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第一章 アルンガルト王国編

王城脱出

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取り敢えず、異世界に召喚されたのは間違いなさそうだ。そして召喚したやつらは俺達を騙そうとしている。とは言っても、俺がクラスのやつらにそう言ってもこいつら聞く耳を持ちそうもないな。こいつらと運命を共にする必要もないしな。折を見て逃げ出す方がよさそうだ。
そうこうしているうちにクラスのやつらが目を覚ましたようだ。俺の上に倒れていた宮部彩も気がついて自分の状態をみて慌てて飛びのいた。おいおい、周りの状況よりも俺に寄り掛かっていた方がびっくりなことなのかよ。まあこいつもカースト外だからな。カースト上位者に目を付けられて俺と同じ目にあったら一日も持たないだろうな。
しばらくして、俺も今目を覚ました振りをして起き上がった。宮部は俺に背を向けてるからどんな顔をしているのかわからないけど、少し焦っている感じだ。周りのやつにばれてなきゃいいな。

「ここはどこだよ。」

「もしかして異世界?」

「おー異世界チートってやつ?」

「俺、勇者候補になってるし、やりー。」

目覚めてこの状況を受け入れたやつが口々に喋り出した。


「勇者の皆さま、よくぞアルンガルト王国へおいで下さいました。」

この声はさっき隷属の首輪がどうとか言ってたやつだ。鑑定すると職業が宰相となっている。

「これはどういうことですの?説明をしなさい。」

高飛車な発言をしたのは、このクラス、いやマトタ学園のカーストトップである現マトタ会長の孫娘、的田茜だ。鑑定すると、


氏名 的田茜
年齢 17歳
性別 女性
種族 人族
職業 勇者
レベル 1
経験値 0
体力  250
魔力  250
筋力  250
敏捷  250
回避  250
防御  250
知恵  70
精神  70
幸運  70
スキル 聖剣術(LV1)、火魔法(LV1)、水魔法(LV1)、風魔法(LV1)、土魔法(LV1)、聖魔法(LV1)
補正  異世界転移者(自動翻訳、能力値上昇)、勇者


「茜、そういう言い方は控えた方がいいよ。僕達は今アウェー状態だからね。」

カーストトップの的場茜に意見が出来るのは、こいつもカーストトップだからだ。的場一族、現社長の息子の的場直也。こいつのステイタスは、


氏名 的田直也
年齢 17歳
性別 男性
種族 人族
職業 勇者
レベル 1
経験値 0
体力  250
魔力  250
筋力  250
敏捷  250
回避  250
防御  250
知恵  90
精神  90
幸運  90
スキル 聖槍術(LV1)、火魔法(LV1)、水魔法(LV1)、風魔法(LV1)、土魔法(LV1)、聖魔法(LV1)
補正  異世界転移者(自動翻訳、能力値上昇)、勇者


ざっとクラスのやつらを鑑定してみると、職業が勇者になっているのはこの2人だけ。あとカースト順に、勇者候補になっているのが6人。勇者見習いになっているのが12名。残り14名は勇者(仮)となっている。俺以外は全員、勇者がついている。
ちなみに「勇者」補正がついているのは的田の2人だけ、魔法も5つ使えるみたいだ。後のやつらは魔法スキルを2つから3つ所持していて、剣術、槍術、体術のスキルを持っているやつもいる。


「勇者の皆さまに詳しくご説明をいたしますので、どうぞこちらにお越しください。国王が直接御説明いたします。移動の間に、まだの方々は「ステイタス」と唱えて下さい。御自分の状況が把握できると思います。それでは、こちらに。」

そう言うと、宰相を先頭にして武道館みたいな場所から全員移動を始めてた。すると俺達一人一人に、男子にはメイドさんが女子には執事服さんが隣について誘導をしてくれた。中には鼻の下を伸ばしている奴もいるようだけど、これって途中で逃げないように監視する役目を持ってるんじゃないって穿った見方をしてしまって、俺に付いてくれたメイドの少女を半ば無視して歩いて行った。勿論、歩く順番はカースト順だ。

歩いている間中、俺は目に見える物、人全てを鑑定しまくった。俺の場合ステイタスと言わなくても情報が見えるけどなって思って、念のため「ステイタス」を唱えてみたら、今まで鑑定で見ていた情報のほんの一部だけが見えた。こんな感じだ。

氏名 龍崎拓哉
年齢 17歳
種族 人族
職業 異世界転移者
レベル 1
スキル 索敵、気配遮断、超聴覚

目の前を歩いている宮部は、こんな感じだ。

氏名 宮部彩
年齢 17歳
種族 人族
職業 勇者(仮)
レベル 1
スキル 火魔法、水魔法、風魔法



長い廊下をくねくねと歩き、10分ほどして巨大な扉のある大広間みたいな場所に着いた。何段か高くなった場所に金ぴかのイスに座っている国王がいた。

「よくぞ参られた、異世界の勇者よ。余は、アルンガルト王国王、ヨーゼス・フォン・アルンガルトじゃ。」

「僕は、的田直也といいます。クラスを代表してお訪ねしますが、僕達が勇者と言うのはどういうことでしょうか。僕達はいきなりこの世界に連れてこられたのですが、元の世界に戻れるんでしょうか?」

「我らの都合でこのアルガイアの世界へ召喚したことを申し訳なく思う。しかし、我らアルガイアの地には、魔王の侵略の危機が迫っておるのじゃ。勇者殿達を元の世界に戻すための手段は我ら人族の知識にはない。しかし、こうして勇者殿達を召喚出来たのは魔族が持つ魔法を我らが解読したからじゃ。魔王を撃てば魔族が持つ全ての魔法を手に入れることが出来る故、元の世界に戻れる魔法も見つかるであろう。」

「それじゃあ、絶対に元に戻れるって訳ではないのね。」

「茜、今はそれを言っても仕方ない。戻れる可能性があるのが魔法討伐だと言うのなら、それにかけるのも一つの手だと思うよ。」

「でもよ、直也、それを俺達がしなくちゃいけないって理由はないんじゃね?」

「そうだけど、ここでは僕達は無力だ。ステイタス的にはもしかしたら優遇されているのかもしれないけど、LV1になってるだろう?研も。まずは、自分達が生き残れる力をつけるべきじゃないのか?」

カーストトップの連中だけで相談してるけど、クラス全体の意思は関係ないのかねぇ。

「勇者殿たちにも、思うところはあるでしょう。まずは、この城で武術と魔法の鍛錬を受けられて、それからどうするか考えられてもよろしいのではないですかな。」

あの宰相の役職を持つやつが、媚びた目をしながら提案してきた。ラノベ的にはここで御姫様の登場だけどなぁって思ったら、テンプレ通り、立て巻き髪の金髪の第一王女とやらが、

「勇者の皆さま、どうか我が国の民を御救い下さい。」

とテンプレ通りの御発言。クラスの男子は全員、魔王討伐を承諾しそうな雰囲気だ。俺としてはこういう茶番に付き合ってられないので、

「この国が召喚し、用があるのは勇者なんだよな?勇者じゃないやつは戦う必要はないんだよな?」

クラスの一番後ろにいた俺がいきなりこう切り出すと、一瞬シーンと静まった後、クラスのやつからは蔑みの目で見られて、

「カチナシは、異世界に来ても価値なしか。お前はこの世界でもランク外ってどんだけだよ。いらない子だから出て行っていいんじゃね。」

「カチナシ殿とおっしゃるのですかな。勇者でないとはどういうことでしょうか?」

宰相が俺に尋ねてきた。その発言にクラスのやつらの中に失笑が起きる。

「俺の名前は龍崎拓哉、こっちの言い方をすれば、タクヤ・リュウザキだ。で、勇者じゃないって言うのはそのままの意味だ。「ステイタス」でみると、職業欄は異世界転移者となっているし、ステイタス欄にも勇者とか何もないしな。他のやつの話を聞いてると、皆職業欄に勇者とか、勇者候補とかあるんだろう?」

「そうですか、それではタクヤ殿は今回の召喚に巻き込まれたと言うことかもしれませんな。他にも、同じように勇者ではない方がいらっしゃいますかな。」

「あの、私もそうです。勇者じゃありません。」

な、宮部お前は勇者(仮)になってるんじゃん。一応勇者候補なんじゃないの?って思ったけど、この場で言えそうもなかったのでそのまま見守ることにした。

「特待生の2人はいずれもいらない子か。まあ仕方ないんじゃない。」

「おい、クラスメートに何を言ってるんだ。仮に勇者じゃないとしても、龍崎君達は僕達の勇者召喚に巻き込まれた被害者だぞ。」

カーストトップの優等生的発言で、俺達に向けられていた蔑みの雰囲気は霧散したけど俺としては余計なことなんだけどなぁ。

「このような事態を想定していませんでしたので少し驚きましたが、それでは謝罪の気持ちを込めて十分な金貨をお渡ししますので、御二方は魔王討伐がなるまで市中で暮らして頂くということでは如何でしょうか?」

「俺はそれで構わないよ。どのくらい時間がかかるのか解らないし、できればこの国で働けるような場所を教えてもらえるとありがたいが。」

「そうですなぁ。武術や魔法が使えるなら冒険者ギルドに登録して冒険者として生活するのが一番簡単ではありますが、採集などの依頼もあるようですし、例え武術や魔法を使えなくともくらせますぞ。奴隷のまま冒険者登録している者もおりますしな。あとは農作業か、あるいは商人のところで働くとかしかないかと。」

「じゃあ、職探しは自分でやります。その分多少支度金を頂けるとありがたい。」

「あ、あの、私もそれでいいです。龍崎君と一緒の条件で。」

宮部、本当に出て行くつもりなんだな。

「いずれにせよ、今宵は部屋でゆっくり休んで、パーティーで楽しむがよかろう。」

なんか予定の段取りと違う話になって若干不機嫌そうな王様が退出した。

「それでは、勇者の・・」

「あー。俺はこのまま、城を出て行かせて貰いたいんだけど。勇者じゃないものが勇者召喚のパーティーに出る訳にもいかないし。」

「解りました。ではタクヤ殿は、このまま城下にご案内します。」

「私も、龍崎君と一緒に出て行きます。よろしくお願いします。」

面倒だなぁって思ったけど、ここでなんだかんだ言っても余計に話が面倒になるので、宮部の好きにさせた。俺はこの部屋を出る前に的場直也の近くに寄って、

「さっきはどうも。俺が言っても信用ないけど、この国には注意した方がいいぜ。特に首輪を与えられそうになったら十分に考えて受ける方がいいぜ。」

それだけ言って、さっさと宰相の元に向かい城を出る手続きをして貰った。いくつかの建物といくつかの城門を潜って王城の一番外の門までやっと辿りついた。どんだけ広いんだこの城。支度金として金貨10枚ずつ支給された。日本円に換算して100万円程になる感じだ。物価は日本よりも少し安いぐらい。金貨1枚で銀貨100枚の価値があり、銀貨1枚が日本円で1000円程。宿屋が一泊銀貨5枚程らしい。
無理やり異世界から召喚して、その慰謝料的な支度金が金貨10枚って言うのが高いのか安いのか解らないけど、俺としては一刻も早くこの国を出たかったのでいくらでもよかった。
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