ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

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邂逅、そして会敵の朝✗39

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「それでは心と体の準備はいいか? キルエリッチャ・ブレイブレド隊員。ここかが本番、ここからが本物の説教の時間だ。私がお前に、本当に伝えたいことの始まりだ。口幅ったいことを言うようだが、心して聞くように。なに、これでも隊で最年長者の人間の話だ、聞いておいて損はさせんさ。お前の持てる貴重な時間を、無駄にするような無粋な真似はしないと約束しよう。これもまたお前のさらなる成長、一層の飛躍を心から望んでいるが故だということを、解ってもらえると有り難い。本来ならばお前から理解されようなどと、私が望んでいいものではないのだがな。今回だけはご容赦願おう。とは言っても、いまはまだ私が何をお前に対して言葉にしても、ただ小五月蠅いだけの余計な諫言にしか聞こえないだろう。だが得てして説教とはそういうものだ。いつかお前に理解してもらえるな日がくるだろうなどと、そのように押し付けがましいこと思っては言わん。いつかお前に感謝される日が訪れるなどと、私は自惚れたりはせん。ただお前が自分の道を歩むとき、道ばたに転がる小石に足を、支えになればそれで充分。お前が己の未知を進む際、思わぬ落とし穴に嵌まらぬよう、気付きになればそれで十全。言わば私の話は転ばぬ先の杖。降らぬ先の傘。それを心身に装備して、石橋を叩いて渡ってほしいのだ。本当ならばそのような不安や懸念や憂いなど何もなく大手を振ってお前を送り出し、お前自身が辿り着きたいと望む場所へと歩み進めればいいのだがな。しかし、そうは問屋がおろさない。お前も知っての通り、この世界は千変万化。理不尽に溢れ、不条理に塗れている。だからこそ、お前の進む未知の道を照らす灯りになれば、少しでもお前の歩むさきの一助になればと、ただ、それだけを願っている。本来ならばそのようなもの、何も必要としないのが何より一番なのだがな」
 ヴァルカ隊長、本当にありがとうございます。
 こんな私なんかのために、そんなにお話頂いて。
 まさに話が身にしみるとはこのことです。
 隊長御自らそのような貴重で有意義なお話を伺うことが出来たこと、感謝の意に耐えません。
 そう、耐えません。
 私の体が耐えられません。
 私が不甲斐ないばっかりに。
 大変申し訳ございません。
 ヴァルカ隊長のお話、確かに心に響きました。
 隊長が私たちのことを本当に大切に、本気で大事に思ってくださること、痛いほど伝わりました。
 そう、痛いのです。
 私の心が痛いのです。
 私に意気地がないばっかに。
 誠に口惜しい限りです。
 でも、もう限界なのです。
 私には、もう我慢できないのです。
 ヴァルカ隊長には、上官である以上に尊敬と敬意の念を抱いております。
 ですのでこのようなことを思うだけでも、心底心苦しいのです。
 ですが想いは、思うことは止めることが出来ないのです。
 なので言わせて頂きます。
 口には出さず、心のなかだけで叫ばせて頂きます。
 せーのっ。
 は、な、し、ながっ!!
  ある程度予想はしていたとはいえ、真逆まさかここまで凄まじいとは。
 何ですかこれは!
 何なんですか一体!
 このお説教の無限ループは!
 始まりそうになっても始まらない。
 終わりそうになったらまた始まる。
 言ったり来たりのくり返しで、全然出口が見えません。
 確かにヴァルカ隊長のお心は伝わりました。
 そのお気持ちは本当に、泣きそうなほど嬉しいです。
 ですが涙が零れてしまうのは、まったく違う理由からです。
 それはこの精神を、四十番手のヤスリで削ぎ取られるような感覚からです。
 果たして、これは何なのでしょう?
 私は一体何の罪を背負って、果たしてどんな罰を受けているのでしょうか?
 もしかしてヴァルカ隊長はそれを私自身に悟らせるために、このような迂遠な方法をとっておられるのでしょうか?
 と、ここまで思考が一巡したところで、それはないなと思いなおす。
 この大胆不敵、勇猛果敢、果断即決を己の信条とするヴァルカが、そんな婉曲な手段を用いる訳がないからだ。
 故にこれは年長者特有の話の冗長さ・・・・・・・・・じゃなくて、有り余る経験を語り尽くせないだけだろう。
 そんなけしからんことを考えていた丁度そのとき、ヴァルカから声が掛かった。
 そのとき私の呼吸は一瞬、止まる。
「どうした? キルエリッチャ・ブレイブレド隊員? 話に身が入っていないようだが、どこか調子でも悪いのか?」
 そうだ、これだ!
 これを利用シない手はない。
 私は渡りに船とばかりにヴァルカの言葉に乗っかった。
「アイタタタタ、じ、実はそうなんです・・・・・・・・・。さっきから、その、持病のしゃくが・・・・・・・・・」
 私は精一杯苦しそうな演技をし、己が窮状を訴える。
「ほう、それは大変だな」
「ですのでここまででちょっと席を外して、お花を摘みにいきたいなーなどと小官は思う所存であります!」
 そう、私は精一杯、自分の病状をヴァルカに告げてしまったのだった。
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