4 / 45
邂逅、そして会敵の朝✗4
しおりを挟む
「おはよう斗雅! 我が愛しの妹よ。そして遅くなってすまな――」
結局のところ、妙案なぞ何ひとつ浮かびはしなかった。
もしかしたらと、一縷の望みを込めて死線を超える。
だがそこでも、現状を覆す閃きが雷光のように奔ることなどありはしない。
神の思し召しの如く、現在を好転させる天啓が降りてくるなどありえはしない。
果たして、世界に見捨てられるとはこんな気分なのか。
自分が磔にされる十字架を自分で運ぶ罪人よろしく、悲嘆と悲哀に暮れた気持ちに浸る。
しかし、そんなことに時間を浪費している暇はない。
何故なら、俺はまだ諦めていないからだ。
件の名言のように、諦めたら試合終了なのではない。
諦めることさえしなければ、何度でも試合は出来るのだ。
その結果導き出された答えは、いつも通りに落ち着いた。
いつも通りが最適なのだと、平穏かつ安全な解に辿り着いた。
その帰結として発した言葉が、先の爽やか極まる朝の常識だった。
定番の挨拶に月並な謝罪。
これがいつもの通りなら、斗雅は確実に許してくれない。
暴力、説教、論破の三羽烏が、徒党を組んで怒涛の勢いで押し寄せてくる。
その三本柱が、いつも俺を責め立てる。
しかしそこにこそ、我が愛しの妹の愛情があることを俺は識っている。
それこそが我が愛しの妹、斗雅の愛情表現なのだと俺は解っている。
だから俺はいつも歓喜と喜悦を伴って、甘んじて受けるのだ。
我が愛しの妹がこの愚兄に向けくれる愛に、それ以上の愛をもって応えるのだ。
だがしかし、今日は少々事情が違う。
序盤の第一声はただのジャブ。
そこから我が愛しの妹の緊張と警戒心を解きほぐし、軽快かつ軽妙なトークに繋げていく。
そうして斗雅の怒りを徐々に氷解させ、朝食を食べるころにはお互い笑顔。
そうして笑いながら「いただきます」とふたり揃って唱和する算段だ。
うむ、何も問題はない。
ただ懸念と不安の材料があげるとするなら、二点。
まずひとつ目は、俺には怒り心頭の人間を鎮める会話力など、初めから持ち合わせていないこと。
そしてふたつ目は、我が愛しの妹の怒りの程度が全く読めないことにある。
声音とセリフから推し量るに、我が愛しの妹は結構なご立腹だが、まだ頂点を超えてはいないだろうと推察する。
斗雅の黒瑠璃を櫛ったような髪が逆立ち、金色に染まっているということはおそらくはないだろう。
と、そのときは思っていた。
だが、その判断が何よりも甘かった。
先のセリフと共に扉を開け死線を超えたまさにその瞬間、我が愛しの妹は俺に飛びついてきた。
もとい、飛びかかってきたのだから。
結局のところ、妙案なぞ何ひとつ浮かびはしなかった。
もしかしたらと、一縷の望みを込めて死線を超える。
だがそこでも、現状を覆す閃きが雷光のように奔ることなどありはしない。
神の思し召しの如く、現在を好転させる天啓が降りてくるなどありえはしない。
果たして、世界に見捨てられるとはこんな気分なのか。
自分が磔にされる十字架を自分で運ぶ罪人よろしく、悲嘆と悲哀に暮れた気持ちに浸る。
しかし、そんなことに時間を浪費している暇はない。
何故なら、俺はまだ諦めていないからだ。
件の名言のように、諦めたら試合終了なのではない。
諦めることさえしなければ、何度でも試合は出来るのだ。
その結果導き出された答えは、いつも通りに落ち着いた。
いつも通りが最適なのだと、平穏かつ安全な解に辿り着いた。
その帰結として発した言葉が、先の爽やか極まる朝の常識だった。
定番の挨拶に月並な謝罪。
これがいつもの通りなら、斗雅は確実に許してくれない。
暴力、説教、論破の三羽烏が、徒党を組んで怒涛の勢いで押し寄せてくる。
その三本柱が、いつも俺を責め立てる。
しかしそこにこそ、我が愛しの妹の愛情があることを俺は識っている。
それこそが我が愛しの妹、斗雅の愛情表現なのだと俺は解っている。
だから俺はいつも歓喜と喜悦を伴って、甘んじて受けるのだ。
我が愛しの妹がこの愚兄に向けくれる愛に、それ以上の愛をもって応えるのだ。
だがしかし、今日は少々事情が違う。
序盤の第一声はただのジャブ。
そこから我が愛しの妹の緊張と警戒心を解きほぐし、軽快かつ軽妙なトークに繋げていく。
そうして斗雅の怒りを徐々に氷解させ、朝食を食べるころにはお互い笑顔。
そうして笑いながら「いただきます」とふたり揃って唱和する算段だ。
うむ、何も問題はない。
ただ懸念と不安の材料があげるとするなら、二点。
まずひとつ目は、俺には怒り心頭の人間を鎮める会話力など、初めから持ち合わせていないこと。
そしてふたつ目は、我が愛しの妹の怒りの程度が全く読めないことにある。
声音とセリフから推し量るに、我が愛しの妹は結構なご立腹だが、まだ頂点を超えてはいないだろうと推察する。
斗雅の黒瑠璃を櫛ったような髪が逆立ち、金色に染まっているということはおそらくはないだろう。
と、そのときは思っていた。
だが、その判断が何よりも甘かった。
先のセリフと共に扉を開け死線を超えたまさにその瞬間、我が愛しの妹は俺に飛びついてきた。
もとい、飛びかかってきたのだから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる