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第一章 アルンガルト王国編

国境都市ジュラム 商会編

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「突然、御無礼いたします。大旦那様より皆様をお連れするように申し遣っております。お忙しいと思いますが、是非おいで頂けないでしょうか?」

「えっと、あなたは誰?」

「申し訳ございません。黒狼団に襲われた商人の仇を撃って頂いたとお聞きしています。またお嬢様のステイタスカードをお持ちいただいたと。旦那様が是非直接お礼を言いたいと、ただお嬢様が襲われて床に伏せっておられます。代理で私がお迎えに参りました。」

「あー、そんなに緊張しなくて大丈夫です。こっちも緊張しちゃいますから。」

「いえ、あの黒狼団を殲滅するとは、きっと凄い冒険者様だから、失礼のないようにと申し遣っております。」

「わかった、じゃあ、案内をお願い。えっと、馬車で来たの?」

「私の様なものが馬車など、歩いてきました。」

「えっと、旦那様の所まで遠い?」

「大丈夫です。街の門の近くですから歩いて20分も掛りません。足腰は丈夫です。」

「あーわかった。でも馬車も持っていかないといけないから、馬車の操車は出来る?」

「いえ、できません。」

「じゃあ、俺の隣に乗って道案内してね。彩とアリスは後ろに乗ってね。」


少し調子が狂わされたけど、無事に出発して程なく目的の商会の建物に着いた。

「馬車はこちらでお預かりします。」

番頭さんみたいな人が飛び出してきて、馬車を小僧さんみたいな子に引き継がせた。
後ろの方で案内に来ていた狐族の子(ミミ)が叱られてるみたいだけど大丈夫かなぁ。

商会の建物に入って、いくつかの建物を越えて、大きな部屋に案内された。

「おー、おー。あなた方がミッシュの仇を取ってくれた英雄殿ですか。」

「この度は、娘さんの命を救うことが出来ずに申し訳ございませんでした。」

「いやいや。冒険者ギルドに言っても、黒狼団への討伐依頼は受け付けられないと断れたおったのじゃ。それをこんなにあっさりと、しかも全滅させてくれたとのこと。何度お礼を言っても言い足りません。また娘のステイタスカードを持ちかえって頂き、本当に感謝の気持ちしかありません。もしよければ、娘の死の様子をお聞かせ頂けないでしょうか。どのような酷い死に様でも構いません。」

俺はこの質問が来ることを予想していた。本当の姿を伝えるには余りにも酷すぎるし、

「お譲さんと女中の方は馬車の中でご自害されていました。恥ずかしめを受ける前に自ら命を絶ったのでございましょう。こちらが手にしておられた小刀です。」

俺はゲスの凌辱の跡が残る部屋に残された不釣り合いな小刀が被害者のものだと考えてウエストポーチの方に移しておいた。その小刀を目にした父親は、

「おー、これは間違いない、わしが娘の結婚の記念に作って持たせたものです。」

「そうですか、ではそちらもお持ち下さい。それから俺が黒狼団を討伐した時に残されていた馬車と荷物をそのまま曳いて来ています。私には荷馬車は不要ですし、そちらも必要ならどうぞ収めて下さい。」

「なんと、それはなりません。盗賊討伐の際に手にした物は全て討伐者の物になる決まりです。この小刀も相応の額で引き取りさせて貰いますじゃ。」

「では、馬車も引き取りと形で如何でしょうか?また積んであった商品も私が持っていても仕方ないものが多くありましたし、そちらも買い戻すという形では。」

「誠によろしいのですか?」

「構いません。しかし俺は明日この街出るつもりです。迷宮探索を生業としていて次の迷宮に向かう途中でしたので。」

「では、今宵はどちらにお泊りでしょうか?」

「まだ決めていませんが、この近くに宿を取るつもりです。」

「では、十分なおもてなしもできないかもしれませんが、よろしければ拙宅にお泊り頂けませんか?」

「いえ、まだお具合も十分回復されておられない御様子ですし、俺達に気づかいは無用です。」

「そうおっしゃらずに、是非。風呂も準備させましょう。」


どうにも引きそうになかったので、そのままこの商館に泊まることになった。
部屋まで案内に現れたのは、冒険者ギルドに使いに来ていた狐族の少女ミミだ。

「先ほどは数々の御無礼申し訳ありませんでした。汚名挽回のチャンスを下さい。今度はちゃんと英雄様方をエスコートし、番頭さんに怒られないように頑張ります。」

「番頭さんに怒られちゃったの?」

「はい、このままではミミの晩御飯は抜きになってしまいます。頑張りますのでよろしくお願いします。」

「そうか、それは大変だ。頑張って夕食を一杯食べなきゃね。」

「はいそうです。たくさん食べないと頭が良くならないのです。胸は大きくならなくていいんです。ミミはやればできる子ですから。」

「よし頑張れ。ミミは将来は商人になりたいのか?」

「えっと、商人にはなりたいと思ってますが、一番は料理人です。貴族のメイドさんなら完璧です。」

「そうなの?なんで料理人、っていうかメイドさん?」

「英雄様、料理人になれば朝と夕だけじゃなくお昼も御飯を作るんです。朝、昼、夕とご飯食べ放題です。メイドさんになればそれにおやつの時間もあります。これほど恵まれた職業があるでしょうか。ミミは頑張るんです。」

「そうなんだ。じゃあなんで商館で働いてるんだ?」

「それは、ミミを買って下さったのが大旦那さまで、大旦那様が仕事をしなさいっておっしゃるので、頑張っているんですが、ミミは算術が苦手なんです・・・。」

「そうか、でも毎日頑張れば何とかなるかもしれないな。」

ちなみに、ミミのステイタスは、


氏名 ミミ・フォーク
年齢 13歳
性別 女性
種族 狐族
職業 奴隷
レベル 1
経験値 0
体力  80
魔力  50
筋力  80
敏捷  100
回避  100
防御  80
知恵  60
精神  60
幸運  60
スキル 体術(LV1)、料理(LV1)

となっていてる。料理スキル持ってる人、初めて見たかも。露天売りしている人とか、食堂で働いている人も鑑定してみたけど料理スキルってなかったけどな。スキルがないとその作業が出来ないって訳じゃないしな。料理だけを何年も修行してたら料理スキルが付くのかな。でもこの子はそんなに修行してないさそうだしな。どうなってるんだろう?


離れの部屋に案内されて、風呂の準備をするからと言ってミミが部屋を出ようとしてたから、風呂場まで案内して貰った。
風呂場は、井戸の側に作った大きな盥を使ったある意味露天風呂だ。お湯は側の竈で沸かすみたいだ。
折角だから、ここに岩風呂の露天風呂を置いた方がいいかと思って、

「ミミ、これから見ることは内緒だからね。ミミが約束を守ってくれたらミミも一緒にお風呂に入れてあげるけど。」

「ミミはお風呂で英雄様のお世話をするように言われてますので、大丈夫です。英雄様が喋るなとおっしゃることは、例え番頭さんに怒られても話しません。」

「夕飯抜きにするって言われても話さない?」

「えー。夕飯抜きですか?えっと、それでも英雄様の言いつけを守って秘密にします。でもお水だけ飲ませて下さい。」

「大丈夫だよ。ミミは今夜は俺達と一緒にご飯を食べよう。俺の方から番頭さんにお願いしておくから。」

「本当ですか?絶対ですよ。約束ですからね。」

耳をピクピクしながら機嫌がよくなった。

「じゃあ、これからすることは内緒ね。」

そう言って、無限倉庫から岩風呂を出して、少しぬるくなったお湯を少し温めて、浄化して準備を終えた。
ミミは魂が抜けたみたいに放心している。

「ミミ大丈夫?じゃあ、部屋に戻って彩とアリスを呼んできてね。」

俺に言われて我に返ったミミはピコピコ尻尾を揺らしながら彩達を呼びに行った。洗い場をみると石鹸が置いてあった。俺達が使っている物と違ってかなり高級品みたいだ。鑑定すると、その成分が出てきた。これって、素材を揃えたら自作できるんだろうか?素材を記憶しておこう。できればこの商会で買えればいいけどな。後で聞いてみるか。
そんなことを思いながらのんびり身体を洗ってたら彩達がやってきてマッパになって俺の前に座った。

「彩この石鹸いつものと違ってかなり質がいいよ。」

「本当だ。香りもいいね。」

そう言いながらいつものようにお互い身体を洗い合った。

「ミミのお仕事がなくなりますー。ミミに洗わせて下さい。」

「そうか、じゃあ、ミミのお仕事をあげよう。ここに座って。俺に洗われるのがミミのお仕事だよ。」

「えっ?ミミも石鹸を使っていただけるので?ミミはじめてですー。あーでもミミが英雄様方を洗わないといけないのに。」

「じゃあ、今度、機会があったらミミが洗ってね。今は洗われる番だよ。ほら髪も洗うからね。目をつぶってないと目が痛くなるよ。」

「ふわー気持ちいいです。ここは精霊様の世界でしょうか。あーこんなに気持ちのいいことがあるなんて、ミミは幸せですー。」

「そうかよかったな、ミミ。じゃあ、アリスも座って。昨日はきちんと洗えなかったからね。今日はたぷり洗ってあげよう。」

「アリス、今日も髪を洗っていいの?嬉しい。お兄ちゃんおねがーい。」

アリスの髪は銀髪でサラサラしている。何もしなくても天使の輪が出る感じだけど、髪を洗って乾かすと本当に艶々して綺麗な髪になる。

身体を洗った後、湯船に入ると、ミミが湯船に入るのを遠慮した。

「おいでミミ。湯船でちゃんと温まらないとお風呂に入った意味がないよ。」

「でも、湯船はお嬢様と旦那様達だけが入るものですから、ミミが入るのは・・・」

「ミミは今日は俺のお風呂当番なんだろう?そしたら湯船の中でも俺達のお世話をしてくれなきゃ。ほら皆で一緒に入ると温まるだろう?」

「えっと、では、失礼しますです。」

「ふわー。これがお風呂ですか。凄いです。ご飯を食べるときのように幸せな気持ちになります。」

そうか、ご飯と一緒ぐらいなのかー。

「アリスも昨日初めて入った時はびっくりしたよー。こんな物があったなんて知らなかったよー。」

「なんだ、アリスの所はお風呂はなかったのか?」

「身体を洗うのは近くの泉に入る時だけだから。暑い時は滝に打たれると気持ちいいけど、寒くなると泉は冷たいしあんまり好きじゃなかった。」

「お湯を沸かすとかしなかったのか?」

「しないよ。お兄ちゃんがどうやってこのお風呂の準備をしているのか、アリスもちゃんと理解してないけど、お兄ちゃんは規格外なんだよ。大魔導師なのかと思ったし。」

「えー、英雄様は大魔導師様だったんですか?」

「いや、違うぞ。そもそも英雄でもないぞ。」

「拓哉は大魔導師じゃないわ。神様なのよ。」

「「えー。そうなの(やっぱり)」」

「やっぱりとか聞こえたけど、神様でもないからな。ただの放浪者だよ。」

「そうですか、放浪者様と言うのですね。素晴らしいですね。」

「ミミ、放浪者の意味解ってるよな?」

「はい。英雄様のさらに凄い方って意味なんですよね?」

「「「違う。」」」

おバカなおしゃべりをしながらたっぷりとお湯を楽しんだ後、着替えて部屋に戻った。身体を拭くのにタオル生地じゃないけど、かなり吸湿性のいい物が置かれていた。この生地も一緒に買っておこう。髪は俺が温風(火魔法と風魔法の組み合わせ)で全員乾かしてやった。アリスは今日買ったワンピースみたいな服を着けている。彩も今日買った新しい服を着けている、ちなみに下着は二人ともシルクのヒモパンだ。これも今日見つけた。かなり値が張ったけど、彩も気に入ったみたいで下着を全部これに切り替えたようだ。ついでに俺の下着とか服もいろいろ買わされたのでそれに着替えてる。俺自身は着るもは何でもいいんだけどな。彩とアリスにダメ出しされたので2人にお任せして選んで貰った。

夕食は大げさにしないで欲しいと念押ししていたので、部屋に運んで貰って自分達だけで取らせて貰った。約束通りミミも一緒に食べさせた。同じテーブルに着くことに最後まで抵抗してたけど、一緒に食べながら料理の解説をしてくれるようにお願いして何とか一緒に食べ始めた。

「これは、南方のシガという場所でとれる野菜です。炒めてもシャキシャキ感が残るのでこうした炒めものに使うと味だけでなく食感も上がっておいしさ倍増です。これはボアーの肉を数日たれに漬け込んだものですね。ボアーの肉の中でも肩の部分だけがこの柔らかさが出るんですよ。これは解体業者がきちんと処理しないとダメなんですよね。冒険者の方はボアーの毛皮の方にしか目がいってないですからね。皮剥ぎが雑になりがちなんです。」

食のことになると、ミミは残念な子じゃなくなるんだね。俺と彩とアリスに目配せして3人で納得した。

食事の後、番頭さんに呼ばれて買い取り商品の目録を渡された。今回の商品には入手が割と困難なものがいくつか含まれていたようだ。食器類とかもあったと思うけど、そっちは買い戻し目録に入っていなかった。破損していると思われてるのかな。

「了解しました。食器類とかもあった気がしますか、それらはよろしのですか?」

「はい、食器類はうちの方で在庫がありましたので問題ありません。それで買い取り価格なのですが、私どもの売値ではなく買値を基準に算定させて頂いてよろしいでしょうか?」

「あーそれは構いません。ただ、そちらの売値で構いませんので、手元に、オリーブ油、ハップル粉、塩、コル、あと香辛料や調味料があればそれで支払いにさせて頂ければありがたいのですか。あと、荷馬車と馬も特に壊れていないようですし、こちらの商会でお使いになるからそのまま引き取って頂ければと思います。その代わり俺達が移動できる小さい1頭だての馬車があればそれに換えて頂ければ大変ありがたいのですか。」

「それでは、タク殿の方が明らかに損ですが。」

「いえ、今回のことは本当に偶然討伐出来ただけですし、それに冒険者ギルドの方からも十分な討伐報酬金を貰ってます。俺自身、妻とアリスの3人暮らせるだけのものがあれば問題ないですし、迷宮に潜ればいくらでも稼げますのでお気になさらず。」

「いや、そうれはいかんですぞ。」

大きな声がして、大旦那様が部屋に入ってきた。

「具合は大丈夫ですか?」

「何の、心のつかえが取れましたので、気力も戻りました。それにタク殿との話は、わが商会の威信にかかわる話。わしがまとめなくてはならんのです。」

「娘の名誉も守って頂きました。本当にありがとうございます。」

あー気がついたのかな。ちょっと強引な話し過ぎたか。

「何度も申し上げていますが、今回の討伐は俺としても全くの偶然です。特に黒狼団を殲滅しようと思って動いた訳ではありません。たまたま現場を見て討伐したに過ぎません。」

「タク殿。黒狼団は、偶々で滅ぼされるような軟な盗賊団ではありません。我らの商会も過去に被害にあったことがありますし、この街のみならず王国、帝国やガノ王国の商人ですら被害にあったことがあるのです。あ奴らのお陰でこの街が発展できなかったと言っても過言ではないぐらいなのですじゃ。本来であれば街の商工会を上げてタク殿にお礼を差し上げたいほどです。しかしタク殿は恐らく急いでこの国を出たいご様子。何のお礼もできないままタク殿を送り出したとなったら、ワシの商会は不義理を働いた商会として皆に後ろ指を指されるだろうて。」

「先ほどこちらの番頭さんにも言いましたが、俺も欲しいものが手に入るし、俺が使わない物品を一気に売ることが出来る。馬車もどの道、買い替えなければならないところ新しい馬車を手に入れられる。これほどの好条件はありませんよ。」

「それはそれじゃ、我らの感謝の気持ちをお伝えできぬ。」

「それでは、今日俺達についてくれたミミを俺に譲って下さいませんか?大旦那様が可愛がっておられると聞いております。」

「ミミをですか?英雄殿のお役に立てるとは思えませんが。」

「いえ、俺にとっては大変興味深い子です。妻たちとも気が合いそうですし。勿論、ミミ本人と大旦那様の御意向を優先させて下さい。」

その後も若干買い取り価格や謝礼の条件で折り合いがつかなかったけど、取り敢えず当初の通り、俺の欲しいものと物々交換の形で買い取りをして貰うことになった。謝礼については、娘の小刀を込みで白金貨単位に話になったので丁寧にお断りし、その代わり各地の勇者の情報について内密に集めて貰うことにした。2、3ヶ月後ぐらいにはもう一度訪ねることを約束した。そして俺達のことはなるべく他言しないようにお願いした。大旦那様は、なんとなく察している感じだ。もしかしたら俺達の手配書が回ってきてるのかもしれない。
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