14 / 45
邂逅、そして会敵の朝✗14
しおりを挟む
「では、続いて触診に移ろう。早くしないと、みんなに置いていかれてしまうからな」
もう一度九十度ターンし再びアーサと向き直ったそのときには、先程までと同様きりっとした表情を取り戻している。
「えー! それは困るよキルッチ。お願いだから早く、早く!」
ああ、駄目だよアーサ。いまそんなことを言ってしまっては。
いくらこの私でも、限度と限界というものがあるんだよ。
「わかったわかった。だからそんなにわたしを誘惑しないでくれ、頼むから」
「誘惑? 誘惑って? あたしなんにもしてないよ?」
アーサはごく自然な仕草で顎に指を当て、先の質問したときと同じように首をちょこんと傾ける。
これはひとに物を尋ねるときのアーサの癖だ。
本来ならばあざとさが鼻につき興醒めもいいところだが、純真で初心なアーサがやってみせると話がまったく変わってくる。
その破壊力たるや如何ほどか!
まさにバンカーバスターの如く、私の心を貫いて爆砕する。
そんなアーサ自身はというと、さっきからじゃれつく猫のようにぴょんぴょん飛び跳ねながら答えを催促している。
その可愛すぎて愛らしすぎる様子と相まって、私の我慢の堰がいまにも決壊しそうだ。
ここは落ち着け、何としても落ち着くんだ私。
私がこれまで培ってきた鋼の理性は、こんなものではないはずだろう。
まずはとりあえず、素数を数えながらハンニャシンキョウを唱えるんだ。
だけど、ところでハンニャシンキョウって一体なんなんだろう?
「ねーねーキルッチー、誘惑ってどゆことー?」
「あ、ああ済まない。あれはただ機知に富んだ表現をしてみたかっただけだよ。見事に伝わることがなくてよかったがな。つまるところは、私を焦らせないでくれということだけだよ」
私は何食わぬ顔で、自分の欲求の発露を誤魔化して訂正する。
「なーんだ、そういうことだったんだ。それならもっと分かりやすく言ってよね。あたし、そんなまわりくどい言い方されてもよく解んないだからさ」
ひとの言葉の裏を読めない察しのわる、おほん。
ひとを疑うことを知らない無垢なアーサで本当によかった。
出来ることならずっとそのままでいておくれ、アーサ。
「あっ、言っておくけど、これってあたしの頭が悪いって訳じゃないからね」
言われなくても、解っているとも。
悪いのは、全て私だということくらい。
「ああ、勿論。そんな勘違いをする訳がないだろう? アーサは賢くて純粋ないい子だ。それくらい、私にだって解っているよ」
「いや、えっと、その、何ていうか。なんかそんなふうに言われると、照れるっていうか、・・・・・・・・・恥ずかしい」
アーサは人差し指の先端をくっつけたり離したりしながら、もじもじと太ももをこすりつけ体をくねらせながら顔を逸らす。
その逸らした顔は、林檎のように真っ赤に染まっていた。
もう駄目だ、食べたい!
この未成熟な青い果実にかぶりつきたい!
普段活発で元気の塊のような女の子が見せる、まさに処女のように未通女い恥じらい。
その様子は、私の誇る鋼の理性に容易くヒビを入れてくれた。
いかん、堪えろ。どんなことをしても我慢するんだ、私。
食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ。
・・・・・・・・・ふぅ。
なんとか、落ち着いたか。
厳しい戦いだった。
だがどうにか、自分の衝動に打ち勝つことが出来た。
真の敵は己自身とは、本当によく言ったものだ。
私はこのとき思った。
後世まで残る格言とは、切羽詰まった状況に対する実体験から生まれたんだろうなと。
そう、朧気ながらも確信を以て納得していた。
もう一度九十度ターンし再びアーサと向き直ったそのときには、先程までと同様きりっとした表情を取り戻している。
「えー! それは困るよキルッチ。お願いだから早く、早く!」
ああ、駄目だよアーサ。いまそんなことを言ってしまっては。
いくらこの私でも、限度と限界というものがあるんだよ。
「わかったわかった。だからそんなにわたしを誘惑しないでくれ、頼むから」
「誘惑? 誘惑って? あたしなんにもしてないよ?」
アーサはごく自然な仕草で顎に指を当て、先の質問したときと同じように首をちょこんと傾ける。
これはひとに物を尋ねるときのアーサの癖だ。
本来ならばあざとさが鼻につき興醒めもいいところだが、純真で初心なアーサがやってみせると話がまったく変わってくる。
その破壊力たるや如何ほどか!
まさにバンカーバスターの如く、私の心を貫いて爆砕する。
そんなアーサ自身はというと、さっきからじゃれつく猫のようにぴょんぴょん飛び跳ねながら答えを催促している。
その可愛すぎて愛らしすぎる様子と相まって、私の我慢の堰がいまにも決壊しそうだ。
ここは落ち着け、何としても落ち着くんだ私。
私がこれまで培ってきた鋼の理性は、こんなものではないはずだろう。
まずはとりあえず、素数を数えながらハンニャシンキョウを唱えるんだ。
だけど、ところでハンニャシンキョウって一体なんなんだろう?
「ねーねーキルッチー、誘惑ってどゆことー?」
「あ、ああ済まない。あれはただ機知に富んだ表現をしてみたかっただけだよ。見事に伝わることがなくてよかったがな。つまるところは、私を焦らせないでくれということだけだよ」
私は何食わぬ顔で、自分の欲求の発露を誤魔化して訂正する。
「なーんだ、そういうことだったんだ。それならもっと分かりやすく言ってよね。あたし、そんなまわりくどい言い方されてもよく解んないだからさ」
ひとの言葉の裏を読めない察しのわる、おほん。
ひとを疑うことを知らない無垢なアーサで本当によかった。
出来ることならずっとそのままでいておくれ、アーサ。
「あっ、言っておくけど、これってあたしの頭が悪いって訳じゃないからね」
言われなくても、解っているとも。
悪いのは、全て私だということくらい。
「ああ、勿論。そんな勘違いをする訳がないだろう? アーサは賢くて純粋ないい子だ。それくらい、私にだって解っているよ」
「いや、えっと、その、何ていうか。なんかそんなふうに言われると、照れるっていうか、・・・・・・・・・恥ずかしい」
アーサは人差し指の先端をくっつけたり離したりしながら、もじもじと太ももをこすりつけ体をくねらせながら顔を逸らす。
その逸らした顔は、林檎のように真っ赤に染まっていた。
もう駄目だ、食べたい!
この未成熟な青い果実にかぶりつきたい!
普段活発で元気の塊のような女の子が見せる、まさに処女のように未通女い恥じらい。
その様子は、私の誇る鋼の理性に容易くヒビを入れてくれた。
いかん、堪えろ。どんなことをしても我慢するんだ、私。
食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ。
・・・・・・・・・ふぅ。
なんとか、落ち着いたか。
厳しい戦いだった。
だがどうにか、自分の衝動に打ち勝つことが出来た。
真の敵は己自身とは、本当によく言ったものだ。
私はこのとき思った。
後世まで残る格言とは、切羽詰まった状況に対する実体験から生まれたんだろうなと。
そう、朧気ながらも確信を以て納得していた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる