上 下
4 / 53
第1章 異世界転生編

3. 無詠唱魔法

しおりを挟む
「よし、筋トレしよう」

 寮に帰ったあと、筋トレしようと思い立った。

 ダイエットのためというのもあるが、体作りや健康作りのためだ。

 まずは腕立て伏せから……

「いぃぃぃぃっち、にぃぃぃぃぃぃぃい、さぁァァァっ……グアアァァッ」

 三回も続かなかった。

「ぜぇぜぇ……か、体が重い」

 自重だけで、死にそうなほど重い。

 腕がパンパンだ。

「これも全て将来のためだ……。頑張ろう!」

 見た目が変われば多少は周りの反応もマシになる……はず。

 そう信じて突き進むしかない。

「よーし、次は腹筋だ!」

 仰向けになって寝転ぶ。

 ぐっとお腹に力を入れ……

「いぃぃぃぃぃぃぃぃっ……ぐっ……。ダメだ」

 一回もできなかった。

 痩せるまでの道のりは遠いようだ……。

◇ ◇ ◇

 前世の記憶が蘇ってから数日。

 俺は周りの視線に耐えながら毎日を過ごしていた。

 そしてボッチにも耐える日々……。
 
 今日は魔法の授業があった。

 でも、一人だけ魔法を発動できなくて恥ずかしい思いをした。

「くそぉ、絶対魔法を覚えてやるっ!」

 固い決意を胸に図書館にやってきた。

 そして魔法の本を探し、読み耽ることにした。

 魔法に関する本をいくつか読み終えたところ、魔法についてわかったことがある。

 魔法とは想像を現象に変える力だ。

 魔法の発動方法は二通り存在する。

 一つ目が詠唱だ。

 決められた言葉を唱えることで決められた魔法を発動させる。

 もう一つが魔法陣だ。

 円形の魔法陣に魔力を流すことで魔法を発動させる。

 前者は実戦でよく使われ、後者は魔道具や結界などで使われる。

 俺は詠唱による魔法を使えた試しがない。

「俺には魔法の才能がないのか?」

 一応、魔法適性があると診断されている。

 そも、魔法の適性がなければ学園には入学できない。

 才能がないというよりも努力不足だと思う。

 というか、そう願いたい。

「俺もみんなみたいに魔法使いたい。なんかいい本ないかな?」

 本を探していると、面白そうなタイトルの本を見つけた。

『ゼロから始める無詠唱魔法』

「うおっ、めちゃめちゃ面白そうなタイトル!」

 無詠唱魔法なんて、男のロマンだ。

 詠唱魔法があるなら当然無詠唱魔法もあって良いはず。

 だけど、この世界では無詠唱魔法を使える人はいない。

 少なくとも俺は今まで見たことがない。

 もし無詠唱魔法が使えたらかっこよくね?

 というわけで『ゼロから始める無詠唱魔法』を読んでみることにした。

「ふむふむ、なるほど」

 最初の数ページは魔法の基本的な考え方が書いてあった。

 魔法を使うには魔力が必要になる。

 そして魔法の発動には魔法領域が必要になる。

「魔法領域とはなんぞや?」

 いきなり専門用語が出てきて頭がこんがらがる。

「え~と、なになに……。魔法領域とは、魔法使いが扱える記憶領域である。ふ~む、さっぱり意味がわからん」

 とりあえず、魔法領域の使い方次第で無詠唱魔法が使える、ということが書いてあった。

 詠唱型の魔法では、魔法領域に詠唱の型を入れ込んでいるようだ。

 それに対し、無詠唱魔法では魔法領域に魔法陣を記録している。

「魔法領域に魔法陣を記録? はっ? どういうこと?」

 まったく理解できなかった。

 ゼロから始める無詠唱魔法ってタイトルだけど、これ絶対上級者向けの本だよね?

 マジの初心者には難しすぎる。

 ペラペラとページを捲っていると、見開きで魔法陣が描いてあるページを発見した。

 ページの下には『発火イグニッションの魔法陣』と記載されている。

 発火イグニッションは初歩中の初歩の魔法だ。

『この魔方陣に魔力を流し込めば、誰でも無詠唱魔法を使えるようになれます! これで君も無詠唱魔法使いだ!』

 と、胡散臭い文章が書いてあった。

「いやいや、そんな簡単に無詠唱を使えるわけないだろ」

 超簡単! 誰でも月収100万円稼げる裏技を大公開! これで君も大金持ちだ! みたいな怪しさを感じる。

 そんなことができるくらいなら、みんな無詠唱魔法を使っているはずだ。

「どうせインチキだろ。俺は騙されないぞ」

 パタッと本を閉じた。

「そんな上手い話があるものか」

 そう思いながらも、ちょっと期待している自分がいる。

 もしかしたら無詠唱魔法が使えるんじゃないか?

 こういう甘い言葉に惑わされるやつが、コロッと騙されるんだよな。

 いや、わかってるんだよ。

 でも無詠唱魔法使いたくね?

「やるだけやってみるか。どうせ減るもんじゃないし」

 無詠唱魔法なんて使えない。

 やるだけ無駄だ。

 そんなのはわかっている。

 でも、試したところで俺が損をするわけじゃないし。

 小さな可能性を信じて、試してみるのもありな気がしてきた。

 もしこれでダメだったら「ほらインチキだ」と言ってやれば良い。

「逆にもし無詠唱魔法が使えるようになったら? それって最高じゃね?」

 たとえそれが初級魔法であろうと凄いことだ。

 もう一度、魔法陣が描かれているページを開く。

 魔法陣に何が描いてあるのか、さっぱりわからん。

 まあ別にわかんなくてもいいや。

「よし! やってみよう!」

 魔法陣に触れる。

 体の中にある魔力を動かすため、自分の内側に意識を向ける。

 魔力――それは血液のように体中をぐるぐると回っている不思議な力。

 第六感的なものだ。

 シックスセンスといえばかっこ良く聞こえるよな。

 魔力の操作に集中してみる。

 ゆっくりと呼吸を繰り返し、魔力を指先まで持っていく。

 そして魔法陣へと魔力を流し込んだ。

 すると、魔法陣が赤い光を放った。

 その直後、

 ――ドンッ!

 壁を殴ったような重い音が響く。

「うっぐ……」

 めまいがした。

 頭の中に何かが入り込んでくるような不快感を覚える。

「あ……がぁ……」

 吐き気がした。

 魔法陣が脳に刻み込まれていく。

 頭がフル回転し、ぐるぐると脳が揺さぶられるようだ。

 しばらくすると、頭痛が収まった。

 魔法陣の赤い光も消えていた。

 しかし、俺の頭の中には魔法陣が残っていた。

 不思議な感覚だ。

「これが魔法陣の記録……なのか? 無詠唱が使えるようになったのか?」

 わからない。

「こういうときこそ本を読もう」

『ゼロから始める無詠唱魔法』を読み始める。

 しかし、どこを探しても無詠唱魔法の発動について記載がなかった。

 その代わり、本の最後にこんな言葉が書かれていた。

『私は無詠唱魔法を使えない。残念だが、君に無詠唱魔法の使い方を教えることができない。この理論を執筆した当時、他の研究者から「無詠唱魔法など夢物語だ」と馬鹿にされ、批判されたものだ。しかし理論上、無詠唱魔法は可能である。この本を読んでいる君が人類史上初の無詠唱魔法の使い手になることを心から祈っている。そしていつか、多くの者が当然のように無詠唱魔法を使える世界がやってくると信じている』

「……つまり、なんだ? なんだよ、これ。読者に丸投げってやつか? 作者、適当過ぎだろ。ちゃんと最後まで責任持って、無詠唱魔法を教えてくれよ!」

 やっぱり無詠唱なんて無理だったんだ。

 そりゃあ、そうだよな。

 誰もできたことがない無詠唱を、そう簡単に使えるわけがないもんな。

 冷静に考えて「誰でも無詠唱魔法を使えます!」なんて怪しいに決まってる。

「ああくそっ、騙された。やっぱりインチキだった。まあいいや。どうせ無理だと思っていたし」

 期待して損した。

 俺は本を棚に戻して、寮に帰ることにした。

 だけど、寮に向かっている途中も無詠唱魔法のことが頭から離れなかった。

「いや、待てよ。まだ使えないと決まったわけじゃないよな?」

 目を閉じると、脳内で発火イグニッションの魔法陣を再現できる。

 おそらく、この状態が『魔法領域に魔法陣を記録する』ってことだ。

「魔力で魔法陣を作り出せば良いんじゃね?」

 だって、魔法陣って魔力を流すことで発動するんだろ?

 逆に考えれば、魔力で魔法陣を作れば、自動的に魔法が発動するってわけだ。

「うわっ、我ながら天才的な発想の転換だと思う。コペルニクスもビックリ仰天だぜ」

 さっそく右手の人差し指に魔力を込める。

 そして指先から魔力を出し、脳内に記録された魔法陣を空中に描いてみる。

 すると、

 ――ボワッ

「うおわっ!?」

 マッチぐらいの小さな火が指から出てきた。

「えっ、え!? まじか! まじかぁ!?」

 どっからどうみても、魔法の発動に成功している。

「できたぞ! 魔法が使えた! それも無詠唱魔法だ! うおおぉぉぉ! 無詠唱魔法が使えたぞぉぉぉ! よっしゃあああ!」

 風が吹けばすぐに消えてしまう、小さな火だ。

 大した威力にはならない。

 それでも俺には、この小さな火が大きな大きな一歩のように感じられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

処理中です...