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邂逅、そして会敵の朝✗45
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準備といっても私がするべきことなどほとんどない。
寧ろこの場合、アーサのほうに準備すべきことがあるのではないだろうか。
ヴァルカによって厳重に注意され窘めなれた、先ほどまでの私の所行を思い返せば必然だろう。
覚悟というか決意というか、そういった諸々に関する心と体の準備が必要ではないのか。
そう思ってアーサを見やれば、先ほどのことなどまるでなかったかのように、楽しそうな表情を浮かべている。
その顔を見た私の心に、ひとつの懸念と湧き上がる。
それは一抹の恐怖を私に与えると共に、背中に僅かな戦慄がはしらせた。
真逆、覚えていないのか?
つい先ほどまで私に、自分が何をされていたのかを。
もしかして、忘れてしまっているのではないか?
私がアーサに、一体何をしていたのかを。
私にいいように弄ばれ、艶めいた濡れた声で可愛く啼いてくれたじゃないか。
その過程と工程と終末の全てを、自分の記憶から消してしまったのか?
そう私が不安視せざるを得ないほど、アーサの様子はいつも通りだった。
ただひとついつもと違うのは、左右に大きく広げた両手が未だにピースサインのかたちをとっていることだ。
果たして私がヴァルカからお説教を受けているあいだに、何がアーサにあったというのか。
唐突に完全平和主義思想にでも目覚めたのか?
いや、それはないな。
私は一瞬で考えを改める。
アーサはもとより優しい子だ。
本来ならば戦争などいう血腥い泥濘に、足を踏み入れるべき子ではない。
そこで見なくてもいいものを、見なければいけないような子では決してない。
それでも仲間のため、みんなのため、守るために武器をとる。
自分が傷つく覚悟を以て、戦う相手を傷つける。
そんなどうしようもない世界にいても、彼女が本来いるべき世界にいなくとも、アーサの笑顔は濁らない。
自分を見てくれるひとたちのために笑顔で元気を生み出せる、本当に優しい子。
それだけ優しい心を持った子が、そのような思想に傾倒するはずがない。
よってこの推測は却下。
ではなんだ?
なんなんだ?
何が彼女をそこまでさせる?
よもやアーサの体を依り代に、蟹の神さまでも降臨したのか?
成程、そう考えれば合点承知が可能な点がいくつかある。
まずひとつ目は、さっきからアーサの足取りが何時にもましてかるいこと。
そしてふたつ目は、二本の指で形作ったピースサインをハサミのようにジョキジョキと動かしていることだ。
ふむ、これならば得心がいく。
って、そんな訳があるはずないだろう、私。
きっとまたいつも通り、単なる気まぐれな遊びだろう。
それにしてもアーサ。蟹座はいかんぞ、蟹座は。
とは言うものの、かく言う私も蟹座だがね。
寧ろこの場合、アーサのほうに準備すべきことがあるのではないだろうか。
ヴァルカによって厳重に注意され窘めなれた、先ほどまでの私の所行を思い返せば必然だろう。
覚悟というか決意というか、そういった諸々に関する心と体の準備が必要ではないのか。
そう思ってアーサを見やれば、先ほどのことなどまるでなかったかのように、楽しそうな表情を浮かべている。
その顔を見た私の心に、ひとつの懸念と湧き上がる。
それは一抹の恐怖を私に与えると共に、背中に僅かな戦慄がはしらせた。
真逆、覚えていないのか?
つい先ほどまで私に、自分が何をされていたのかを。
もしかして、忘れてしまっているのではないか?
私がアーサに、一体何をしていたのかを。
私にいいように弄ばれ、艶めいた濡れた声で可愛く啼いてくれたじゃないか。
その過程と工程と終末の全てを、自分の記憶から消してしまったのか?
そう私が不安視せざるを得ないほど、アーサの様子はいつも通りだった。
ただひとついつもと違うのは、左右に大きく広げた両手が未だにピースサインのかたちをとっていることだ。
果たして私がヴァルカからお説教を受けているあいだに、何がアーサにあったというのか。
唐突に完全平和主義思想にでも目覚めたのか?
いや、それはないな。
私は一瞬で考えを改める。
アーサはもとより優しい子だ。
本来ならば戦争などいう血腥い泥濘に、足を踏み入れるべき子ではない。
そこで見なくてもいいものを、見なければいけないような子では決してない。
それでも仲間のため、みんなのため、守るために武器をとる。
自分が傷つく覚悟を以て、戦う相手を傷つける。
そんなどうしようもない世界にいても、彼女が本来いるべき世界にいなくとも、アーサの笑顔は濁らない。
自分を見てくれるひとたちのために笑顔で元気を生み出せる、本当に優しい子。
それだけ優しい心を持った子が、そのような思想に傾倒するはずがない。
よってこの推測は却下。
ではなんだ?
なんなんだ?
何が彼女をそこまでさせる?
よもやアーサの体を依り代に、蟹の神さまでも降臨したのか?
成程、そう考えれば合点承知が可能な点がいくつかある。
まずひとつ目は、さっきからアーサの足取りが何時にもましてかるいこと。
そしてふたつ目は、二本の指で形作ったピースサインをハサミのようにジョキジョキと動かしていることだ。
ふむ、これならば得心がいく。
って、そんな訳があるはずないだろう、私。
きっとまたいつも通り、単なる気まぐれな遊びだろう。
それにしてもアーサ。蟹座はいかんぞ、蟹座は。
とは言うものの、かく言う私も蟹座だがね。
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