ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

文字の大きさ
上 下
23 / 45

邂逅、そして会敵の朝✗23

しおりを挟む
「ではそういう訳だから、そろそろ作業を再開するとしようか。アーサ」
 私は怯えて震える小動物に接するように、出来る限り優しい声でアーサを促す。
「なんでぇ・・・・・・・・・、どうしてぇ・・・・・・・・・」
 それでもアーサは、まだ若干以上に引いていた。
 私は純粋に疑問に思う。
 アーサは、何をそんなに恐れているのだろうか。
 何がそれほど怖いのだろうか、と。
 しかしそんなアーサの様子は、それはそれで私の庇護欲と嗜虐心を大いに
 最早私を誘っている言っても過言ではないほどにとっても可愛らしく、また途轍もなく愛らしい姿なのだ。
 まるで、私の我慢の限界値を試しているかのようだ。
 見ているだけで、色々と溢れ落ちてしまいそうだ。
 見ているだけで、体の中を虫が這い回るようにウズウズしてくる。
 故に、見ているだけなんて耐えられない。
 いますぐ抱きつき頬ずりしたい。
 そのまま口づけの雨を降らせたい。
 アーサの体のいたるところを撫でくりまわし、可憐な声を聞いてみたい。
 私の両手が、光りを反射し濡れるまで。
 そんなことを能面の如き表情で考えていると、何やらアーサが小声で呟いている言葉が耳に届いてきた。
「そういう訳って、どういう訳なの。そこからどんな言い訳がキルッチの脳内で展開されて、こんな成り行きになってそんな言葉がでてくるのぉ。怖いよ恐いよ、あたしにはさっぱり訳分かんないよぉ。目の前にいるのはキルッチだよね? 私の知ってるキルッチだよね? いつの間にか入れ替わった、沼男とかドッペルゲンガー的な謎のおばけとかじゃないんだよね? あれ? でもそっちのほうがコワイのかも。そもそもあたしはキルッチのことを理解していたの? それとも後解していたの? もしかしてキルッチはあたしの知らない間にあたしの理解を超えて、行き着くところまで行き着いてしまったの? もう、何が何だか訳分かんないよぉ」
 ああ、これはいけない。
 どれだけ可愛らしく愛らしくても、アーサを不安にさせて不安定にすることは私の本意ではない。
 この姿のままのアーサを箱に閉じ込め、ずっと眺めて愛でていたいといのは本音だが。
「アーサ」
「はひっ!」
 アーサは私の呼びかけに、ビクッと肩をすくめて上ずった声で返事をする。
 そんなところが実に私の心にくすぐって堪らないよ、アーサ。
 だがいまは、アーサを落ち着けることが先決だ。
「大丈夫だよ、アーサ。いま君の目の前にいる私は、君と寝食を共にし、君と共に戦場を駆け、君と共に笑いあった、君のよく識るキルエリッチャ・ブレイブレドだ。信じてくれとは言わない。だがアーサ、君からの信頼に全力で応えることを私は心から君に誓おう」
 そう言って私は両手を広げる。
「ほ、ほんとうぉ?」
「本当だとも。さあ、おいで。アーサ。真実は、君自身で確かめてごらん」
「う、うん・・・・・・・・・」
 私の言葉を受けたアーサはおっかなびっくり、しかし一歩ずつ確実に私に向かって近づいてくる。
 そして私の胸にそっと顔を埋めたところで、その柔らかな体を優しく抱きとめた。
「ほら、コワイことなんて何もないだろう?」
「うん、本当だ。いつもの、あたしの知ってるキルッチの匂いだ」
 いつも通りの戻った声に、少し涙を滲ませて応えるアーサ。
 その背と髪を優しく撫でながら、私はアーサの肩に顎を載せる。
 計画通り。
 という訳ではまったくない。
 しかし私は図らずとも自分を疑わせることにより、より深くアーサの信頼をあらたにすることに成功したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...