ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

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邂逅、そして会敵の朝✗22

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「えーと、それじゃあ、ひとつだけいいかな」
 私の言葉を受けて、アーサはおずおずと小さく手を挙げながら口にする。
 ああ、勿論だとも。
 さあ、なんでも言ってごらん、アーサ。
 どんなことであろうとも、私が全て受け留めてあげるからね。
「キルッチが何を言ってるのか解んないけど、あたしには解んないことをキルッチが言ってるのは、分かったよ。なんとなくだけど」
 よしよしアーサ、君はそれでいいんだよ。
 それだけでも解ってくれれば、充分なのだから。
 そう、それだけでも解ってくれたなら。
「それではアーサ。これからどうすればいいかは、?」
「? いや、解らないよ」
 アーサは頭の上にはてなマークを浮かべたような顔で、私に応える。
「そうか。ならば一からレクチャーしよう」
 ならば教えて進ぜよう。
「まず最初に、アーサが私の前で服を脱ぐんだ」
 出来るだけゆっくりと、たっぷりと時間をかけて。
「いやいやいやいや! 解らないってば! だからどうしてそうなるの? なんでそうなっちゃうの!? それじゃあ話が飛んじゃってるよ! 確かに飛んで最初の一に戻ったよ! だけどそれって違うよね! これって本末転倒のムーンサルトだよね! スーツの確認と点検をしてるのに、脱いじゃったら意味ないよね! そもそもあたしがいまここで服を脱ぐ意味がまったく存在しないよね!」
 そんなことはないよ、アーサ。
 自分を卑下してはいけない。
 少なくとも方舟が必要な程度には、私の心は大いに潤うのだから。
 上も下も、歴史に残る大洪水になることは確実だ。
 もっとも、そんなことになったあかつきには、私にとって記録に残る大きな汚点になることは確実に間違いない。
 故に、それだけはなんとしても避けねばならない。
 私がこれまでコツコツと危ない橋を綱渡りしてきて積み重ねてきたみんなからの信頼が、ジェンガのように音を立てて倒壊してしまう。
 この隊におけるキルエリッチャ・ブレイブレドという人間像が、砂のように崩れ去ってしまう。
 それだけは、なにがなんでも回避したい。
 みんなとへの信頼関係を失いたくない。
 みんなとの人間関係を壊したくない。
 私の嗜好を満足させるため、趣味と実益を執行するために。
 あるよね? しっかりとした信頼関係。
 築いてるよね? ちゃんとした人間関係。
 私は先ほどのアーサのように頭に浮かんだ疑問符を振り払う。
 そして再びアーサへと向きなおる。
「済まない。ちょっと口が滑ったようだ」
 私はきりっとした表情のまま、自分の額にコツンと拳を当てる。
「うわぁ・・・・・・・・・すごいやこのひと。ひと言で済まないことを、似合わない茶目っ気で押し通そうとしてるよぉ・・・・・・・・・」
 アーサが仰け反るようにして、微妙に私から距離をとる。
 どうしたんだい? アーサ?
 そんなふうに、怯えたような顔をして。
 何も恐いことなど、ないというのに。
 怖いひとなど、ここには何処にもいないというのに。
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