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わたし、魔法少女のときのことは言えません(それはひとつのお約束ってやつですよね)
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それからわたしは自分の気のすむまで、京に抱きついたままだった。
もう空の色はは夕暮れの気だるい赤から夜の昏い青に変わっていたけど、そんなの全然気にしなかった。
体ごとのっかるように、京の両手ごと締めるように腰の後ろに手を回し、わたしより柔らかい胸に顔を埋めたままだった。
もうこの熱を失わいように。
もうこの生命を逃さないように。
もうこれはとっくにわたしのものなんだと、見せつけたやるように。
そんなわたしに抱きつかれているあいだ、京は「なんであたし抱きつかれるの?」とか「くすぐったいよこいし」とか「あれ? なんか痛くなってきたんだけど」とか「これってハグじゃなくて鯖折りなんじゃ……」とか色々言っていたけど、それも全部気にしなかった。
それでも京はわたしを振りほどいたりすることなく、「しょうがないなぁ」と言いながら黙ってわたしのされるがままになっていた。
ホントは腕と足の関節を極めてるから、抜け出したくてもできないよういしてるんだけど。
そうして気のすむまで抱きついてそのあったかさと柔らかさを堪能したあと、わたしはようやく顔を上げた、
そんなわたしを見て、「もういいの?」と訊いてくる京に、「うん、ありがとう」と答え、わたしは体と腕を離して京を解放した。
上にいなってるわたしがそのまま先に立ち上がって、京に手を差し出した。
京は「ありがと」と言って、わたしの手をとってくれる。
わたしが転ばないよう、体重をかけずにゆっくり立ち上がってくれた。
そんな優しい友だちが戻ってきてくれて、わたしはホントに嬉しかった。
こんなに優しくしてくれるひとをなくさずにすんで、ホントにわたしは満足だった。
そうしてひととおり落ち着いたあと、京から「なんでこいしがここにいるの?」と「なんでわたしこんなところで倒れてたの?」というふたつの「なんで?」がわたしに向かって投げかけられる。
まあ当然だよね。
だから当然、予想してたよ。
わたしがここにいる理由は、借りていたノートを返すため回れ右して京を追いかけたと伝えた。
「わたしが京から借りてた休んでたあいだの授業のノートがあったでしょ写した分は早く返そうと思ってたらうっかり忘れちゃってそれで急いで追いかけたんだ」
その途中で倒れている京を見つけて介抱していたことを説明した。
「きっと軽い貧血か何かじゃないかな部活の疲れがでたんだねでも念のためあとで病院に行ったほうが良いと思うよ。なんたって京は陸上部のエースなんだから」
そんな話しを全部まとめて一気にまくしたてられた京は、なんだか狐につままれたような、狸にばかされたような、いまいちしっくりこないという顔になっていた。
でも京は「まあ、こいしがそう言うなら」と何とか一応、納得してくれた。
京にとってはわけのわからないこの状況に、わたしの話しを聞いて折り合いをつけてくれた。
そう、ホントのことを知らない以上、納得するしかない。
わたしがホントのことを言わない以上、納得してもらうしかない。
それにどうせホントのことは言えないし。
姿は見えなくても、声はきこえなくても、さっきから緑色の視線が背中にグサグサ刺ささってる。
余計なことは言わないようにって。
それこそ、言われなくもわかってる。
もしかして、京がどんなふうに倒れてて、それをどんなふうに介抱したか、わたしが喋ると思ってるんだろうか。
もしかしなくても、思ってるんだろうなあ。
「可能性のひとつとして考慮していただけだよ」なんて言いながら。
たしかにわたしはホントのことを言ってないけど。
だけど嘘を言ってるわけじゃない。
京のことを偽ってるわけでもない。
借りたノートは、ホントにちゃんと写してカバンのなかに入ってる。
いろいろあって倒れていた京を介抱したのもホントのことだ。
ただ正しくないなだけで。
間違ってるわけじゃない。
適当な事実を詰めこんだだけの、ただの何もないカラッポの殻が真実ってものなんだから。
それが中身のない虚構だったとしても、単なるかたちのない物語だったとしても
真実なんて、そんなものでいいはずだ。
そんな程度の価値さえあれば、それで十分足りる。
どんなものであったとしても、本人さえ受け入れたならそれでだけでいいはずだ。
その殻がメッキでも、ハリボテでも、カラッポのなかに何が詰まってようとも。
ひとが信じた虚構だけが、ひとが信じた物語こそが、信じたひとにとってだけのホントのことになるんだから。
もう空の色はは夕暮れの気だるい赤から夜の昏い青に変わっていたけど、そんなの全然気にしなかった。
体ごとのっかるように、京の両手ごと締めるように腰の後ろに手を回し、わたしより柔らかい胸に顔を埋めたままだった。
もうこの熱を失わいように。
もうこの生命を逃さないように。
もうこれはとっくにわたしのものなんだと、見せつけたやるように。
そんなわたしに抱きつかれているあいだ、京は「なんであたし抱きつかれるの?」とか「くすぐったいよこいし」とか「あれ? なんか痛くなってきたんだけど」とか「これってハグじゃなくて鯖折りなんじゃ……」とか色々言っていたけど、それも全部気にしなかった。
それでも京はわたしを振りほどいたりすることなく、「しょうがないなぁ」と言いながら黙ってわたしのされるがままになっていた。
ホントは腕と足の関節を極めてるから、抜け出したくてもできないよういしてるんだけど。
そうして気のすむまで抱きついてそのあったかさと柔らかさを堪能したあと、わたしはようやく顔を上げた、
そんなわたしを見て、「もういいの?」と訊いてくる京に、「うん、ありがとう」と答え、わたしは体と腕を離して京を解放した。
上にいなってるわたしがそのまま先に立ち上がって、京に手を差し出した。
京は「ありがと」と言って、わたしの手をとってくれる。
わたしが転ばないよう、体重をかけずにゆっくり立ち上がってくれた。
そんな優しい友だちが戻ってきてくれて、わたしはホントに嬉しかった。
こんなに優しくしてくれるひとをなくさずにすんで、ホントにわたしは満足だった。
そうしてひととおり落ち着いたあと、京から「なんでこいしがここにいるの?」と「なんでわたしこんなところで倒れてたの?」というふたつの「なんで?」がわたしに向かって投げかけられる。
まあ当然だよね。
だから当然、予想してたよ。
わたしがここにいる理由は、借りていたノートを返すため回れ右して京を追いかけたと伝えた。
「わたしが京から借りてた休んでたあいだの授業のノートがあったでしょ写した分は早く返そうと思ってたらうっかり忘れちゃってそれで急いで追いかけたんだ」
その途中で倒れている京を見つけて介抱していたことを説明した。
「きっと軽い貧血か何かじゃないかな部活の疲れがでたんだねでも念のためあとで病院に行ったほうが良いと思うよ。なんたって京は陸上部のエースなんだから」
そんな話しを全部まとめて一気にまくしたてられた京は、なんだか狐につままれたような、狸にばかされたような、いまいちしっくりこないという顔になっていた。
でも京は「まあ、こいしがそう言うなら」と何とか一応、納得してくれた。
京にとってはわけのわからないこの状況に、わたしの話しを聞いて折り合いをつけてくれた。
そう、ホントのことを知らない以上、納得するしかない。
わたしがホントのことを言わない以上、納得してもらうしかない。
それにどうせホントのことは言えないし。
姿は見えなくても、声はきこえなくても、さっきから緑色の視線が背中にグサグサ刺ささってる。
余計なことは言わないようにって。
それこそ、言われなくもわかってる。
もしかして、京がどんなふうに倒れてて、それをどんなふうに介抱したか、わたしが喋ると思ってるんだろうか。
もしかしなくても、思ってるんだろうなあ。
「可能性のひとつとして考慮していただけだよ」なんて言いながら。
たしかにわたしはホントのことを言ってないけど。
だけど嘘を言ってるわけじゃない。
京のことを偽ってるわけでもない。
借りたノートは、ホントにちゃんと写してカバンのなかに入ってる。
いろいろあって倒れていた京を介抱したのもホントのことだ。
ただ正しくないなだけで。
間違ってるわけじゃない。
適当な事実を詰めこんだだけの、ただの何もないカラッポの殻が真実ってものなんだから。
それが中身のない虚構だったとしても、単なるかたちのない物語だったとしても
真実なんて、そんなものでいいはずだ。
そんな程度の価値さえあれば、それで十分足りる。
どんなものであったとしても、本人さえ受け入れたならそれでだけでいいはずだ。
その殻がメッキでも、ハリボテでも、カラッポのなかに何が詰まってようとも。
ひとが信じた虚構だけが、ひとが信じた物語こそが、信じたひとにとってだけのホントのことになるんだから。
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