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わたし、魔法少女になったのでちょっと考えてみたいと思います(大事なことはわかってます)

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 わたしはこころのなかで噛みしめる。
 夕陽のなかで噛みしめる。
 自分が何をやったのか。確かに感じた、そのときの感覚を。
 それは癖になりそうなほど気持ちのいい手応えと、この病みつきになるような血が沸き立つ心地よい胸の高鳴りで、そして何度も、何度でも味わいたくなってしまう、とろけるように脳を焚いた甘く痺れる快感を。
 これがそうなんだろうか。
 放課後、学校からの帰り道、ただ横目に眺めて通り過ぎただけだった名前もしらないあの子たちや友達のこの子。
 その彼女たちが人生だか学生生活だかをかけて打ち込んでいた部活やクラブ活動。
 そんな彼女たちが汗と涙を流した先に感じる達成感や満足感とは同じものなんだろうか。
 もしそうだとしたらちょっと嬉しい。
 それならきっと、これがみんなが言うところのって呼ぶものだろうから。
 だってわたしの人生にその青春なんてものがあるのかどうか確かめてみたかったから。
 こんなわたしでもその青春というものを感じられかどうか知りたかったから。
 できるならわたしもその青春とやらを味わってみたかったから。
 そうして念願叶った満足感と一仕事終えた達成感のなか、いまだけはちょっとだけ、青春の淡いぬるま湯に首まで浸ってみようかななんて思っていると、やっぱりそうはいかなかった。
 予想通りというか思ったとおりと言うか、こっちの事情も心情もお構いなしに横槍を入れてくる。
 的確に釘を刺してくる。
 この緑の目は。
「色々思うところや感じることがあるのは、そろそろ戻ってきて来て欲しいな。感動するのも感激するのも全部終わった後でならいくらでもして構わないから。だってまだまだキミのできることは残っているし、やるべきこともそのままなんだから」
 そこまでわかってくれるなら、もうちょっと気を遣ってくれてもいいのにと思う。
 さっきはおめでとうなんて言ったくせに。
「大丈夫。ちゃんと戻ってきてるよ
 そして直視してるよ、直面してる現実を。
 足下には食い散らかされて芋虫みたいになった友達の食べ残し。どうせなら思いつつ、きっと元に戻してあげるからと口にはださずに呼びかける。だってもう聞こえないだろうし。
 そんなふうにこの子を食べたは、正直見た目があんまり生理的に受け付けない。
 何というかイヌから可愛さとか愛嬌といった愛玩動物の必須条件を根こそぎ取り除いて、生き物本来の気持ち悪さを残した、しかもそれを強調したようなもうそうとしか言えないバケモノたちだ。
 それがまだ十数匹、群れとなってこちらに向かって思いっきり敵意と殺意のこもった唸り声をあげている。
 それも後ろ足を軸に立ち上がり前足を伸ばしたごく自然な二足歩行で威嚇の姿勢をとりながら。
 器用だなあ。食べ方はきたないくせに。
 でもどうやらこいつらはわたしをデザートにする気はないらしい。
 まあそれはそうだろう。
 ついいまさっき、こいつらの同類を三匹くらい、思いっきりぶん殴ったばっかりなんだから。
 こいつらに仲間意識とかそうものがあるのかどうかなんて知らないけど。
 で、わたしにぶん殴られたその三匹はバラバラに千切れながら、腐った卵みたいにドロっとした中身と工場廃液みたいなネバついた汁を撒き散らしながら、盛大に吹っ飛んで転がっていった。
 それでも色は赤いんだね。
 そんなやたらと生臭い、もうモザイク処理なんかじゃおっつかない、もう二度と戻ることのない”嫌になってもお過ごし下さいPlease wait a moment”状態のこの現状がわたしの現実だった。
 暗い黄昏に浮き上がる赤と黒と何だかよくわからないものが、溶け合わずに混ざったマーブル模様がわたしの青春の色だった。
 爽やかさなんてどこにも欠片も見当たらない。いったいどのへんが青い春を思わせるのか誰かわたしに説明してほしい。
 別にスポーツドリンクのCMみたいな、暑苦しいほど押し付けがましいものを期待していたわけじゃないけれど。
 そもそもこんな考え自体、見当違いで思い違いの八つ当たりもいいところなんだけど。
 その八つ当たりをする相手が他の誰でもなく自分自身だという点には、目をつぶった上で全力で視界を外す。
 見たくなものをわざわざ見る必要はないと母も教えてくれたし。
 でも自分のことだけはちゃんと正面から向き合いなさいとも教えてくれたっけ。
 、なんて考えもしなかった。
 ごめんなさいお母さん。わたしはやっぱり悪い子です。
 自分に都合のいいことだけを選んで勝手に解釈する悪い子です。
 でも
 だからこれがそうだというならもう
 きっとこれがわたしにはお似合いで、分相応なんだろう。
 そうだと思って受け入れよう。そうだとでも思わないと諦めがつかないから。
 もう最初から間違ってても関係ないや。
 ごめんなさいお母さん。やっぱりわたしはどうしょうもなく悪い子です。
 自分に都合の悪い考えは簡単に投げ捨ててなかったことにする、どうしようもないです。
 ――このとき本当に謝るべきはこんなことじゃなかった。
 まだ自分がその思い上がりこそ本当に恥じることであり詫びるべきことだった。
 それがもういない母に対してなのか。
 まだ何とかなる友達に対してなのか。
 それはいまではもうわからないけれど。
 それでもきっとこのときからなんだと思う。
 誰に何をしたらいいのかわからくなったのは。
 自分が本当は何ができたのか、どうすべきだったのか、そんなことどうでもよくなったのは。
「それは重畳。じゃあそろそろ終わりにしようか。さっきのではわかったよね?キミの友達も首を長くして待ってるはずだよ」
 伸びるどころかいまにももげそうなあの子の状態を見てよくそんな言葉を選んだものだ。
 でもその言いように怒りを覚えたりはしないし不快に感じたりもしない。
 ひとを何だと思ってるのかとも考えなかった。
 それはきっとこの緑の目がひとを何とも思っていないからだと考えていた。
 このときはまだ自分がそう考えてるからだと思っていた。
 何も疑問に思わずに。
 ただ納得できなことだけはこのときあった。
「やり方はわかったけど同じようにやるの?」
 わたしは懲りずにまだ若干の期待を込めてまた聞いてみる。
「そうだよ。でもそれはどういう意図の質問かな?」
 ああ、やっぱり。まあ、そうだよね。
「何ていうか、せっかく魔法少女になったんだからもっとこう魔法的な戦い方はないのかなって。こういう物理的なものだけじゃなく」
 そういえばさっきからわたしがこの緑の目にきいてばっかりだけど、緑の目がわたしに訊いてくるのははこれが初めてかもしれない。
「それならもうさっきから使っているよ。キミの魔法を。キミだけが使えるキミだけの魔法を。詳しいことは終わってからちゃんと説明するよ。だからいまは一刻も早くあいつらを倒してしまおう」
 そう言うならいまはこれ以上聞かないようことにしよう。
 でも。
「でも随分と急かすんだね」
「その理由も説明するよ。さあザント・ツッカーヴァッテ砂の綿菓子、キミの魔法の一振りが世界を変えるところをみせておくれ」
「何だかよくわからないけど、わかったよ」
 そうだ、いまはこれでいい。
 確認できただけで十分だ。
 わたしにはわたしだけの魔法があるってことを。
 どんな魔法かまだよくわからないけど、それを使った結果がこのご覧の有様だというのなら、
 あのとき憧れたものとは違うけど、立ってる場所も見ているものも違うけど、魔法少女になれたんだから。
 マジカルでもメルヘンでもリリカルでもない、デンジャーで、デッドリーで、スプラッターなやり方でも。
 いや、このやり方だからこそ。
 そしてわたしは気合を入れ直す。
 さっきからずっと気になっていた、魔法のステッキにこびりついていたをビュンと一振りして払い落とす。
 ベチャっという何か生っぽいものが地面にぶつかる湿った音が鳴ってステッキを見てみると、見事に汚れが落ちてピカピカの新品状態になっていた。
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