Magical×Debtor/Girls=魔法少女はローン持ち+返済できれば何でもします!

久末 一純

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わたし、魔法少女の仕事の真っ最中です(仕事って難しいものですね)

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 あいつらがいったいどうするか。
 そんなのもちろん決まってる。
 もし、お友だちが、いじめられてるのを見たときは?
 無視をするに決まってる。
 は自分じゃないからと、無視をするに決まってる。
 じゃあ、お友だちが、苦しんでるのを見たときは?
 放っておくに決まってる。
 苦しみは自分のものじゃないからと、放っておくに決まってる。
 それなら、お友だちが、いまにも殺されそうなのを見たときは?
 何もしないに決まってる。
 自分に関係ないから、何もしないに決まってる。
 じゃあ、あいつらが、
 わたしが、弱いところを見せたとき。
 あいつらが、弱いものを見つけたとき。
 襲われるに決まってる。襲ってくるに決まってる。
 あの子みたいに、襲われるに決まってる。
 あの子のときみたいに、襲ってくるに決まってる。
 そして、、どうするか。
 あいつらをいったいどうするか。
 そんなのもちろん決まってる。
 わたしの友だちが、食べられてるのを見ちゃったから。
 あいつらを見ていることに、これ以上耐えられないから。
 心の飢えを、知っちゃったから。
 どうすれば満たされるか、解っちゃったから。
 あの快感を、味わってしまってしまったから。
 どうしたいかなんて決まってる。どうしてやるかなんて決まってる。
 だって、決めたんだから。
 わたしがやるって、覚悟をしたから。
 終わらせるって、決意をしたから。
 だから、わたしがどうするか。
 おまえたちが、どうなるか。
 あいつらに教えてやるために。
 右手に握りしめたそのを、あいつら目掛けて投げてやる。
 別に期待をしてたわけじゃないけれど。
 それでも、思った通り、予想通り、わたしの背中に、群がってきたあいつらに。
 やっぱり、ひとりじゃあいつらに。
 わたしに、いじめられて、苦しんで、殺されそうになってたお友だちを。
 振り返ることもなく、ゴミみたいにポイッと投げた。
 それは、老人が運転するクルマみたいに、止ることなく加速して、あいつらを轢いてった。
 だから、危ないって教えたのに。
 丁度、襲いかかってきてたから、合わせて横向きに飛んできたお友だちと、仲良くぶつかってそのまま地面に転がった。
 ああ、こういうの映画で観たことある。
 わたしはその様子を、全部、確認して振り返る。
 わたしの目は前にしかついてないから、当然後ろで何が起こってるかなんて見えるわけない。
 でも、知ることはできる。
 エグイアスが教えてくれるから。
 そのたくさんある目をギョロギョロと動かして、四方八方三百六十度、隈なくスキなく目を凝らしてくれている。
 そのたくさんある口のひとつが、声なき言葉で知らせてくれる。
 だから、わかる。
 どうなっているかわかるから、どうすればいいかも自然とわかる。
 次になにをすればいいのかも。
 まだ倒れたまま転がってる四人を自分の目で確認し、そいつらを飛び越えるように、助走をつけずにジャンプする。
 わたしが投げたやつは無視。
 ぶつかってからほとんど動かないけど、、いまはそのままにしてていい。
 幅跳びみたいにジャンプしたまま、地面に転がる四人と、上下で重なったところで下を見る。
 こんなときまで仲良く並ばなくもいいのに、とお友だちとぶつかった衝撃で悶ている奴らを見て思ったけど、
 そのままやつらの上を飛び越え様に、横に一本、地面に線を引くようにエグイアスを振り抜いて、やつらの下半分と手首の先を削り取る。
 前に漫画で読んだお化けのみたいに、四人まとめてしてやった。
 あれは何だか悲しい話だったけど、おまえたちはしばらくそのまま、苦しんでいるといい。
 それにしても、何だかさっきまでと、
 そんな違和感を覚えながらも、体の動きは止まらない。  
 右足で着地して、左足を地面につけることなく、そのまま右足でまたジャンプ。
 今度は一番遠いところにいるやつを目標に、大きく力を込めて踏み切った。
 一番遠いところにいる、一番に向かって、飛んでいく。
 そいつは、突然授業中にあてられた男子みたいな顔をするだけで、結局
 そのままわたしに、前のやつらと同じく下半分と、ついでに両腕も削られる。
 汚い悲鳴をあげるそいつの首を、右手で掴んだところでまた、後ろから飛びかかってきたやつらを見もせず地面に叩き落とす。
 半分以上軽くなったそいつを、さっきの連中のところへポイッと投げる。
 地面に叩き落としたやつれも、ひとりずつ両肘と両膝をエグイアスで砕いて千切ったあとに、同じところへ蹴り飛ばす。
 あとは大体、ひたすらこれの繰り返し。
 わたしが近づく。あいつらは何もしない。わたしはあいつらを芋虫にしてやる。それを狙って別のやつらが後ろから襲ってくる。わたしはそいつも芋虫にしてやって、同じところへ捨てていく。
 そうやって繰り返していくうちに、段々違和感が強くなる。
 というか、段々が楽になる。
「それがキミのアルターイドの、本当の力だね」
 やっぱりきたか。
「相変わらず唐突だね。まだ会ったばっかりだけど」
「そうかな。ボクは待ってたけど。だから、キミが魔法少女の仕事をしているから、ボクもボクの仕事をするだけだよ」
 それってずっとを待ってたってこと?
 ずっと後ろに張り付いて待ってたってこと?
 だとしたらちょっと怖い。
 だってこの緑の目の不動と沈黙には、あいつらのものとは違う、明確な意志を感じるから。
 自分の意志で、選んで、決めたのだと、何となくわかるから。
 何となくしか、わからないから。
 何を考えてるのかわからないから怖んじゃなく。
 何を考えているのかわかるのが怖いんだ。
 わかったときが、怖いんだ。
 でも、逃げない。負けない。立ち向かう。
 そこは必ずはっきりさせる。
 でもそれを訊くときは、わたしは後ろを振り向いて、後ろに一歩、踏み出さなきゃいけないんだ。
 後ろに一歩、踏み込まきゃ、いけないんだ。
 だからいまは、前に進むと決めたんだから、訊くべきことを最優先。
「それでホントのちからって?」
「そう。キミも朧気ながら気づいてると思うけど、まあキミが気づいたからボクが理解できたんだけど。キミのアルターイド、<街角に灯る蝋燭:エグイアスキャンドルフラワー:エグイアス>は、何かを、誰かを、傷つければ傷つけるほど強くなる」
 えーと、それって。
「といことは、あいつらを殴れば殴るほど、一発の威力が上がるってこと?」
「そう言ったと思うけど。キミのエグイアスは、壊し、傷つけ、そして熟れていく。つまり、より強く、より。だから段々と。本当、こんなに適正のある子はなかなかいないよ。、魔法少女に」
 それは、そうだけど、わたしは魔法少女になりたかったけど。
 だけど、わたしはやりたかったわけじゃない。
 でも、わたしは、、魔法少女になったんだ。、魔法少女になったんだ。
 そして、わたしは魔法少女になった。
 そんな、いまのわたしのやりたいことは――。
 その思いをこころにしまって、わたしは別のことを口にする。
「確かに言うとおり手応えがなくなってきたのはだけど、それはとりあえず置いていて。強くなったっていう割には最初のほうが威力があった気がするけど」
 最初は一発なぐれば風船みたいに弾けたり、吹っ飛んでたりしてたけど。
「それは当然だよ。キミの殺したくないという思いを、死なせたくないという気持ちを、エグイアスが汲んでくれてるんだから。キミの手加減したいというを最大限実現させるために自分を抑えてるんだから。寧ろキミが自分の本質を曲げているからエグイアスは本来の力を発揮できないんだ。そのもどかしさはキミも感じてるはずだよ。それはキミ
 えっと、それって。
「それって、全部?」
 わたしはただ、思ったことをそのまま口にだしていた。
 なんでそんななことをしてしまったのか。
 もしかして否定してほしかったのか。まさか肯定してほしかったのか。
 そんなことを訊かれても、緑の目はいつもどり、揺るぎなく落ち着いた声で、訊かれたことには答えてくれる。
 訊かれことだけ、答えてくれる。
「そうだね。全部キミのせいで、キミのためだね。さっきも言ったでしょ。全部キミのなかにあることだって。」
 淡々と、責めるわけでもなく、慰めるわけでもなく、その事実だけが答えだと、落ち着いて告げる。
 その事実だけが全てだと、揺るぎなく告げる。
 だから、わたしは。
「ごめんね。エグイアス。わたしのわがままに付き合わせて」
 あやまった。あいつらの血と肉で汚く淀れたエグイアスに。
 あやまることしかできないなんて、そんな理由で。
 わたしにできることはこれしかないなんて、そんな言い訳で。
 それでもエグイアスは応えてくれた。
「そっか。エグイアスは優しいね」
 その優しさの百分の一でも、この緑の目にあればいいのに。
 そんなわたしを見ていた緑の目が、前触れなくわたしに言葉を返す。
「そんなこと、ボクに言われても困るんだけど」
 言ってないし。
 少なくとも口にだしてないし。
 それでも、もし何かの拍子で聞こえていたなら、聞いてるなら、そんなことは口にしない程度の配慮はしてほしい。
「これでも頑張ってるつもりなんだけどね。そこは追い追い分かってもらえるようにしていくよ」
 だから、そういうところが。
 このままだと堂々巡りというか、アリ地獄にはまりそうだったから、わたしは強引に話題を変える。
 ホントは無視するのが一番なのかもしれないけど、何故かそうする気にはなれなかった。
「じゃあ、いままでと同じようにやっていけば、エグイアスはどんどん強くなっていくってことでいいの?」
「キミが魔法少女でいる限りはね。それより、同じようにって、?」
 そう言って緑の目は、穴の真ん中折り重なって積まれている、あいつらを目を向ける。
 いや、同じじゃないのはわかってる。
 上に積まれているやつほど、新しくあそこに捨てられたやつほど、体の破損や損傷がひどくなっていく。
 それは段々と、やつらを傷つける行為が非道くなっていってるということ。
 それは他でも何でも誰でもない、私自身がやったこと。
 そしてこれが一番の違和感の原因。
。仕事はやるだけのものじゃなく、成果をだして初めて仕事になるんだから」
 その言葉、十秒前のにそっくりそのまま返してやりたい。
 わたしは手鏡のひとつも持ってない自分のことを、うまれて初めて、本気で悔いた。
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