ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

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邂逅、そして会敵の朝✗26

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「よーし。それではいくぞ、アーサ」
 言いつつ私は既に両手を伸ばしている。
 その指先はまるで精緻な芸術品に触れるように、微かに震えていた。
「オッケー。どーんと来い、キルッチ」
 対して持ち前の切り替えの早さと良さを遺憾なく発揮したアーサの声は元気いっぱい。
 両手を腰に当て背中を反らすようにして胸を張ることで、私にその肢体の全てを
 小柄なアーサが私と目を合わせるように僅かに顎を上向かせているせいで、可愛いふたつの突起の主張までもが目に入る。
 背筋を伸ばしたその姿勢は、見ようによってはまさしく口づけをせまっているかのようにも見えなくもない体勢だった。
 据え膳食わぬは私の恥だ。
 負けることが恥ではない!
 戦わぬことが恥なのだ!
 というわけで、遠慮なくいただきますと言っていただきたいところだが、ここはグッと我慢の子。
 いまはそんな場合でも状況でもないことは、事ここに至るまでにしっかりと理解させれている。
 故に。
 ときめくな私の心。
 揺れるな私の心。
 邪念は仕事を遅らせる。
 ああしかし、駄目だよアーサ。そんなことをしていては。
 そんなふうに、無自覚にひとを誘惑するなんて。
 それでは、悪い虫が際限なく寄ってきてしまう。
 そして最後には、羊の革を被った悪い狼に食べられてしまうじゃないか。
 童話のようにで助けがくることは、現実ではないのだから。
 あとで核心に触れることがないよう細心の注意を払いながら、それとなく気をつけるようにさり気なく注意しよう。
 そんな姿は私以外には見せてはいけないよ、と。
 そうすることで私は、自分がであることを再確認する。
 でなければ、私が楽しめなくなってしまうからな。
「アーサ、もしくすぐったくても暴れたりしないでくれよ」
 私は作業に入る前に、ひとつ釘を刺しておく。
「またあたしのことそんなふうに子供扱いして。しないよ、そんなこと。それにキルッチに触られるくらい、あたしには何ともないもんね」
 よし。その言質頂戴したぞ、アーサ。
「だってキルッチは、あたしの嫌がることは絶対しないって知ってるからね」
 ・・・・・・・・・うん。その信頼に全力で応えよう、アーサ。
 アーサの言葉によって心を漂白された私は、しずしずと目の前のあるお腹とくびれに手を触れた。
 アーサの胸から腰にかけてのくびれのラインは、美しい砂時計型を描いている。
 その麗しの線上を、こわれものを扱うようにゆっくりと優しく撫でていく。
 勿論これはアーサが装着しているスーツに対しての確認と点検であり、アーサ自身の肉体に対する接触では当然ない。
 そう、そんなことは当然ない。
 これはいたって真面目な作業なのだから。
 アーサの命に関わる、重大かつ重要な仕事なのだから。
 そのようなよこしまな想いにとらわれていいはずがないのだ。
 はずなのだが・・・・・・・・・、そんなこと思っていられるか!
 だって私のすぐ目の前に、アーサの瑞々しい肉体があるんだよ!?
 しかもそのフレッシュな少女の体に、合法的に触れることが出来るんだよ!?
 この極薄の隔たりのすぐ内側にアーサ自身がいるかと思うと、私は、私は・・・・・・・・・。
 果たして自分を抑えることが出来るのだろうか?
 いかん、顔面の穴という穴から汁が漏れそうだ。
 おのれ。まさに己に負けるな、キルエリッチャ・ブレイブレド!
 いまだけは、善良な羊の皮を被るんだ。
 その内心の葛藤を表すように、私の手はアーサの肉体を愛でながらもスーツの確認項目と点検事項を消化していく。
 その動きは、さながら二匹の蜘蛛の如く蠢いていた。
 先ほどはそんなことはあってはならぬと自分から否定したが、ここでもう一度考え直す。
 沢山の蟲にたかられ蝕まれていく、幼気いたいけな面影を残した可憐な少女。
 ・・・・・・・・・いいじゃないか。
 そんな邪どころか邪悪に片足を突っ込んだようなことを思考していると、頭の上から可愛らしい笑い声が降ってきた。
「きゃはは。キルッチ、くすぐったいってば!」
 言いながらアーサはくねくねと身を捩る。
「さっき自分で何と言ったかもう忘れたのか、アーサ」
 とりあえず自分のことは全部まとめて棚上げして、軽くアーサを嗜める。
 こうして私とアーサの共同作業は、かしましくも笑いが絶えずに進んでいくのだった。
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