。藍色の髪に青い瞳、17歳。長身でがっしりした体格。堅物で正直者。坊ちゃんはお家のメイドたちにお兄様たちよりも愛されているみたいだ。
第二王子様は、金髪に王族の証である紫色の瞳をお持ちだそうだ。そりゃそうか。いつも笑みを絶やさず、気さくにメイドにも話しかけてくれるらしい。気品に溢れていて、ただそこにいらっしゃるだけで眩しい気がするとか。アントーン・マンフリード・ゲルスター様、18歳。
へー、王子様はちょっと見てみたいかも。
宰相の令息であるタウデス・ボウマー様。茶色の髪に茶色の瞳。あまり人とは目を合わさず、辛辣なところがある。それなのになぜか守ってあげたくなるらしい。16歳で小柄。第三子で次男。
魔術師長の令息のテオドール・リングマン様。19歳。白髪を長く伸ばし、その切れ長の紅い目といい、とてもセクシーな方だそうだ。魔力が凄いらしい。第一子、長男。
司祭長の令息のラモン・ハイン様、17歳。赤毛に黄金色の瞳。落ち着いた優しい印象の方らしい。第一子、長男。
容姿も家柄もよく文武両道、そのうえメイドにも礼を尽くすことを知っている坊ちゃんのご学友を、彼女たちはお気に入りらしい。
もし、暇なようだったら庭に行ってもいいかと尋ねられ、わたしは快く引き受けた。これくらいの広さなら、溢れるほどの人が入ってこない限り1人でもまわせるだろう。
30分が過ぎ、サロンで待機していたが、案の定誰も来ない。
窓からは令息たちが所々集まっているのが見えて、その間を忙しそうにメイドたちが動き回っている。ふたりに期待に満ちた目で見られたため「どうぞ」とわたしは促した。ふたりは喜んで早足で庭へと急ぐ。
大変、可愛らしい。現世では年上になるけれど、微笑ましく思ってわたしはふたりを見送った。
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