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第二章 ガノ王国編

迷宮探索 3日目

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翌朝、朝早くに起きていつものように迷宮に潜る。アリスとミミには体力と魔力がカンスト状態になっていることは黙っている。それに慣れて戦闘が雑にならないためだ。俺の推論が正しければ、この世界でスキルレベルが上がるための条件つまり本人の能力値が上がるための条件は、集中力とイメージ力だ。特に実際の戦いの中で集中力を切らさず戦いのイメージを持ち続けるのは慣れるしかないと思っている。戦闘の際は適度の緊張感が必要なのだ。多分。

ともかく、3人を守るための配慮を少なくできることで、俺自身も迷宮に入り新しい魔法の習得に集中できた。
俺が目指しているのは、「重力魔法」、「磁力魔法」、「波動魔法」の3つ。この世界が元の世界の理と違ったシステムで動いていると言っても、現に重力があり、磁力があり、音や光という波が存在する。俺はそれに対する知識は詳しく持っている。後は現象のイメージを明確に持てば必ず、この世界の理の中で俺のイメージが働くと考えている。中性子線レベルでの魔法も考えたけど、それを抑制する理論が明確に持てなかったので止めた。ともかく、俺が最終的に目指すのは、「飛行魔法」、「レールガン」、「電子レンジ」、「位相空間によるバリア」の5つだ。

いずれにせよ、基本となる魔法系列が見つかればアクティブスキルとしてスキルに出現し、スキルレベルを上げることで他の魔法との併用が可能になることは他の属性魔法で経験済みだ。ちなみに、火魔法などの属性魔法はカンスト後「賢者」スキルに吸収された。やはりこの「賢者」スキルの中に各系統の魔法が含まれているのだろう。

下層に降りることを優先したため、地下8階は1時間ちょっとで通過。午前中のうちに地下9階に降りた。この階からは飛行系魔物が出てくるようだ。ブラックバッド。腐食攻撃と噛みつき攻撃を主体とする集団で襲ってくる魔物だ。ドロップアイテムはブラックバッドの牙。

「飛行系魔物との戦いは、相手は遠距離攻撃や、高速での攻撃を仕掛けてくるから、一気に間合いに入って一撃で仕留めるか、こっちも魔法などで遠距離攻撃で対峙するかだよ。飛行系魔物と地上の魔物が連携してきた場合は、まずは飛行系魔物の殲滅を優先させた方がいい。」

「すみません、旦那様。何も考えずに目の前の敵を攻撃していました。」

「ミミはまずは槍術のレベルを上がることが先決だからね。それはそれでOKだよ。ただ少しずつ全体を見て動けるようになって行こう。」

「お兄ちゃん、わかったー。」

「俺がいる時には俺が指示出せるけど、少しずつ自分達でも判断できるようになっていこうな。そのための迷宮での実地訓練だしな。」

「ところで、拓哉、さっきの魔法は何?ブラックバットの動きが急に変になってそのまま光になったけど。」

「まだ実験段階だけどね。新しい魔法だよ。彩なら理解できるだろうけど「超音波魔法」になるみたい。マイクロ波をぶつけてレンジでチンした感じ?」

「そんな魔法もあるの?」

「発動したからあるんだろうけど、多分、こっちの世界ではなかった魔法じゃないかなー。マイクロ波の理論なんてないだろうし。俺が目指しているのは音や光の波動をコントロールする魔法なんだけどね。これを扱えれば、念話や光学迷彩などもできるかもしれないし、攻撃的には今みたいなマイクロ波を使った攻撃や視覚異常を起こさせて相手を混乱させられるかもしれない。」

「拓哉、さらに進化していくのね。彩も頑張らなきゃ。」

「アリスも頑張るよぅ、お兄ちゃん。」

「むむ、ミミは常に旦那様と共に頑張るであります。」

「まあ、もしかしたら勇者とやりあわなきゃいけなくなるんだし、やれることはやっとこうかなって感じだ。」

その後順調に進み、地下10階に降りる転移水晶の間でしばらくブレイク。
早めの昼食を摂りながら、

「次の階層から、階層主というラスボスが出てくるそうだ。階層主を倒さないと次の階層に進めなくなるらしい。つまりここまでは、冒険者としての肩慣らしって感じだったのかもな。」

「お兄ちゃん、今日は身体がよく動くしなんか超余裕って感じだよ。やっぱりこの指輪の効果が大きいのかなぁ。」

「そうだなー。アリスも俺の妻になったことだし、俺の影響を受けやすくなってるのかもな。」

「ミミも旦那様の力を感じておりますぞ。ここにも旦那様の跡が入ってますし。」

下腹部をさするミミを無視して、

「そう言えば彩、避妊魔法の影響は出てないか?体調が悪くなったりとかはない?」

「うん、大丈夫だよ。しばらくは子供は作れないしね。でも女の子の日も回復魔法ですぐに終われるなんてね。多分他の人はやってないよ。アリスも体調大丈夫でしょう?」

「そうだよお兄ちゃん。もうびっくりだよ。準備してたものもう使わなくていいんだよね。早く知ってれば聖魔法の習練頑張って魔法を覚えたのに。」

「まあそうだけどな。でも消費する魔力考えたら、リキュアの魔法を覚えるのはアリスが40歳ぐらいになるまで習練を続けてないと無理だったかもだぞ。」

「旦那様、ミミは女の子の日は来たことないのですが、ミミは女の子ではないんでしょうか?あーもう人妻ですからね。ふふふ。大人になる前に人妻になっちゃいました、ミミ。」

ミミの暴走はほっといて、

「よしじゃあ、まずは10階のボス戦を頑張ろう。B級パーティーなら問題なく撃破できるみたいだしな。油断しなければ問題ないだろう。」

地下10階は、それまでと少し様相が変わった。通路に植物が生えてるし、迷宮全体が明るい。

「早速来たぞ、あっちから寄ってくるみたいだな。探知系のスキルでも持ってるんだろう。気を引き締めていくぞ。」

現れたのは、牡牛だ。オックスってやつ。ただ凶悪な感じと、若干顔つきが人っぽくなってはいるけど。鑑定するとブルとなっていた。索敵スキル持ちだ。体力がかなり高い。9層までの魔物の3倍近くある。敏捷や回避も高いし。

「体力がかなり高いぞ。敏捷や回避も高い。魔法はないから近接だけでいけると思う。周囲に他の個体はいないし、3人で近接の連携訓練だと思ってアッタクしてみて。」

俺の指示で3人が迷わずダッシュ。初撃はやはりアリスだ。彩は敏捷MAXになってるけど、やはり種族特性とかが働いているんだろうかアリスのダッシュ力が高い。彩自身が敏捷の能力値に身体がついていってないのかもしれないけどね。無意識でリミットをかけてるのかもしれない。この辺りは彩自身で乗り越えて貰わないといけない部分かな。やはり能力値の数値だけを上げるだけで即強くなる訳ではなさそうだな。

3人の戦いはなかなかいい連携だと思う。彩がタンクの役割で相手の攻撃を止め、時々重い攻撃を相手に打ち込む。アリスがヒットアンドウェイで確実に相手の体力を削ぎ落していって、ミミが相手のすきを狙って急所に一撃を入れる。このスタイルが確立したら多少の相手なら確実に始末できそうだ。
ブルが光となって消え、後には霜降り肉が残された。霜降り肉か。レア度はB。
ミミが霜降り肉を持って俺の所に走ってきた。

「旦那様、霜降り肉でございますよー。ミミは一度だけ見たことがあります。匂いだけでおいしさが分かるほどのお肉でしたよ。これミミも頂けるのでしょうか?」

「勿論だぞ。焼き肉で食べた方がいいか?」

「おー、では早速食事の準備をしに戻りましょう。」

しっぽをブンブン振ってるしなー。ちょっと可哀想だけど。

「ミミ、この階層にはさっきの魔物がまだいると思うぞ。狩ったらまた肉がゲットできるんじゃないかなぁー。」

「おーそうです。流石旦那様。これっぽちでは満足できませんか。仕方ありませんね。ミミがもっと狩ってお肉をゲットしますぞ。」

うん、俺のためって言うよりミミのためっぽいけどね。

「では、奥様、アリス、じゃんじゃん狩っていきましょうぞ。」

迷宮ってこんなアイテムも出るんだなぁ。畜産やってるの確かにこの街に来るまでにも見たことないなー。基本、迷宮産なんだな。乳製品とかも出るんだろうか。

そんなことを考えながら、10階の探索を続けた。10階には羊の魔物ウールと山羊の魔物のメイが出現した。ウールからはB級素材のマトン(子羊の肉)と同じくB級素材のカシミアが出た。メイからはB級素材の(酪)が出た。幸運が全員カンスト状態だからかな、レア素材を100%ドロップする。おそらく迷宮ではドロップアイテムが出ることは少なく、出たとしてもほとんどは魔石がドロップされ、ドロップアイテムもノーマルアイテムが出てもラッキーって感じなんだろうな。ごくたまにレアアイテムとしてその魔物毎の最高レアアイテムがドロップされる仕組みなんじゃないかと思う。俺達が2日でドロップアイテムを冒険者組合で換金したってことは、あっちからすればそれの何十倍、何百倍も魔物を狩ったように思ったのかもしれない。
2時間ほど狩りを続けて、霜降り肉が出てもミミも何も言わなくなった頃、ボス部屋を見つけた。奥に大きな魔力を感じる。

「この先はボス部屋だ。俺がボスの弱点を指示するから、まずは全員臨戦態勢で待機な。」

「「「了解(です)」」」

ボス部屋に入るには転移水晶みたいなものを全員で触って部屋に侵入するシステムだ。出口はないから、ここに入ったらボスを倒すしか出られない仕様なのだろう。
ボスは、ブルの大型版だ。しかも二足歩行で手には馬鹿でかい棍棒を持っている。魔法はないけど身体強化スキルがあり、体力もブルの倍以上ある。他の能力値も一流戦士並みだ。剣術スキルがLV3だしな。

「魔法なし。身体強化スキルで、能力値はブルの2倍。剣術スキルをもってるからあの棍棒は要注意だぞ。俺が加勢するか?」

「拓哉は見てて。彩達だけでやってみる。」

「任せて、アリス今日は絶好調だし」

「問題ありません。ミミの手にかかればおいしいお肉です。」

そう言うと3人は飛び出していって攻撃を始める。しかし、彩達にとっては初めての大型モンスター。一撃を入れるのに跳躍を繰り返す必要がある。しかも関節部分など筋肉が少ない部分を狙わないと身体強化のスキルのため与ダメージが少ない。剣を振っていて自分達も手ごたえが少ないのを感じているんだろう。5分ほどの戦いの後、最後の一撃を彩が決めて光になって消えた。その後にはドロップアイテムと、宝箱が残った。

「旦那様―。これは三角肉ですー。ミミも商品を一度見たことあるだけです。幻のお肉ですよー。半生でも食べられる超レアな食材です。」

今日一番の尻尾ふりを見せながらミミが大事そうに抱えてきた。レア度Aだ。初めてみたA級素材。

「お兄ちゃん、宝箱空けてもいい?」

「罠とかはなさそうだな。開けていいぞ。」

宝箱からは「万能薬」という薬が出てきた。俺は聖魔法をカンストしてるので薬剤関係はいらないんだけど、調合の知識や、魔法が使えない時のためには貴重なアイテムかもしれない。

「万能薬ってアイテムみたいだな。」

「万能薬?お兄ちゃん、万能薬って言った?」

「おう、アリス知ってるのか?」

「アリスも実物を見たのは初めてだけど、回復薬の最上位薬だよ。あらゆる怪我や病気を治せるって話だよ。聖神殿教会で何人もの巫女によって行う秘術と同じ効果を出せるって聞いたことがあるよ。」

「そうなんだ。貴重な物なんだな。今度調合にチェレンジしてみよう。」

「えー。お兄ちゃん調合もできるの?アリスもやりたい。いや、やらせてお兄ちゃん、御願い。」

「そうだな、今度時間が出来たらな。それより聖魔法を習練した方が早いんじゃないか?」

「彩もやってみたいかも、調合。薬剤師目指してたし。」

「そうだったの彩。じゃあ、今日調合の機材揃えに行こうか。」

「アリスの時と対応が違うぅ。」

「この転移水晶で地下11階に行けると思うけど、どうする?このボス戦しばらくループしてみる?」

「「「やりたーい。」」」

「じゃあ、一回、地下11階に転移して、ボス部屋の前に戻るか。」

その後、夕方までボス戦ループした。その時わかったことは、ボス部屋からボス部屋の前に転移すると新しいボスは出現しない。一旦地下11階に転移しないといけないらしい。またボス部屋に入れるのは1パーティーのみで、別のパーティーが入っていると他のパーティーはボス部屋に転移出来ない。そして地下10階には時々他の冒険者パーティーが現れることもわかった。俺達は他のパーティーと顔を合わせたくなかったので、顔を合わさないように上手く転移して隠れたけど。

彩が単独でもボス戦が出来るほどの動きが出来るようになった時、超レア食材は普通食材と変わらないぐらいの価値しかなくなり、万能薬も全員が数本ずつ所持できるようになった。明日も、このボス戦を迷宮探索のウォーミングアップに使おうってことになって、冒険者組合に飛んで、アイテムを換金した。霜降り肉も少し残してほとんど換金し、三角肉もどうしようかと思ったけど10個だけ換金した。いつものように換金のアイテムをリュックに詰めたまま、いつものお姉さんに換金をお願いした。
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