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邂逅、そして会敵の朝✗42
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精神を直接氷柱で貫くような、冷え切ったヴァルカの言葉。
それは曇天の永久凍土を思わせる、厳しさと重さに満ちていた。
その言葉を受けて、思わず私の体はブルッと震える。
私の心は思いもかけずにゾクリと慄く。
ヴァルカが私に向けて放った、「本当にどうしようもない」という評価。
そう私を心から認識した、ヴァルカの品評。
それが私の体を、心を、昂ぶらせて仕方ない。
心臓のビートは速くなるばかりで止まらない。
精神の昂揚が、高まるばかりで沈まない。
ヴァルカの言葉を正面から受けた私は、本当にどうしようもないほど興奮していた。
ヴァルカが私を評して零した、「本当にどうしようもない奴」という魅惑の言葉。
その甘美な響きが、私の全身に甘い痺れと疼きをもたらしていく。
私の心を、さらなる高みへと導いていく。
ああ、いいよ。
実にいい。
これはなんとも言えず素晴らしい。
途轍もなく心地いいよ、ヴァルカ。
ありがとうと、お礼を言いたい気持ちでいっぱいだ。
だって私を、こんなに気持ちよくしてくれたんだから。
その駄犬の死骸にたかる蝿を見るような、ガラス玉のように血の通わない目も。
苦虫をグロス単位で噛み潰して飲み込んだような、無表情のように渋い顔も。
最早処置なしとして見放された、突きな離すような語り口も。
その全て、その全部が私に快楽を与えてくれる。
またさっきとは違った理由で、色々なところから様々な汁が漏れそうだ。
早鐘のように打ち鳴らす心臓の鼓動に合わせるように、私の呼吸も段々と荒く激しくなっていく。
どうしよう、ちゃんと出来ているだろうか。
私はこんな状態でも、きりっとした表情と姿勢を保てているだろうか。
残念ながら、いまの私に確認する術はない。
私の目の前に鏡はなく、私の目の前にいるのがヴァルカだからだ。
そのヴァルカの様子から察するに、まだ何とか大丈夫そうだ。
私はそう、判断した。
しかしいつまで保つかは分からない。
どれだけもたせることが出来るかは未知数だ。
何故なら。
1:目の前に私に対して冷厳なるヴァルカがいる。
2:その事実が私に途方もない快感をもたらしてくれる。
3:しかし仮にも上官を前にして、表情と姿勢を崩すわけにはいかない。
4:目を逸らすことも出来ず、ヴァルカの顔を直視する以外にない。
以下、1に戻って繰り返し。
いやぁ、無限ループって怖いね。ホント。
そんな良循環とも言えず悪循環ともつかない絶妙な空気の感触が、私をさらにゾクゾクさせる。
それでも私はヴァルカの言葉に応えを返す。
だって私は、本当にどうしようもない奴なのだから。
「はい。小官の自身に対する認識も、ヴァルカ隊長のくだした評価と同じであります。小官は尊敬し敬愛する隊長殿と同じ認識を共有出来たこと、誠に光栄に存じます。かつて自分の拳だけが自慢のチンピラは勝手に自分をランク付けするなと言っていましたが、ヴァルカ隊長は特別であるとここに明言致します」
「そうか。それはまったく光栄だ。だがその男の子は、自分で決めた筋だけは通していたはずだがな。お前にはあるのか? 自分の通すべき筋というものが?」
「はい。ひとつとしてございません」
その私の言葉を受けて、ヴァルカは静かに目を溜め息と共に閉じ天を仰いだ。
はて? 一体どうしたのだろうか?
天井裏に鼠でもいるのだろうか?
いや、真逆そんなことがあるはずがない。
私のヴァルカのことだ、その理由は解っている。
きっと唐突な部下からの思いもかけない告白に、感涙に咽いでいるのだろう。
そしてその涙を私に見せまいと、顔を上げているのだ。
ヴァルカはこれで、意外と照れ屋なところがあるかならな。
それに答えた通り私に通すべき筋などひとつもないが、私が通りたい筋なら沢山ある。
少なくとも、この小隊の仲間の数だけ。
そんな微笑ましいことを考えているあいだに、ヴァルカの顔が戻ってきた。
その表情は先のお説教でのヴァルカの言葉を借りれば、「陰鬱」と題するのが最も適当だろう。
「キルエリッチャ・ブレイブレド隊員。お前は自分の言葉に、自分自身に対する認識に、何ら疑問を持たないのか? 反省点や改善点など、見出そうとはしないのか?」
そう、ヴァルカは私に問うてくる。
大丈夫。解っているよ、ヴァルカ。
この問いは、私を試しているということくらい。
どこまで私が自分自身を貫けるか、それを見たいということくらい。
ならばご期待に応えてお見せしようじゃないか。
「はい。そんなもの私には、ひと欠片もございません」
私は自信たっぷりに胸を張り、ヴァルカの問いに応えてみせた。
そう応えた、直後のことだ。
ヴァルカの鋭いチョップが私を真っ二つに割かんばかの勢いで、脳天目掛けて振り下ろされたのだった。
それは曇天の永久凍土を思わせる、厳しさと重さに満ちていた。
その言葉を受けて、思わず私の体はブルッと震える。
私の心は思いもかけずにゾクリと慄く。
ヴァルカが私に向けて放った、「本当にどうしようもない」という評価。
そう私を心から認識した、ヴァルカの品評。
それが私の体を、心を、昂ぶらせて仕方ない。
心臓のビートは速くなるばかりで止まらない。
精神の昂揚が、高まるばかりで沈まない。
ヴァルカの言葉を正面から受けた私は、本当にどうしようもないほど興奮していた。
ヴァルカが私を評して零した、「本当にどうしようもない奴」という魅惑の言葉。
その甘美な響きが、私の全身に甘い痺れと疼きをもたらしていく。
私の心を、さらなる高みへと導いていく。
ああ、いいよ。
実にいい。
これはなんとも言えず素晴らしい。
途轍もなく心地いいよ、ヴァルカ。
ありがとうと、お礼を言いたい気持ちでいっぱいだ。
だって私を、こんなに気持ちよくしてくれたんだから。
その駄犬の死骸にたかる蝿を見るような、ガラス玉のように血の通わない目も。
苦虫をグロス単位で噛み潰して飲み込んだような、無表情のように渋い顔も。
最早処置なしとして見放された、突きな離すような語り口も。
その全て、その全部が私に快楽を与えてくれる。
またさっきとは違った理由で、色々なところから様々な汁が漏れそうだ。
早鐘のように打ち鳴らす心臓の鼓動に合わせるように、私の呼吸も段々と荒く激しくなっていく。
どうしよう、ちゃんと出来ているだろうか。
私はこんな状態でも、きりっとした表情と姿勢を保てているだろうか。
残念ながら、いまの私に確認する術はない。
私の目の前に鏡はなく、私の目の前にいるのがヴァルカだからだ。
そのヴァルカの様子から察するに、まだ何とか大丈夫そうだ。
私はそう、判断した。
しかしいつまで保つかは分からない。
どれだけもたせることが出来るかは未知数だ。
何故なら。
1:目の前に私に対して冷厳なるヴァルカがいる。
2:その事実が私に途方もない快感をもたらしてくれる。
3:しかし仮にも上官を前にして、表情と姿勢を崩すわけにはいかない。
4:目を逸らすことも出来ず、ヴァルカの顔を直視する以外にない。
以下、1に戻って繰り返し。
いやぁ、無限ループって怖いね。ホント。
そんな良循環とも言えず悪循環ともつかない絶妙な空気の感触が、私をさらにゾクゾクさせる。
それでも私はヴァルカの言葉に応えを返す。
だって私は、本当にどうしようもない奴なのだから。
「はい。小官の自身に対する認識も、ヴァルカ隊長のくだした評価と同じであります。小官は尊敬し敬愛する隊長殿と同じ認識を共有出来たこと、誠に光栄に存じます。かつて自分の拳だけが自慢のチンピラは勝手に自分をランク付けするなと言っていましたが、ヴァルカ隊長は特別であるとここに明言致します」
「そうか。それはまったく光栄だ。だがその男の子は、自分で決めた筋だけは通していたはずだがな。お前にはあるのか? 自分の通すべき筋というものが?」
「はい。ひとつとしてございません」
その私の言葉を受けて、ヴァルカは静かに目を溜め息と共に閉じ天を仰いだ。
はて? 一体どうしたのだろうか?
天井裏に鼠でもいるのだろうか?
いや、真逆そんなことがあるはずがない。
私のヴァルカのことだ、その理由は解っている。
きっと唐突な部下からの思いもかけない告白に、感涙に咽いでいるのだろう。
そしてその涙を私に見せまいと、顔を上げているのだ。
ヴァルカはこれで、意外と照れ屋なところがあるかならな。
それに答えた通り私に通すべき筋などひとつもないが、私が通りたい筋なら沢山ある。
少なくとも、この小隊の仲間の数だけ。
そんな微笑ましいことを考えているあいだに、ヴァルカの顔が戻ってきた。
その表情は先のお説教でのヴァルカの言葉を借りれば、「陰鬱」と題するのが最も適当だろう。
「キルエリッチャ・ブレイブレド隊員。お前は自分の言葉に、自分自身に対する認識に、何ら疑問を持たないのか? 反省点や改善点など、見出そうとはしないのか?」
そう、ヴァルカは私に問うてくる。
大丈夫。解っているよ、ヴァルカ。
この問いは、私を試しているということくらい。
どこまで私が自分自身を貫けるか、それを見たいということくらい。
ならばご期待に応えてお見せしようじゃないか。
「はい。そんなもの私には、ひと欠片もございません」
私は自信たっぷりに胸を張り、ヴァルカの問いに応えてみせた。
そう応えた、直後のことだ。
ヴァルカの鋭いチョップが私を真っ二つに割かんばかの勢いで、脳天目掛けて振り下ろされたのだった。
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