33 / 45
わたし、魔法少女になってもお腹はすくんです(そういうところは変わらないんですね)
しおりを挟む
そんなこんなでいろいろあって、どうにかこうにか家に帰ってくることができたわたし。
いつもどおりの日常に、「ただいま」することができたわたし。
そこに「おかえり」を返したのが、非日常の象徴みたいなこの緑の目だった。
あんたが言うな、といろいろな意味で思ったけれど。
それでも、何もないより全然よかった。
こんなのでも、あってくれて全然よかった。
「おかえり」と言われたそのとき、わたしのこころがほっと楽になったのはたしかだったから。
ひとが生活を始める合図のように、真っ暗な部屋に灯りをつける。
柔らかな灯りのなかに、いつもと何も変わらない日常が浮かびあがる、
変わってしまったのは、もうお母さんがいないこと。
そしてなぜかそこに、この緑の目が増えたこと。
まるで失くした代わりだとでも言うように。
これで足し引きは等しくなったと言わんばかりに。
そんな計算あってたまるか。
この緑の目が、わたしのお母さんの替わりになるもんか。
失くしてものに、足りるもんか。
でもこの緑の目の「おかえり」が、わたしがちゃんと帰ってきたことを感じさせてくれたのは事実だった。
ホントはとっても単純なことなのかもしれないけど。
わたしは、何だかとっても複雑な気分だった。
「どうかしたの? 真逆自分の帰る場所を間違えちゃったとか言わないよね?」
そこに当の緑の目が、いつもどおりの落ち着いた口調ではなしかけてくる。
その悪意のまったくない嫌味もいつもどおりだ。
「そんなわけないでしょ。ちゃんと自分の鍵でドアを開けたんだから」
そこはあんたも見てたでしょ。
「確かにそうだったね。ただ初めて来たところを見るような目をしていたから、もしかしたらと思って。そうだね、キミがそんなことをするわけなかったね」
そんなこと言ったって、どうせ最初からわかってて言ったくせに。
その目の色と違って、口にする言葉は漂白したみたいに白々しい。
それにもしわたしがそんな目をしてたなら、その原因はあんたにある。
何も変わらない日常のなかに、急に異物が紛れ込んだら誰だってそんな反応になると思う。
それだって、いつの間にか何も変わらない日常に塗り替えられていく。
変わらないものがあるんじゃなく、変わったものが代わるだけ。
誰も気づかず、誰にもわからいうちに。
でもそれって、変わらないってことは同じことで、気づかないってことは気にならないなことで、わからないってことはどうでもいいことなんだろう。
わたしの日常もそうなっていくんだろうか。
いまは特別だと思えることが、何でもないことになっていくんだろうか。
魔法少女になることが自然になって。
魔法少女でやることが当然になって。
魔法少女で在ることが、日常になったとき。
もしそんな日がきたら、そのときわたしは、どこに帰ってくればいいんだろうか。
そのときわたしは、この家に帰ってくることができるんだろうか。
でもそんなこと、いま思ったってしょうがない。
いまはまだ、帰るべき家と日常がある。
それだけで十分、幸せだ。
それにいまは、おまけまでついている。
それだけは、余計なもののような気がしないでもない。
だけどそれも全部まとめて、わたしの新しい日常になっていくんだろう。
そんななか、いつもどおりわたしを迎えてくれたこの部屋はホントにありがたい。
ホント、何もなく変わってなくてよかった。
盗られるようなものなんて何もないけど、家具の位置とか変わってたらどうしようかと思った。
そんなことになってたら、わたしは押入れを背中にして立つことができない。
魔法少女は人を殺せるみたいだけど。
お化けとかは、殺せるんだろうか。
もうとっくに死んでいる、もうとっくに終わってしまったしまったものを、どうにかできるんだろうか。
何とかすることができるんだろうか。
そんなことを些細なことを訊こうと思い、「ねえ」と声をかけた瞬間だった。
わたしのお腹の虫が、グゥーっと大きな悲鳴をあげたのは。
「今日は大活躍だったからね。まずは食事を済ませてから話そうか。キミが訊きたいことも、ボクが説明したいことも、全部ね」
「……うん、そうだね」
わたしはお腹の音をバッチリ聞かれた居心地の悪さで、その提案に素直に従った。
この緑の目はそんなこと、全然気にしていないのに。
それが何だか不公平だ。
それに癪だけど、お腹がすくのはどうしようもない。
生きてるんだからしょうがない。
だけど。
動いたら、その分お腹が減るのはしょうがない。
でもただ生きてるだけでお腹が減るのは、やっぱり何だか不公平だ。
わたしはそんなどうしようもないことを思いながら、冷蔵庫の扉に手をかけた。
いつもどおりの日常に、「ただいま」することができたわたし。
そこに「おかえり」を返したのが、非日常の象徴みたいなこの緑の目だった。
あんたが言うな、といろいろな意味で思ったけれど。
それでも、何もないより全然よかった。
こんなのでも、あってくれて全然よかった。
「おかえり」と言われたそのとき、わたしのこころがほっと楽になったのはたしかだったから。
ひとが生活を始める合図のように、真っ暗な部屋に灯りをつける。
柔らかな灯りのなかに、いつもと何も変わらない日常が浮かびあがる、
変わってしまったのは、もうお母さんがいないこと。
そしてなぜかそこに、この緑の目が増えたこと。
まるで失くした代わりだとでも言うように。
これで足し引きは等しくなったと言わんばかりに。
そんな計算あってたまるか。
この緑の目が、わたしのお母さんの替わりになるもんか。
失くしてものに、足りるもんか。
でもこの緑の目の「おかえり」が、わたしがちゃんと帰ってきたことを感じさせてくれたのは事実だった。
ホントはとっても単純なことなのかもしれないけど。
わたしは、何だかとっても複雑な気分だった。
「どうかしたの? 真逆自分の帰る場所を間違えちゃったとか言わないよね?」
そこに当の緑の目が、いつもどおりの落ち着いた口調ではなしかけてくる。
その悪意のまったくない嫌味もいつもどおりだ。
「そんなわけないでしょ。ちゃんと自分の鍵でドアを開けたんだから」
そこはあんたも見てたでしょ。
「確かにそうだったね。ただ初めて来たところを見るような目をしていたから、もしかしたらと思って。そうだね、キミがそんなことをするわけなかったね」
そんなこと言ったって、どうせ最初からわかってて言ったくせに。
その目の色と違って、口にする言葉は漂白したみたいに白々しい。
それにもしわたしがそんな目をしてたなら、その原因はあんたにある。
何も変わらない日常のなかに、急に異物が紛れ込んだら誰だってそんな反応になると思う。
それだって、いつの間にか何も変わらない日常に塗り替えられていく。
変わらないものがあるんじゃなく、変わったものが代わるだけ。
誰も気づかず、誰にもわからいうちに。
でもそれって、変わらないってことは同じことで、気づかないってことは気にならないなことで、わからないってことはどうでもいいことなんだろう。
わたしの日常もそうなっていくんだろうか。
いまは特別だと思えることが、何でもないことになっていくんだろうか。
魔法少女になることが自然になって。
魔法少女でやることが当然になって。
魔法少女で在ることが、日常になったとき。
もしそんな日がきたら、そのときわたしは、どこに帰ってくればいいんだろうか。
そのときわたしは、この家に帰ってくることができるんだろうか。
でもそんなこと、いま思ったってしょうがない。
いまはまだ、帰るべき家と日常がある。
それだけで十分、幸せだ。
それにいまは、おまけまでついている。
それだけは、余計なもののような気がしないでもない。
だけどそれも全部まとめて、わたしの新しい日常になっていくんだろう。
そんななか、いつもどおりわたしを迎えてくれたこの部屋はホントにありがたい。
ホント、何もなく変わってなくてよかった。
盗られるようなものなんて何もないけど、家具の位置とか変わってたらどうしようかと思った。
そんなことになってたら、わたしは押入れを背中にして立つことができない。
魔法少女は人を殺せるみたいだけど。
お化けとかは、殺せるんだろうか。
もうとっくに死んでいる、もうとっくに終わってしまったしまったものを、どうにかできるんだろうか。
何とかすることができるんだろうか。
そんなことを些細なことを訊こうと思い、「ねえ」と声をかけた瞬間だった。
わたしのお腹の虫が、グゥーっと大きな悲鳴をあげたのは。
「今日は大活躍だったからね。まずは食事を済ませてから話そうか。キミが訊きたいことも、ボクが説明したいことも、全部ね」
「……うん、そうだね」
わたしはお腹の音をバッチリ聞かれた居心地の悪さで、その提案に素直に従った。
この緑の目はそんなこと、全然気にしていないのに。
それが何だか不公平だ。
それに癪だけど、お腹がすくのはどうしようもない。
生きてるんだからしょうがない。
だけど。
動いたら、その分お腹が減るのはしょうがない。
でもただ生きてるだけでお腹が減るのは、やっぱり何だか不公平だ。
わたしはそんなどうしようもないことを思いながら、冷蔵庫の扉に手をかけた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
転生少女は黒猫メイスと異世界を冒険する
うみの渚
ファンタジー
ある日、目が覚めたら異世界に転生していた主人公。
裏庭で偶然出会った黒猫に魔法を教わりながら鍛錬を重ねていく。
しかし、その平穏な時間はある日を境に一転する。
これは異世界に転生した十歳の少女と黒猫メイスの冒険譚である。
よくある異世界転生ものです。
*恋愛要素はかなり薄いです。
描写は抑えていますが戦闘シーンがありますので、Rー15にしてあります。
タイトルを変更しました。
いいねとエールありがとうございます。
執筆の励みになります。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる