9 / 45
邂逅、そして会敵の朝✗9
しおりを挟む
この世界が変わったのは、思えばいつの頃からなのだろう。
記録には残っていても、記憶にはないときに思いを馳せる。
この世界が変わってしまったそのとき、ひとは何を考えていたのだろう。
既に失われたときのなか、ひとの心に刻まれた想いに思考を巡らせる。
私はこの思いに囚われたとき、いつもたったひとつのことを考える。
世界が変わり、日常が崩れ、いつも通りが覆ったそのとき。
果たしてひとは、一体何と取り引きしたのだろうか、と。
記録に残ることはなく、記憶にのみ遺された想いの残滓。
たとえ神の奴隷となってでも、世界を守りたいと願った尊い望み。
私には想像することしか出来ず、私などには想像すら出来ない現実。
その裏返った現実に、ひとは如何なる意志を以て抗したのか。
私には思い、考えることしか出来ない。
ただ教えられたままの事実を、頭のなかで反芻することしか許されていない。
だけどそれも、当然のことだった。
その当時、私は世界の何処にも存在していなかったのだから。
だからこそ、私はこの憂鬱な気持ちを払拭する為に辿っていく。
現実を受け容れ、事実を見据え、過去を紐解いていく。
そうして生き延びてきた、人類の軌跡を。
全ては、太陽が消えた日から始まった。
何十年も前のとある日蝕の日を境に、世界の様相は一変した。
これまで何千年と同じひと同士で戦い続けてきた人類。
それが初めて、自分達だけを殺す「敵」と出逢ったのだ。
レッド。
R・E・D。
正式名称、RE:code・extinction・Destruction。
再発性特殊自然災害指定生物。
とある国ではそうも呼称される、未知の生き物達と。
奴らは、必ず海からやってきた。
これも何らかの確証がある訳ではない。
だがこれまで人類が撃退してきたレッドのなかに、ひとつの例外もいない。
何の前触れもなく、突如として海上に出現するのだ。
そして陸地を、いや、人間を求めて進み出すのだ。
レッドが出現し始めた当初は各国の足並みも揃っておらず、また有効な迎撃手段もなかった。
その為いまでは考えられないことだが、奴らとの戦闘は陸上が主戦場だったらしい。
そうして人類は初めて、自分達以外の生き物との「戦争」を開始した。
開戦当初は未知の敵に苦戦を強いられ、一進一退の拮抗状態を保つのがやっとだったという。
それを可能とした理由は、ふたつある。
ひとつは当時の人類が所有していた兵器、ひとがひとを壊し殺す為の手段でもレッドにある程度の損害を与えることが出来たこと。
そして残ったふたつ目の理由。
いまをもってしてもその動機は不明だ。
だが摩訶不思議なことに、何故かレッドは決して人間以外を壊しはせず殺しもしない。
自然そのものと、そのなかに生きる生物は言うに及ばず。
レッドは人間が建造した建築物すら、自らの手で破壊しようとはしなかった。
なかには文化財に指定されていた国のシンボルを、身を挺して守ったという記録まである。
その不可思議なレッドの生態が、復興に対する大きな一助となったことは周知の事実だ。
しかし一体どんな皮肉なのだろう。
人間より怪物のほうが、気を遣って戦争をしてくれるなんて。
しかし、その落陽の日々も長くは続かない。
ある日突然大国同士が結束し、レッドに対して戦略敵な戦線を構築したのだ。
まるで、こんなときが訪れることを解っていたように。
「エクリプス・デイ」と名付けられた、何処までも人類に都合のいい名称が定められたのだ。
そしてあらかじめ用意しておいたかのように、ときを同じくして現れる。
異能の力を操り、「オルタ」と呼ばれる特殊なユニットを装備しレッドを狩る。
それが私たち、「エクスタミネーター」。
世界の防人にして、人類の守り人たる猟犬だった。
記録には残っていても、記憶にはないときに思いを馳せる。
この世界が変わってしまったそのとき、ひとは何を考えていたのだろう。
既に失われたときのなか、ひとの心に刻まれた想いに思考を巡らせる。
私はこの思いに囚われたとき、いつもたったひとつのことを考える。
世界が変わり、日常が崩れ、いつも通りが覆ったそのとき。
果たしてひとは、一体何と取り引きしたのだろうか、と。
記録に残ることはなく、記憶にのみ遺された想いの残滓。
たとえ神の奴隷となってでも、世界を守りたいと願った尊い望み。
私には想像することしか出来ず、私などには想像すら出来ない現実。
その裏返った現実に、ひとは如何なる意志を以て抗したのか。
私には思い、考えることしか出来ない。
ただ教えられたままの事実を、頭のなかで反芻することしか許されていない。
だけどそれも、当然のことだった。
その当時、私は世界の何処にも存在していなかったのだから。
だからこそ、私はこの憂鬱な気持ちを払拭する為に辿っていく。
現実を受け容れ、事実を見据え、過去を紐解いていく。
そうして生き延びてきた、人類の軌跡を。
全ては、太陽が消えた日から始まった。
何十年も前のとある日蝕の日を境に、世界の様相は一変した。
これまで何千年と同じひと同士で戦い続けてきた人類。
それが初めて、自分達だけを殺す「敵」と出逢ったのだ。
レッド。
R・E・D。
正式名称、RE:code・extinction・Destruction。
再発性特殊自然災害指定生物。
とある国ではそうも呼称される、未知の生き物達と。
奴らは、必ず海からやってきた。
これも何らかの確証がある訳ではない。
だがこれまで人類が撃退してきたレッドのなかに、ひとつの例外もいない。
何の前触れもなく、突如として海上に出現するのだ。
そして陸地を、いや、人間を求めて進み出すのだ。
レッドが出現し始めた当初は各国の足並みも揃っておらず、また有効な迎撃手段もなかった。
その為いまでは考えられないことだが、奴らとの戦闘は陸上が主戦場だったらしい。
そうして人類は初めて、自分達以外の生き物との「戦争」を開始した。
開戦当初は未知の敵に苦戦を強いられ、一進一退の拮抗状態を保つのがやっとだったという。
それを可能とした理由は、ふたつある。
ひとつは当時の人類が所有していた兵器、ひとがひとを壊し殺す為の手段でもレッドにある程度の損害を与えることが出来たこと。
そして残ったふたつ目の理由。
いまをもってしてもその動機は不明だ。
だが摩訶不思議なことに、何故かレッドは決して人間以外を壊しはせず殺しもしない。
自然そのものと、そのなかに生きる生物は言うに及ばず。
レッドは人間が建造した建築物すら、自らの手で破壊しようとはしなかった。
なかには文化財に指定されていた国のシンボルを、身を挺して守ったという記録まである。
その不可思議なレッドの生態が、復興に対する大きな一助となったことは周知の事実だ。
しかし一体どんな皮肉なのだろう。
人間より怪物のほうが、気を遣って戦争をしてくれるなんて。
しかし、その落陽の日々も長くは続かない。
ある日突然大国同士が結束し、レッドに対して戦略敵な戦線を構築したのだ。
まるで、こんなときが訪れることを解っていたように。
「エクリプス・デイ」と名付けられた、何処までも人類に都合のいい名称が定められたのだ。
そしてあらかじめ用意しておいたかのように、ときを同じくして現れる。
異能の力を操り、「オルタ」と呼ばれる特殊なユニットを装備しレッドを狩る。
それが私たち、「エクスタミネーター」。
世界の防人にして、人類の守り人たる猟犬だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる