ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

文字の大きさ
上 下
21 / 45

邂逅、そして会敵の朝✗21

しおりを挟む
 順調にアーサの思考は私好みに誘導されているようだ。
 アーサを上手く口車にのせ陥穽にはめ込んだ手応えを得た私は、次のステップへと移行する。
「それではアーサ、確認と点検作業へと移るとしようか」
「なんで! なんでキルッチはそんな何食わぬ顔で状況を進めようとしてるのさ!」
 アーサは言葉の勢いは変わらずとも、声量を必要最低限まで落として私に詰め寄る。
 ああ、いいよアーサ。その調子だ。
 もっと私に近づいてきておくれ。
 そしてそのまま、もっと私を詰ってなじって詰っておくれ。
「なんでと言われても答えはひとつしかないよ。だってほら、時間は有限だよ、アーサ」
 私は口先ばかりはごく常識的な言葉を口にする。
「それは分かってるけど! ちゃんと分かってるけど! こんな間違った場面を正論で押し切ろうとしないでよ!」
 流石だ、アーサ。いい勘をしている。
 私の思惑を直感だけで見抜くとは。
 そんなところも素敵だよ、と口にしたいのは山々だがここは一気に話を進めて畳み掛けよう。
「それは違うよ、アーサ。正論が適用されるということは、それはいまが正しい場面だということだ。正しいこということは、間違っていないということに他ならない。故に、。さてそうなると、問題がひとつ浮上する。果たしてここでは一体誰が、。ここには私とアーサのふたりしかいない。ならば間違っているのは私のアーサのどちらかなのは自明の理だ。しかし、私は間違っておらず正解している。ということは、だ。私としてもこんなことは言葉にはしたくない。出来うることなら私の胸のなかにだけ秘めておきたい。しかし図らずとも先ほどアーサ自身が納得したように、時間がないのだ。まったくもって憎らしい限りだよ、時間というものは。いつもいつも、何様のつもりか知らないがひとの心を自儘に縛る。そして行動までをも制限してしまう。現にいまこうしている間も、早く前に進めと急かしてくる。。よってまったくもって遺憾の極みだが、。私としてもこんなことはしたくはながいが、ここで明確にしなければならない。ここに線引きをしなければならない。ここにいる誰が、私とアーサのふたりのうちのどちらかが間違っているのかを。しかし先にも述べたように。ということは、だ。残念ながら、間違っているのはふたりのうちの残されたひとり、そうアーサ、君ということになってしまうのだ。だが安心してほしい。私はアーサの言葉ならどんなことでも聞き入れる。如何なる弁明もどのような釈明も、真摯かつ誠実な態度を以てして受け容れよう。さて、ここまでが私の見解にして所見な訳だが、ここまでで何か私に言いたいことはあるかな、アーサ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...