乙女の化生に紅を

久末 一純

文字の大きさ
上 下
12 / 22

本幕/柏手の二=花火の巻/爆発娘:フェルメルス・ジェルルド・ローゼンクロイツの章~

しおりを挟む
「ばーん!」という巫山戯たふざけた声が響くたび、ひとの頭が柘榴ざくろのように弾け飛ぶ。
 それはまさしく悪夢の具現。
 たったひとりの女が見せる、鮮やかに彩られた死の顕現。
 たかが錬金術師が生み出している、惨憺たる修羅場の体現。
「あらあらあらあら、これは一体どうされたのかしら? さっきまでの威勢のよさは、一体何処へいってしまわれたのかしら? もうとっくに、お仕事の時間は始まっていますのよ?」
 そう言葉にしながら、私は自分を囲んでいる連中をぐるりと見回す。
 彼らの敷くお粗末な陣形を見るだけで、その戦術は手に取るように分かってしまう。
 前衛職である剣士や闘士を矢面に立たせて数で以て押し潰してから、後衛職の魔術師どもがその支援と援護を行う。
 そして隙きあらば自分は無傷で頂こうという、卑しく性根の腐った魔術師どもの思惑が見て取れる。
 途轍もなく頑張って好意的に解釈し虫唾が走るのを堪えて最大限に良く言えば、それは基本に忠実な教科書通り。
 でも本音をひと言で吐き捨てるならこんなものは最低、そして最悪。
 視るべきものなど何処にもなく、学べるものなど何もない。
 そこには機知も工夫も独創性の欠片もない、平凡にして凡庸なだけの尋常の極み。
 だから、その形はとっても単純。
 まあ、当座の寄せ集めなんだから当然と当然だけど。
 それにしても、これはちょっと酷いんじゃないかしら。
 前衛、後衛、指揮の順番で、その三枚がぐるっと私を囲んでお行儀良く並んでいるだけ。
 そのどれもこれもあれもこれも、そこら中が穴だらけ。
 何処もかしこもあそこもそこも、みんな揃って薄っぺらい。
 あまりに薄っぺらいものだから、私みたいなはこれで十分という思考まで透けて見える。
 そう見られているのは百も承知。
 そうして侮られるのも委細承知。
 そんなことは全部覚悟の上で、私は戦場に立っている。
 でもだからといって実際にそれを目の前にした状態で、何も感じず思うところが何もないという程に私は達観していない。
 わたしはまだまだ、その境地には達していない。
 それに実を言うとこの陣形と戦術、本当はかなり厄介だ。
 もしも優秀で有能な指揮官に率いられた、ちゃんとした訓練を積んだ本物のひと達に駆使されていたならば。
 私は、此処で終わっていた。
 簡単であるからこそ、明快。
 だからこそ、堅実で強靭。
 単純な解答こそが世界で一番難しい答えであると、私の師も言っていた。
 故に、何ものよりも強いのだと。
 けれどそれは理想であり、現実はこの体たらく。
 ただ何をするでもなく、持っている武器を曖昧に構えているだけ。
 私に刃を向けながら、私から逃げるように距離を取っているだけ。
 そんなことしても、無駄なのに。
 そんな訳だから、私はこんな余計な思慮に耽る余裕があるのだけれど。
 でも、流石にそれももう飽きた。
「あれだけお仕事開始の鐘を鳴らして差し上げたのに、まだ起きない寝坊助さんがいるのかしら。それともそんなことにも気付かない程、あなた達は間抜けなお馬鹿さんなのかしら。まあ、どちらでも構いませんわ。どうせみんな、どれが何だか分からなくなるんですもの」
 そうして私は前へと進む為の最も単純で簡単な答えを、「ばーん!」という掛け声と一緒に真っ赤な解答用紙で提出していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...