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第一章

11. いけ好かないやつ

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 授業が始まって数日が過ぎた。
 そしてなんと……フローラはボッチだった!

 シューベルト王立学院には様々な派閥があり、その中でも最大の派閥は公爵令嬢であるエリザベス・パラー・ノーブルの派閥。
 エリザベス派には取り巻きの女子たちが多数いる。
 他にもいくつかの派閥があるが……。
 どこにも所属していないボッチはフローラだけだった!

 誕生日会やお茶会に参加してこなかったフローラは親しい友人がいない。
 平民は平民同士で固まるため、フローラが入り込む余地はない。
 そして、なんと言ってもフローラはエリザベスに目を付けられていた。

 最大派閥のエリザベスが敵対する少女。
 フローラがいくら美しく、聖女のような清らか心を持っていると言えども、エリザベス派の目の敵にされているフローラに近づこうとする者はいない。

 フローラは学院デビューに失敗したのである。
 だが、しかし。
 フローラはぼっちであることを気にしていなかった。
 というか、彼女は人の会話を聞いているだけで満足する、ボッチスキルを備えていた。

「まあ、そのドレス。まさか、最新のワキガのモノでなくて?」
「ええ、そうですわ。よくわかりましたね。エーロガッパ様が作ってくださいましたの」

 フローラは近くで会話している令嬢の話を盗み聞く。

 ――ワキガでなんだよ、腋臭って……。それにエーロガッパって……誰だよ。そんな可哀想な名前にしたやつは。完全な悪口じゃねーか。オレがそんな名前にされたら泣くぞ。

 と、会話を聞きながら一人でツッコミして遊んでいた。
 ちなみにワキガは王族も利用する由緒正しき仕立て屋であり、エーロガッパは流行の最先端を行くデザイナーだ。

 と、まあフローラには一人でも楽しめる能力があった。
 フローラによると、この能力はボッチスキルレベル7に該当する。
 10段階ある中のレベル7だから、なかなかにボッチを極めている。
 余談だが、授業と授業の合間に教室で寝る行為はボッチスキルレベル2だ。
 さすがは長年お茶会に呼ばれなかったボッチだけはあり、フローラはボッチを極めつつある。

「まあ、エーロガッパ様! ワキガのエーロガッパ様といえば、気に入った方にしかデザインをしないと有名な方ですわよね」
「うふふふっ、その通りよ。エーロガッパ様のモノは一味違いますね」

 ハゲノワールを連呼する令嬢達の会話を聞いて、フローラは吹き出しそうになった。

 ――腋臭のエロガッパ……、もうひたすら悪口じゃん。エロガッパのモノが一味違う? 卑猥な想像しちゃうじゃねーかよ。

 フローラの笑いの沸点が低いのだ。
 40℃ぐらいで沸騰する。
 常温を少し超えれば、沸騰するのだ。
 たいして面白くないことでも笑ってしまうほど、彼女はゲラであった。

 しかし、さすがに侯爵令嬢として突然笑い出すのはよくない。
 彼女はぐっと笑いを堪えた。

 そんなボッチエンジョイ勢のフローラに近づく者がいた。

「フローラ嬢、そんな憂いを帯びた目をしてどうしたのかな?」

 フローラは笑いを我慢しているだけなのだが。
 傍からみれば、憂い顔に見えたのだろう。

 フローラに声をかけてきたのは、フレディ・K・ハモンド。
 ハモンド伯爵家の次男坊だ。
 軽薄そうな男であり、事実彼は遊び人でチャラ男だった。

 ――フローラ・メイ・フォーブズか。平民と仲良くする姿勢は理解し難いが、如何せん顔が良い。見た感じ初そうだし、遊んでみるか。

 フレディは下心満載でフローラに近づいたのだ。

「えーっと……」

 ――あっ、やべ? こいつ誰だっけ?

 フローラはフレディの顔を見て、名前を思い出そうとする。
 授業が始まった最初の頃に自己紹介があり、そこで名前を聞いていたはずだ。
 しかし、彼女は思い出せない。
 そもそも、興味ない相手を覚えないがフローラだ。

 フローラはフレディの顔を見ながら、

 ――なんか、いけ好かないやつだな。

 と対リア充センサーを反応させていた。
 対リア充センサーとは、イケてそうなやつに反応するセンサーのことだ。
 前世で男だった経験から、フローラはフレディの下衆な考えを見透かしていた。
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