ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

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邂逅、そして会敵の朝✗30

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 私はアーサのかけてくれた言葉によって、我に返った。
 アーサの示してくれた優しさによって、己を取り戻すことが出来た。
 アーサは私がアッチの世界にトリップ&ゴーしているあいだのことは、何も聞かずにいてくれた。
 私があのような妄想にふけるのを見て見ぬふりをする情けが、アーサにあって本当によかった。
 いや、あれは情けではないのだろう。
 アーサ自身が持つ、心の温もり、
 私にはない、魂の輝き。
 利己も利益も利害も存在しない、アーサが天然で与えてくれる慈愛百%の思いやりなのだ。
 ならばその想いに応えるには、なんと答えればよいのか。
 どんな言葉を、かければいいのか。
 それはもう、決まっている。
「ありがとう。そしてただいま、アーサ」
「どういたしまして。そんでもっておかえり、キルッチ」
 何も差し出すことが出来ない私が与えられたなら、返せるものはただひとつ。
 純粋なる、感謝の言葉だけだった。
 アーサが私に示してくれたもの。
 私がアーサから、受け取るだけだったもの。
 それこそが、本物の愛情なのだろう。
 見返りも対価も求めない、親が我が子に注ぐ無償の愛そのものなのだろう。
 私の私利邪念と欲望に塗れた汚れた愛とは大違いだ。
 さて、私の中身が如何にどす汚れているかを再確認出来た。
 しなくても、解りきっていたことだが。
 それでも己を識ることは、自分が何物であるかを忘れないために必要な作業だ。
 あっ、そうだ。いま思い出した。
 そう、作業だ。
 私には、まだやるべきことが残っている。
 みんなの、アーサの命を守る、大切な確認と大事な点検が。
 途中からそれが何かにすり替わっていたような気がするが、きっとただの気の所為だろう。
 ならばここからは、私のやるべきことをやらねまならぬ。
 確認と点検、その工程を整理し調整を施し順序よく進めていかなければならない。
 ついさっきまでのような愉しくも苦しい妄想の泥沼に、沈んでいる暇はないのだ。
 だがその最中にも、私にはまだ一片の職業意識が残っていたようだ。
 その証拠に、
「済まない、アーサ。要らない気を遣わせてしまって。私はどうやら無意識のうちに、アーサの優しさに甘えてしまっていたようだ。だがアーサの声で我を取り戻すことが出来た。アーサが言葉をかけてくれたから自分を見失わずにすんだ。今日の醜態は後日必ず挽回する。次の出撃では私がみんなを守る盾となり、みんなを助ける剣になる。その大切な想いを、それだけ大事な決意を、アーサは思い出させてくれた。改めて、もう一度言わせてほしい。本当にありがとう、アーサ」
 私は心の底から湧き上がる熱情を、虚飾も加工もすることなく真っ直ぐにそのまま伝えた。
 その言葉を真正面から受け留めたアーサの滑らかな頬は、林檎のように真っ赤に染まっていた。
 こうしてすぐに照れて赤くなるところも、また得も言われぬほどに可愛らしく愛らしい。
「別に、あたしは何もしてないよ。でも、まあ、キルッチがそれでいいなら、あたしもそれでいいけどさ」
 アーサは自分は関係ないと主張するように、応えながらそっぽを向いた。
 そのとき捻られた体により主張されたふたつの膨らみとその頂点を、私の目が見逃すことはない。
「それにキルッチにお礼を言われるのって、なんだかとっても気分がいいし気持ちもいいしね」
 本音なのか照れ隠しなのか、アーサはそう言って私に向かって
 たとえそのどちらであろうと、アーサが求めるならば応えるまでだ。
 私も、気持ちのいいことは大好きだしな。
「そうか、それではお望みに応えよう。ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありが・・・・・・・・・」
「一回でいいよ! そんなに一度に何回も言われたら、それこそ言われるたびに有り難みがなくっていくよ! そんなことより、ほら。まだ作業はのこってるんだからさ。ねっ。続き、しよ?」
 その言葉が私の耳を打った瞬間、全身の血液が沸騰した。
 両目はくわっと見開かれ、心臓はありえない速さでビートを刻む。
 続き、しよ?・・・・・・・・・だと・・・・・・・・・。
 そんなこと・・・・・・・・・、するに決まっているじゃないか!
 アーサの言葉は外耳も中耳も内耳も貫通し、私の脳を直撃する。
 そこに刻まれた傷痕は、永遠に残り続けるだろう。
 そしてここからが、例えばのその二。
 アーサの艶に濡れた声と、ヴァルカの冷たく厳しい視線。
 そのふたつの板挟みとなった、楽しくも苦しい時間の始まりだった。
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