Magical×Debtor/Girls=魔法少女はローン持ち+返済できれば何でもします!

久末 一純

文字の大きさ
上 下
41 / 45

わたし、魔法少女のパートナーができちゃったみたいです(もうこんなのでもいいですよ)

しおりを挟む
 妹の肩を支えたまま元の場所に戻ると、従者にガラスの靴を差し出されたシンデレラが今にもそれに足を入れようとしているところだった。
 
 皆が見守る中、シンデレラがガラスの靴に右足を入れると、少しもつっかえることもなく、ぴたりと入る。
 
「おお……! 貴方こそがシンデレラだったのですね……」
 
 まるでシンデレラのためにあつらえたようにぴたりとはまり、従者が感嘆の声をあげた。
 
「そんな……。まさかシンデレラが……。ありえないわ……」
 
 母上は信じられないといった様子で目を見開いているし、落胆したような一番目の妹、二番目の妹にいたってはギリギリと悔しそうに歯ぎしりをしている。
 
 私にいたっては、ある程度予測出来ていた状況なので驚いてはいない。
 
 私が履いていた靴だが、シンデレラも私と同じく小さな足であるし、それに元々シンデレラの魔法で出した靴だ。ぴたりとはまるのも無理はないだろう。
 
「本当に、君が?」
「ええ、私がシンデレラでございます」
 
 ガラスの靴がぴたりとはまっても、まだ信じられない様子のエリオット様にシンデレラは小さく礼をする。
 
「少し二人で話せるかな?」
 
 そうエリオット様に告げられると、シンデレラはちらりと私を見てから、うやうやしく頷き、にこりと微笑む。
 
「はい、もちろんでございます。兄も一緒でよろしいでしょうか?」
 
 なぜ私も? シンデレラ、お前は一体何を考えているんだ。シンデレラの考えが全く分からなかったが、断るわけにもいかない。
 
 まだ呆然としている母上や妹たち、それからエリオット様の従者をその場に残し、仕方なく三人で客室へと向かうことになった。
 
 *
 
「いきなりで悪いんだけど、本当に君がシンデレラなのか確信が持てないんだ」
 
 三人だけになってからしばらくして、やはり困ったような笑みをお浮かべになられたエリオット様にもシンデレラは動じることなく口を開く。
 
「この姿では無理もございません。お見苦しい姿で失礼いたしました」
 
 二人から少し離れたところで控えていると、シンデレラはスカートから濡れたハンカチを取り出し、おもむろに顔をふきだす。
 
「.......、っ」
 
 シンデレラがすすだらけの顔をふき、白い肌があらわれると、なんとその顔は私と瓜二つ。
 
 なんと……、なんということだ。こんなこと、ありえるはずがない。
 
 思わず声を上げそうになってしまったが、すんでのところで息をこらえ堪える。
 
 エリオット様のご様子を伺うと、たいそう驚いていらしたが、それでもシンデレラしか見えないといったご様子でくぎづけになっていらっしゃった。
 
 エリオット様……。仕方ないことだとは分かっていても、シンデレラをお見つめになるエリオット様に胸がひどく痛む。
 
 ご自身の衣服が汚れることも気にされず、シンデレラのすすだらけの手をしっかりと握ったエリオット様をシンデレラもうっとりと見つめる。
 
 完全に二人の世界といった様子にやはり胸が切り裂かれるような痛みはやまず、ついに見ていられなくなって目を伏せてしまった。
 
 エリオット様は王子様であらせられるだけではなく、見目麗しく、人の心を掴む不思議な魅力溢れるお方。シンデレラは心に決めた人がいると言っていたが、エリオット様を拝見して心が変わったとしても何もおかしくはない。
 
 そもそも私はもとよりシンデレラの代役であったわけだし、シンデレラがエリオット様のおそばにいたいと言うのなら、私は譲るべきだろう。しかし……。
 
 昨晩の娘は私でございます、お慕い申し上げております。本当は、今にもそう叫びたくてたまらない。
 
 たった一晩のわずかな時間ではあったが、私は一瞬で恋に落ちてしまった。
 
 これを人に言えば、浅はかで無知だと言われるだろうが、それでもこれはシンデレラの言っていたような「本物の恋」に間違いないと自分でははっきりと確信している。
 
 しかし、常に騎士として自分を律してきた習性のためか、何一つ口に出すことができないまま、ただその場に控えることしかできなかった。
 
 エリオット様のお顔を拝見すると、砂糖菓子のようにふわふわと甘く幸せがこみ上げてくる。しかし、そのまなざしが他の娘に注がれているかと思うと、身が切り裂かれるかのような痛みを感じる。
 
 こんな気持ちは、今まで知らなかった。
 
 自分の身に恋などということが訪れるなどと思いもしなかったが、それだけに頭からつま先まで全身が支配されてしまうほどの抗えない感情がわき起こる。
 
いっそ知らなかった方が良かったとさえ思ってしまうほどだったが、しかし今さらなかったことになんてできるわけもない。もう私は、確かに「恋」を知ってしまったのだから。
 
「一目見た瞬間から君のことが頭から離れないんだ。どうか、僕の妻となってほしい」
 
 エリオット様のそのお言葉に伏せていた顔をあげてそのお姿を拝見すると、今までよりもいっそう胸が締め付けられ、剣で身体を貫かれたような痛みが走った。
 
 王子様ともあろうお方が片膝をつき、シンデレラの手を取り求婚なさっている。
 
 ああ……、シンデレラがひどくうらやましく妬ましくて仕方ない。
 
 本来であれば、エリオット様に愛される幸せな娘は私であったはずなのに。いや、そもそも私は代役だったのだから、そんなことを思うのは筋違いではあることは十分に分かっている。
 
 シンデレラを恨むのも羨ましく思うことも道理ではないと分かってはいるのだが、そう思わずにはいられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...