11 / 45
わたし、魔法少女の続きをします(なってからが本番でした)
しおりを挟む
わたしはやつらに教えてやった。
おまえたちがどんなことをしたのかを。
わたしの友だちに何をやってくれたかを。
わたしがおまえたち全員を、これからどうしてやるのかを。
それを最初のひとりで教えてやった。
おまえたちがただの汚い肉袋だってこと。
皮も肉も骨もふっ飛ばし、血と臓物をぶち撒けさせて。
次はおまえもこうなるぞって。
最後までおまえたちをこうしてやるぞって。
鐘を鳴らしてランプを点けて、結構派手に教えてやった。
ここからは、ただ殺してやるだけじゃすまさないって。
わたしの友だちを食べたおまえたちを、絶対に許しはしないって。
わたしの友だちで遊んだおまえたちに、情けをかけるこことは決してないって。
ひとり残さず、容赦はしないって。
もう、ただ殺したいから殺すんじゃなく。
殺意を込めて、殺してやる。
憎悪を込めて、殺してやる。
それだけわたしは怒ってるって。
教えてやった、はずなのに。
どうして何もしてこない。
こっちが殺しにきてるんだから、そっちも殺しにくるのが、普通でしょ。
さっきわたしに、殺意の目を向けたのに。
さっきわたしを、敵だと認めた顔したのに。
なのになんで、そんな目と顔をする。
恐怖を感じてるのは見てわかる。
こいつらでも、死を恐れてるのはよくわかる。
死ぬのが怖いというのがよくわかる。
殺されるのが嫌だというのがよくわかる。
それなのに、なんでそんな目と顔になるのかよくわからない。
まるで仲良しグループに、異物が入ってきたときみたいなその顔が。
どこか画面の向こうの出来事を見るような、現実を見ていない無関心だけを映したその目が。
なんで戦う気がないのかわからない。
なんで殺す気がないのかわからない。
どうしてここまで生きるつもりがまったくないのか、ホントによくわからない
まさかこいつらもしかして。
ここまできても、自分でやる気がないんじゃいか。
誰かがかわりにやってくれると、思ってるんじゃないだろうか。
だから自分は何もしなくていいなんて、考えてるんじゃないだろうか。
自分だけは助かるなんて、本気で信じてるじゃないんだろうか。
そっか。いまようやくわかったよ。
おまえたちは恐怖で退いた。
でも逃げ出さないんだと思ってた。
だけどそれは違ってた。
おまえたちは、最初から逃げてたんだ。
この現実から、逃げだしてんだ。
現実なんて、見ちゃいなかったんだ。
嫌なものから逃げ出して、見たくないものから目をそらして、やりたことだけやったんだ。
だからあの殺意は嘘で、敵意も偽り。
上っ面だけのイミテーション。
安全なところでしかできないパフォーマンス。
そこに一歩でも踏み込まれたらもうお終い。
目をそらせなくなったから、自分でフィルターをかけたんだ。
そうやって、自分には関係ないって思い込んで、自分を守るために逃げんたんだ。
他の全てを投げ捨てて。
ひとりじゃないから弱くない。みんなでいるから大丈夫。群れているから強くなった気になれる。
だから、自分がどこに立っているのかも、ホントはわかっていなかったんだ。
それならあいつら、自分が何をやったかなんて、ホントにわかっていないんだ。
わたしのことなんて最初から、見てもいないからわからないんだ。
だからこその、それがこの目と顔の正体か。
なんて、救いようのないやつら。
他人のことはもてあそび。
自分のことをひとまかせ。
最初から最後まで、自分のやりたいことをやるだけで、あとは全部知らんぷり。
生きてるつもりもないくせに、死ぬのが怖くて、殺されるのも嫌なんて。
そんなやつらは、生きてちゃいけない。
殺されて、死ぬべきなんだ。
もしかしていままで殺したあいつら全部、自分が殺されたことも死んだことも、わかってなかったんじゃないだろうか。
だから一度も今際の際に、声をあげたりしなかったのか。
だから何人殺しても、生きものを殺してる気がしなかったのか。
そっか、それじゃあわかったよ。
どうすればいいか、わかったよ。
そんなに現実が嫌だっていうんなら、わたしがさよならさせてやる。
おまえたちが、いったいどれだけ弱いのか、きっちり教えて殺してやる。
おまえたちが、逃げ続けて目をそらし続けたものがどんなものか、しっかり教えて殺してやる。
わたしがおまえたちの何なのか、こころに刻んで殺してやる。
あの子みたいに。あの子のように。
あの子が何を思いながら、おまえたちに食べられたのかわからないけど。
自分が弱いから殺されるのを理解しながら、自分が捨て続けたものを抱えて死ぬといい。
わたしがそうしてあげるから、心おきなく、ちゃんと殺されて死ぬといい。
そんなことはあの子にとって、何の意味もないのはわかってるけど。
それでもわたしはそうしたい。
それがわたしにできる、やるべきことだと思うから。
それにこいつらを見ていると、殺したくってしょうがない。
目の前から、消してしましまいたくってどうしようもない。
わたしの友だちに何をしたのか関係なく。
自分の飢えとも別のもの。
頭でもこころでもなく、お腹の底でグツグツと煮えるもの。
怒りでも憎悪でもない、もっと単純でありふれた感情。
こいつらのことを考えてると、イライラしてしかたない。
自分を殺したくなってしまうほど、お腹のなかが沸騰しそう。
その理由はわかってる。
誰に言われなくてもわかってる。
嫌というほどわかってしまう。
だって、自分自身のことだから。
先へ進むと覚悟したなら、逃げていいことじゃない。
前を向くと決めたなら、目をそらしていいことじゃない。
だったわたしは、魔法少女なんだから。
いまは、怒りも、憎悪も、イライラも、全部呑み込んで受け入れる。
そうして、やれることを、やるときなんだ。
だから。
「だからいくよ、<エグイアス>」
そうわたしが名前を呼んで、左足を軸に回転しながらグルっと一周振り抜いた。
わたしの周りにいるだけだったバケモノたちを、ステッキの横っ面で引っぱたき、まとめてごっそり削り取る。
さっきみたいに下半分だけになったバケモノたちが、血を吹き出しながらドミノみたいに倒れてく。
すると、バケモノの血を浴びて肉で汚れたステッキが応えてくれた。
ただでさえ大きくて、そして禍々しくて毒々しい。わたしが憧れてた魔法少女が持ってたアイテムに、工事現場の機械を合体させたような、どこかコウモリに似ているバットみたいな、わたしのステッキ。
何かを壊すためにあるような、誰かを殴るためにあるような、そんなステッキが形を変えて応えてくれた。
ギチョンギチョンギチョンと、妙に生っぽい機械の音がして、ステッキのそこら中に目と口が開いていた。
それはたくさんの福笑いを混ぜて、大失敗したような感じって言えばいいのか。
良く言えば誰でも知ってる超有名な画家の絵みたいな、悪く言えばいくつもの人の頭をねじり合わせてのばしたような見た目だった。
ホントはあんまり言いたくないけど、なんというか、うん、まあ、でもこーいうのもいまの時代ありだよね?
「おめでとう。ついにキミのアルターイドが目覚めたね」
まさにこのタイミングだけを狙ってたみたいに、いつもどおり緑の眼が、説明をしてくれる。
「目覚めたって……確かに目はいっぱい開いてるけど」
目どころか口まで開いてるけど。
「それが本当の姿だよ。キミのアルターイド、〈街角に灯る蝋燭:エグイアス〉だよ」
「だよって、知ってるならもっと早く教えてよ。それにあるたーいど?ってなに?」
わたしは不満を口にする。この緑の目、訊けば答えてくれるし訊かなくても勝手に説明してくれる。けど、わたしが知らない知りたいことは訊きようがない。
「それは御免ね。ボクもキミのアルターイドについて解ったのは、それが目覚めた瞬間だから、勘弁してね。アルターイドっていうのはあとで詳しく説明しようと思ってたけど、簡単に言えば魔法少女の証明、魔法少女であることの保証。まあ、名刺がわりみたいなものだよ」
名刺って、それじゃあいままでわたしは名刺を武器にして、バケモノたちを殺してたのか。
トランプを武器にして戦うのと、果たしてどっちがマシなんだろう。
それにその言い方だと……
「そしてアルターイドが目覚める条件が、魔法少女になる決意、魔法少女として生きる覚悟、魔法少女である自覚、の三つだから。これが揃わないとアルターイドは目覚めないし、本当の力を発揮できなんだ」
なんでそんなよくわからない条件が、しかも三つもあるんだ。それに。
「そこらへんの説明を最初にしてくれたら、もっと早く目が覚めたんじゃないの?」
この気持ち悪い真の姿とやらに。とは言いたくない。
「ひとに言われてそ考えても意味がないからね。あくまで全部キミ自身のなかにあることだから。自分の思いで決意して、自分の意志で覚悟して、自分の感情で自覚する。そうして初めてアルターイドは目覚めるんだ。だからキミは本当のすごいよ。初めて変身してこの条件をみたした子はほとんどいないのに」
いや、だからその言い方だともう……
あーでも、まあいっか。
「なんかさっきもいったような気がするけど、とりあえずわかったよ。それで今更だけど、このアルターイドって武器なの?」
「今更だけど、キミの使い方で間違ってないよ」
「もしかしてこれ、さっきより強くなった?」
「間違いなく、確実にね」
「それでわたしのエグイアスの真のちからってなに?」
「それはまだ解らないよ。キミがその力を感じたときがボクが理解するときだから。でもきっと悪いものじゃないはずだから、使ってみてとしか言えないね」
なんだそれ。でも確かにこんな見た目なのに嫌な感じは全然しない。むしろすっごくわたしに馴染む。
「さあ、他に訊きたいことはあるかな?」
さっきも聞いたような気がするけど、それを訊きだすときりがない。でも。
「じゃあいまは最後にひとつだけ。あと何か隠してることある?」
「ないよ」
ノータイムの即答。なのに、焦りも乱れも感じられない落ち着いた声だった。
「ボクは最初からキミに隠してることなんて何もないよ。訊かれたことには全て答えるし、大事なことは完全に伝えるし、必要なことは余さず説明するよ。ただ要らないことを言わないことがあるだけで」
それを自分で言うのがホントにこの緑の目らしい。会ってまだちょっとした話してないけど、心の底からそう思う。そもそも口なんてないくせに。いったいどうやって喋ってるんだろう。
それに比べてエグイアスは、こんなに口があるのに無口だね。
あとでいっぱい話しかけてみよう。
「わかった。その言葉を信じるよ」
「ありがとう。何より人に信じてもらえることが、ボクたちにとって一番嬉しいことだからね」
はあ、ボクたち、ね。ホントに隠す気、ないんだなあ。
「じゃあ、行こうか。ザ――」
「うん、いくよ。わかってる」
「最後まで言わせてよ」
「だって自分でやらなきゃダメなんでしょ?」
「その通りだよ。それじゃあ第3ラウンドの鐘でも鳴らす?さっきみたいに」
「必要ないよ。もうこれで終わらせてくるから」
そう、これで終わりにする。この期に及んでいまのいままで何もしてこなかったあいつらを、全員殺して終わらせる。
名前を知った彼女と一緒に。
「これからよろしくね、エグイアス」
返事が返ってくると思ってなかったけど、エグイアスは声じゃなくにっこり微笑んで返してくれた。
彼女に開いてる口を全部使って。
でもその微笑みはいままでみた誰のものより、美しい微笑みだった。
それじゃあ最後にひとつだけ、あいつらに教えて終わらせよう。
この世には報われないことなんて何もないということを。
おまえたちがどんなことをしたのかを。
わたしの友だちに何をやってくれたかを。
わたしがおまえたち全員を、これからどうしてやるのかを。
それを最初のひとりで教えてやった。
おまえたちがただの汚い肉袋だってこと。
皮も肉も骨もふっ飛ばし、血と臓物をぶち撒けさせて。
次はおまえもこうなるぞって。
最後までおまえたちをこうしてやるぞって。
鐘を鳴らしてランプを点けて、結構派手に教えてやった。
ここからは、ただ殺してやるだけじゃすまさないって。
わたしの友だちを食べたおまえたちを、絶対に許しはしないって。
わたしの友だちで遊んだおまえたちに、情けをかけるこことは決してないって。
ひとり残さず、容赦はしないって。
もう、ただ殺したいから殺すんじゃなく。
殺意を込めて、殺してやる。
憎悪を込めて、殺してやる。
それだけわたしは怒ってるって。
教えてやった、はずなのに。
どうして何もしてこない。
こっちが殺しにきてるんだから、そっちも殺しにくるのが、普通でしょ。
さっきわたしに、殺意の目を向けたのに。
さっきわたしを、敵だと認めた顔したのに。
なのになんで、そんな目と顔をする。
恐怖を感じてるのは見てわかる。
こいつらでも、死を恐れてるのはよくわかる。
死ぬのが怖いというのがよくわかる。
殺されるのが嫌だというのがよくわかる。
それなのに、なんでそんな目と顔になるのかよくわからない。
まるで仲良しグループに、異物が入ってきたときみたいなその顔が。
どこか画面の向こうの出来事を見るような、現実を見ていない無関心だけを映したその目が。
なんで戦う気がないのかわからない。
なんで殺す気がないのかわからない。
どうしてここまで生きるつもりがまったくないのか、ホントによくわからない
まさかこいつらもしかして。
ここまできても、自分でやる気がないんじゃいか。
誰かがかわりにやってくれると、思ってるんじゃないだろうか。
だから自分は何もしなくていいなんて、考えてるんじゃないだろうか。
自分だけは助かるなんて、本気で信じてるじゃないんだろうか。
そっか。いまようやくわかったよ。
おまえたちは恐怖で退いた。
でも逃げ出さないんだと思ってた。
だけどそれは違ってた。
おまえたちは、最初から逃げてたんだ。
この現実から、逃げだしてんだ。
現実なんて、見ちゃいなかったんだ。
嫌なものから逃げ出して、見たくないものから目をそらして、やりたことだけやったんだ。
だからあの殺意は嘘で、敵意も偽り。
上っ面だけのイミテーション。
安全なところでしかできないパフォーマンス。
そこに一歩でも踏み込まれたらもうお終い。
目をそらせなくなったから、自分でフィルターをかけたんだ。
そうやって、自分には関係ないって思い込んで、自分を守るために逃げんたんだ。
他の全てを投げ捨てて。
ひとりじゃないから弱くない。みんなでいるから大丈夫。群れているから強くなった気になれる。
だから、自分がどこに立っているのかも、ホントはわかっていなかったんだ。
それならあいつら、自分が何をやったかなんて、ホントにわかっていないんだ。
わたしのことなんて最初から、見てもいないからわからないんだ。
だからこその、それがこの目と顔の正体か。
なんて、救いようのないやつら。
他人のことはもてあそび。
自分のことをひとまかせ。
最初から最後まで、自分のやりたいことをやるだけで、あとは全部知らんぷり。
生きてるつもりもないくせに、死ぬのが怖くて、殺されるのも嫌なんて。
そんなやつらは、生きてちゃいけない。
殺されて、死ぬべきなんだ。
もしかしていままで殺したあいつら全部、自分が殺されたことも死んだことも、わかってなかったんじゃないだろうか。
だから一度も今際の際に、声をあげたりしなかったのか。
だから何人殺しても、生きものを殺してる気がしなかったのか。
そっか、それじゃあわかったよ。
どうすればいいか、わかったよ。
そんなに現実が嫌だっていうんなら、わたしがさよならさせてやる。
おまえたちが、いったいどれだけ弱いのか、きっちり教えて殺してやる。
おまえたちが、逃げ続けて目をそらし続けたものがどんなものか、しっかり教えて殺してやる。
わたしがおまえたちの何なのか、こころに刻んで殺してやる。
あの子みたいに。あの子のように。
あの子が何を思いながら、おまえたちに食べられたのかわからないけど。
自分が弱いから殺されるのを理解しながら、自分が捨て続けたものを抱えて死ぬといい。
わたしがそうしてあげるから、心おきなく、ちゃんと殺されて死ぬといい。
そんなことはあの子にとって、何の意味もないのはわかってるけど。
それでもわたしはそうしたい。
それがわたしにできる、やるべきことだと思うから。
それにこいつらを見ていると、殺したくってしょうがない。
目の前から、消してしましまいたくってどうしようもない。
わたしの友だちに何をしたのか関係なく。
自分の飢えとも別のもの。
頭でもこころでもなく、お腹の底でグツグツと煮えるもの。
怒りでも憎悪でもない、もっと単純でありふれた感情。
こいつらのことを考えてると、イライラしてしかたない。
自分を殺したくなってしまうほど、お腹のなかが沸騰しそう。
その理由はわかってる。
誰に言われなくてもわかってる。
嫌というほどわかってしまう。
だって、自分自身のことだから。
先へ進むと覚悟したなら、逃げていいことじゃない。
前を向くと決めたなら、目をそらしていいことじゃない。
だったわたしは、魔法少女なんだから。
いまは、怒りも、憎悪も、イライラも、全部呑み込んで受け入れる。
そうして、やれることを、やるときなんだ。
だから。
「だからいくよ、<エグイアス>」
そうわたしが名前を呼んで、左足を軸に回転しながらグルっと一周振り抜いた。
わたしの周りにいるだけだったバケモノたちを、ステッキの横っ面で引っぱたき、まとめてごっそり削り取る。
さっきみたいに下半分だけになったバケモノたちが、血を吹き出しながらドミノみたいに倒れてく。
すると、バケモノの血を浴びて肉で汚れたステッキが応えてくれた。
ただでさえ大きくて、そして禍々しくて毒々しい。わたしが憧れてた魔法少女が持ってたアイテムに、工事現場の機械を合体させたような、どこかコウモリに似ているバットみたいな、わたしのステッキ。
何かを壊すためにあるような、誰かを殴るためにあるような、そんなステッキが形を変えて応えてくれた。
ギチョンギチョンギチョンと、妙に生っぽい機械の音がして、ステッキのそこら中に目と口が開いていた。
それはたくさんの福笑いを混ぜて、大失敗したような感じって言えばいいのか。
良く言えば誰でも知ってる超有名な画家の絵みたいな、悪く言えばいくつもの人の頭をねじり合わせてのばしたような見た目だった。
ホントはあんまり言いたくないけど、なんというか、うん、まあ、でもこーいうのもいまの時代ありだよね?
「おめでとう。ついにキミのアルターイドが目覚めたね」
まさにこのタイミングだけを狙ってたみたいに、いつもどおり緑の眼が、説明をしてくれる。
「目覚めたって……確かに目はいっぱい開いてるけど」
目どころか口まで開いてるけど。
「それが本当の姿だよ。キミのアルターイド、〈街角に灯る蝋燭:エグイアス〉だよ」
「だよって、知ってるならもっと早く教えてよ。それにあるたーいど?ってなに?」
わたしは不満を口にする。この緑の目、訊けば答えてくれるし訊かなくても勝手に説明してくれる。けど、わたしが知らない知りたいことは訊きようがない。
「それは御免ね。ボクもキミのアルターイドについて解ったのは、それが目覚めた瞬間だから、勘弁してね。アルターイドっていうのはあとで詳しく説明しようと思ってたけど、簡単に言えば魔法少女の証明、魔法少女であることの保証。まあ、名刺がわりみたいなものだよ」
名刺って、それじゃあいままでわたしは名刺を武器にして、バケモノたちを殺してたのか。
トランプを武器にして戦うのと、果たしてどっちがマシなんだろう。
それにその言い方だと……
「そしてアルターイドが目覚める条件が、魔法少女になる決意、魔法少女として生きる覚悟、魔法少女である自覚、の三つだから。これが揃わないとアルターイドは目覚めないし、本当の力を発揮できなんだ」
なんでそんなよくわからない条件が、しかも三つもあるんだ。それに。
「そこらへんの説明を最初にしてくれたら、もっと早く目が覚めたんじゃないの?」
この気持ち悪い真の姿とやらに。とは言いたくない。
「ひとに言われてそ考えても意味がないからね。あくまで全部キミ自身のなかにあることだから。自分の思いで決意して、自分の意志で覚悟して、自分の感情で自覚する。そうして初めてアルターイドは目覚めるんだ。だからキミは本当のすごいよ。初めて変身してこの条件をみたした子はほとんどいないのに」
いや、だからその言い方だともう……
あーでも、まあいっか。
「なんかさっきもいったような気がするけど、とりあえずわかったよ。それで今更だけど、このアルターイドって武器なの?」
「今更だけど、キミの使い方で間違ってないよ」
「もしかしてこれ、さっきより強くなった?」
「間違いなく、確実にね」
「それでわたしのエグイアスの真のちからってなに?」
「それはまだ解らないよ。キミがその力を感じたときがボクが理解するときだから。でもきっと悪いものじゃないはずだから、使ってみてとしか言えないね」
なんだそれ。でも確かにこんな見た目なのに嫌な感じは全然しない。むしろすっごくわたしに馴染む。
「さあ、他に訊きたいことはあるかな?」
さっきも聞いたような気がするけど、それを訊きだすときりがない。でも。
「じゃあいまは最後にひとつだけ。あと何か隠してることある?」
「ないよ」
ノータイムの即答。なのに、焦りも乱れも感じられない落ち着いた声だった。
「ボクは最初からキミに隠してることなんて何もないよ。訊かれたことには全て答えるし、大事なことは完全に伝えるし、必要なことは余さず説明するよ。ただ要らないことを言わないことがあるだけで」
それを自分で言うのがホントにこの緑の目らしい。会ってまだちょっとした話してないけど、心の底からそう思う。そもそも口なんてないくせに。いったいどうやって喋ってるんだろう。
それに比べてエグイアスは、こんなに口があるのに無口だね。
あとでいっぱい話しかけてみよう。
「わかった。その言葉を信じるよ」
「ありがとう。何より人に信じてもらえることが、ボクたちにとって一番嬉しいことだからね」
はあ、ボクたち、ね。ホントに隠す気、ないんだなあ。
「じゃあ、行こうか。ザ――」
「うん、いくよ。わかってる」
「最後まで言わせてよ」
「だって自分でやらなきゃダメなんでしょ?」
「その通りだよ。それじゃあ第3ラウンドの鐘でも鳴らす?さっきみたいに」
「必要ないよ。もうこれで終わらせてくるから」
そう、これで終わりにする。この期に及んでいまのいままで何もしてこなかったあいつらを、全員殺して終わらせる。
名前を知った彼女と一緒に。
「これからよろしくね、エグイアス」
返事が返ってくると思ってなかったけど、エグイアスは声じゃなくにっこり微笑んで返してくれた。
彼女に開いてる口を全部使って。
でもその微笑みはいままでみた誰のものより、美しい微笑みだった。
それじゃあ最後にひとつだけ、あいつらに教えて終わらせよう。
この世には報われないことなんて何もないということを。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手
Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。
俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。
そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。
理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。
※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。
カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
Lovely Eater Deadlock
久末 一純
ファンタジー
俺の全ては姉のために存在していると確信している。
生命とは姉のために使い尽くすものであり、人生とは姉に消費されるためにあるものだ。
生きる意味も生き続ける目的も生き続けなければならない理由も全ては姉のためにある。
だから毎日今日だけを力の限り精一杯に生きるのだ。
いつか必ず訪れる俺が終わるその瞬間まで。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる