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第五章 龍族編

捕虜

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それから一週間ほどした日、武力攻撃スキルをもつ、光《あきら》、純、夏帆、桃子の4人を連れて全員で魔大陸に遠征に来た。10人の多所帯だ。転移の腕輪は渡してないので俺がゲートという新しい魔法を使って、宿泊地と魔大陸を繋いで全員で通れるようにした。残りの8名も魔大陸行きを希望したけど、もう少し魔法のレベルと威力を上げないと使いものにならないし、レベル自体がやや低めなので魔力総量が不足しているのでまずは魔力枯渇法で魔力総量を増やすことをやらせている。

「基本は彩と光、アリスと純、ミミと夏帆、カミラと桃子の2マンセルで、リリアナと俺は魔法で補助って形で行こうと思う。彩達はパートナーにのみ気を配ってくれ。」

本当はHPを上げる効果のあるアクセサリーを付けさせてるけど、皆には内緒にしている。実践で武術のスキルレベルを効率よく上げつためにはかなり集中した状態でスキルを使う必要があるからだ。意地悪だけど短期間で鍛えるには仕方ない。

「前方から魔族の集団11。下級魔族が一体。火魔法持ちだな。あとギガントという魔物も一緒にいるけどこいつだけが物理攻撃が高め。あとの魔族は慌てなければ問題ない。エンカウントまで俺の魔法で気配を隠してるから位置取りをしっかりして一気にアタック。」

彩達の動きにつられて光達も必死に追いかける。地力の能力の差が大きいからこの辺りは仕方ない。だけどこうして自分の能力値一杯まで能力を使うことを身につければいいと思う。リリアナは周囲に気を配りながら、全体魔法をかける準備をしている。

彩達が近接攻撃の間合いに入った瞬間、リリアナ初撃の全体攻撃。いきなり気配探知したら全体攻撃を受け、すぐに近接攻撃の間合いに入られて相手の小隊はなすすべもない。下級魔族を始末した後、4人でギガントに襲いかかりあっさり討伐。1分もかからずに最初のアタックが終了した。

「最初にしてはいい感じかな。ただ、一瞬の躊躇が致命的なダメージを受けることになるからね、常に周囲との連携に気を配って、躊躇わず攻撃を仕掛けないと格上相手だとまずいからね。」

「「「「はい。」」」」

4人ともいい返事だ。指導を受け慣れてるんだろうな、多分。

「おっ、多分今のやつらと同じ勢力のやつらだな。この辺りを集中的に探索してるのかな。なにかあるのかな。取り敢えず、こいつらの死体は俺が収納しておくから、全員戦闘配置について。今と同じ手順でいこう。」

次の小隊は、若干構成は異なっているけど、やはり下級魔族が率いて哨戒している感じだ。今回は、連携がスムーズに決まって、俺が見てても隙がない攻撃だった。このまま森の中を進むかどうか一瞬迷ったけど、厳重な哨戒体制が気になって光達を連れていたけど気配探知の訓練にもなるかと思って森の奥に入ってみた。
現在、パーティー内では念話だけで会話をしている。光達も随分使いこなせるようになっている。なれないと念話の時でも言葉を発してしまうことがあるからね。

「ストップ。この先に洞窟がある。そこを守ってる感じだけど、拠点でもなさそうだしなんだろう。」

「かなり厳重なの?彩の能力だとそこまで探知で来てないけど、ずっと先?」

「3㎞ぐらあるかなここからだと。だんだん哨戒網が狭くなってるから多分その洞窟だと思う。もう少し進めば洞窟内を探れるけど、哨戒網の重なってる部分を通ることになるから、殲滅するならスピードが大事になるけどどうする?」

「タクヤさん、このまま進んでやばそうなら、私達だけで殲滅するって言うのは?」

「相手が念話系のアイテム持ってなければそれでもいいけど、見つかれば全部寄って来るよ。」

「あの、私達が邪魔ですよね?戻った方がいいでしょうか?」

「いや、晶、こう言うのは経験することが大切だからね。折角の機会だし、皆の能力の最大パフォーマンスを使ってチャレンジしてみよう。ダメならすぐに転移で逃げるし。」

「じゃあ、2マンセルを解除して私達が先行する?」

「いや折角だし、夏帆のスキルも鍛えよう。夏帆は索敵を最大限発揮して、晶は、気配遮断を意識してね。」

「えっ、なんで私たちのスキルが解るんですか?」

「そこは企業秘密。取り敢えず、2人は彩、アリス、ミミと一緒に先行して。俺が少し補助を掛けとくから今は自分の能力を最大限に使うことだけに意識してね。残り5人は俺の側でね。周囲を位相で隔絶するから気配感知は働かせないでいいよ。彩達が交戦した時のサポートと他が来た場合の殲滅役ね。」

そこから、できるだけ哨戒網の穴を通るように洞窟に近づいて行った。1㎞ほど進んだ時、俺の探知で洞窟内の様子が解った。

「多分、捕虜だな。30人ぐらいいる。あんまりいい状態じゃないな。しかしなんでこんなに厳重に哨戒してるんだろう?捕虜奪還を警戒してるのか?」

「拓哉どうするの?助けるの?」

「えっ?なんで?助けてもどうしようもないけど。魔大陸から連れ出す訳にいかないし。」

「リュウザキ様、捕虜となっているのは人族なんでしょうか?」

「うん、帝国の一団だねあれは。首輪を嵌めたままのやつもいるし。」

「では、転移者もいるんですか?」

「うん、一般の兵士もいるけど、異世界転移者も5人混ざってるよ。うち3人が首輪持ちね。一旦宿営地に戻ろうか、彩達もこっちに来て。」

ゲートを開いて一旦、宿営地に戻る。ほとんど時間も経ってないのに戻ってきた俺達に気がついて他の8人もやってきた。

「取り敢えず、ちょっと休憩しようか。ミミ準備お願い。」

宿舎の側に作っているテーブルについてお茶をしながらさっきの件について話をした。

「まず、はっきり言っておくけど、魔大陸で異世界転移者に限らず、あの大陸に置き去りにされたやつを見つけたとしてもなんでもかんでも助ける気はないからね。それだったら最初から魔大陸なんかに置いておかないし。」

「リュウザキ様のお考えに異を唱えるつもりも、元クラスメートだからと言って助けて頂こうとも願っておりません。私の態度がリュウザキ様の機嫌を損ねたのなら心よりお詫びいたします。」

「リュウザキ様、横から失礼いたします。桃子が転移者の有無を聞いたのは、彼女のいとこである子のことを気に掛けたからだと思います。どうぞお忘れ下さい。」

「できれば詳しく聞いたい。別に俺は怒ってないからね。あの場で詳しく話が聞けそうになかったし、なんとなく事情がありそうだったから戻ってきただけだよ。最初に俺が言ったのは俺の態度を明確にするためだよ。そもそもなんでもかんでも見殺しにする気なら最初から全員を服従魔法にかけて、魔大陸の一番奥地に放り出してるけど。」

「お兄ちゃんの場合、それをマジでできちゃうから、洒落にならないよね。」

「まあまあ、それで事情を話して貰えます?桃子さん。」

「はい。実は私には同じクラスで今回同じように召喚されてしまったいとこがいました。彼女、洋子といいますけど、テニスで特待生になっていてテニスのダブルスのパートナーに引きづられるようにしてあの場所から他の帝国軍の人たちと一緒に出て行ったんです。彼女は私たちと残るつもりだったんです。でもパートナーだった人は、リュウザキ様に殺されたS級冒険者の方のことを好きになっていて猛烈にアタックかけていたので、その人を目の前で殺されてリュウザキ様を逆恨みして。結局首輪も付けたままになっています。いとこの洋子は私たちと一緒に首輪を外して貰ったんです。そもそもあの時にリュウザキ様に首輪を外して貰った人たちは皆あの場所に残る予定だったんです。でも、結局種目によってパートナーがいたり、最後に残っていたS級冒険者のマリックさんと言うのですが、彼が皇帝について行くことになって、彼が担当していたグループの子は皆ついていったりしてしまって、結局元帝国所属で残ったのが私達4人だけになったんです。」

「そうやって無理やり付いて行った人たちを助けたいと言う気持ちは解る、でも全員に平等にチャンスはあり、平等に情報を与えた上で、自分で決めて行動したんだったらそれは仕方ないことだと思うけど。」

「はい、おっしゃる通りです。諦めたつもりだったのが、急にその可能性を知って気持ちが揺れてしまいました。申し訳ありません。」

「そんなの全然問題ないよ。俺だって常に完璧な判断を出来てる訳でもないし、失敗したことなんて数限りないよ。だから桃子が謝る必要はないよ。それで、どうしたい?あそこにいる5人に洋子って人がいるかどうかは解らないし、もしいたとして彼女だけを助けるの?他の25人は見殺しにして。あるいはいなかったとして、そのままあの30人を見殺しにするの?助けるとしてどうやって助けるの?あの場から連れ出すことはできたとして、その後は?首輪のあるなしで区別する?それとも召喚者かどうかで区別する?」

「申し訳ありません、そこまで深く考えていません。」

「本当は、ここ連れてきた12人一人ひとりに、まず自分達自身のことをじっくり考えてから自分の生き方や覚悟を決めてから、その先を考えさせたかったんだけど、順序が逆になって皆も混乱していると思う。俺は皆のことを見捨てることもないし、出来る範囲でサポートも続ける、それは俺が生きている限り続けるし、皆のことを守ってやる覚悟で受け入れている。だから今回のことをいい機会だと思ってじっくり考えてみて。お風呂にでも入ってリラックスするといいよ。彩俺達も一旦帰ろうか。」

そう言ってトレーラーハウスの亜空間を開いて俺達は宿泊地を後にした。彼女たちなりの結論を出させればいいと思ってる。
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