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邂逅、そして会敵の朝✗2
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どうやら今日もまた、昨日と変わらぬ一日がやって来たようだ。
そのことを頭のなかで認識しながら確認し、そして最後に感謝をひとつ。
本日も、生きることを許してくれて、どうもありがとうございます。
うん、これでよしっ、と。
今朝のノルマはこれにて終了。
いつの頃からかは覚えていない。
それがいつの間にかこうして毎朝、自分が生きている感謝を胸の裡で言葉にすることが俺の日課になっていた。
しかしそれも、最近はややマンネリ気味だ。
日課と言うよりは、惰性に近くなってしまっている。
こうしてこみ上げてくる欠伸を噛み殺しながら、感謝の念を捧げているのがいい証拠だ。
だがそれでも、辞めることだけは出来ない。
それだけは、自分自身が許さない。
その理由は自分でもよく分からないが、どうせ大した理由じゃあるまい。
まあ、あれだ。
ここまで筋トレを続けたのだから、今更辞めたら無駄になるとか。
これだけポイントを貯めたのだから、今ではもう捨てられないとか。
どうせそんな、つまらない類のものだろう。
そんなことより、最優先で考えなければならないことが俺にはある。
我が愛しの妹である斗雅に、果たしてどうやって謝罪と弁解をするのか、それが問題だ。
さっきから漏れ聞こえてくるニュースの内容などまったく問題にならない。
これは俺にとっての最重要かつ、今現在における最大の懸案事項だ。
まずは状況を整理しよう。
一見どんなに複雑に絡み合った事柄も、ひとつずつ順序立てて紐解いていけばいつの間にか片付いているのものだ。
ではまず状況その一。
俺は定刻に目覚めることが出来ず寝坊した。
うむ、これはどう言い繕っても好意的な解釈が出来ない。
よって、悪いのは全て俺となる。
これはもう、必然だ。
最早理由からして帰結は決まっているような気がする。
そこに思いを馳せるだけで、猛烈な悪寒と寒気を感じるほどに。
だが、俺はこんなところでは挫けない。
諦めたらそこで試合終了だと、何処かの誰かも言っていたしな。
しかしこの言葉を聞くたびに、諦めてしまえばそこで試合終了に出来るのになあと思ってしまう。
これは我が愛しの妹にも言えない、俺の胸のなかにだけしまっておくべき秘密だ。
そうは言っても、別に墓まで持っていくほどのものでもないのだが。
まあそんな無駄思考は屑籠にダンクして、いま考えるべき状況その二。
時間を守るという人間として最低限の行儀作法もなっていない俺こと愚兄。
それに対して、我が愛しの妹は大層お冠のご様子である。
ああ、これは当然ながら全ての責任は俺にある。
なので、俺が全ての責を受けるべきとなる。
こんなことは、当然だ。
今度こそ死ぬかもしれんな、これは。
だが今際の際に見るものが我が愛しの妹の笑顔なら、いっそそれこそが本望だ。
おそらく、いや確実に、我が愛しの妹斗雅は笑顔で俺を殺せるだろうから。
と、そこまで思考が至ったときが、我が愛しの妹の待つ居間へと続く扉に手をかけたときだった。
そこで俺は思い直し、違う扉に向けて歩みを進める。
念のため、準備と心構えだけはしておこう。
それに折角さっき感謝したばかりなのだ。
我が愛しの妹の怒りを鎮めるための、詫びと言い訳。
その言葉を思いつく、悪あがきの時間稼ぎの間くらいは生きていたい。
いまはまだ死にたくないから、なんていう消極的な理由からじゃない。
俺はただ、まだ生きていたいんだ。
人間が生きる理由に、それ以上の御託は必要あるまい。
そのための案も言葉も何も浮かばないまま、俺は開けてもなかに誰もいない扉へと手をかけた。
そのことを頭のなかで認識しながら確認し、そして最後に感謝をひとつ。
本日も、生きることを許してくれて、どうもありがとうございます。
うん、これでよしっ、と。
今朝のノルマはこれにて終了。
いつの頃からかは覚えていない。
それがいつの間にかこうして毎朝、自分が生きている感謝を胸の裡で言葉にすることが俺の日課になっていた。
しかしそれも、最近はややマンネリ気味だ。
日課と言うよりは、惰性に近くなってしまっている。
こうしてこみ上げてくる欠伸を噛み殺しながら、感謝の念を捧げているのがいい証拠だ。
だがそれでも、辞めることだけは出来ない。
それだけは、自分自身が許さない。
その理由は自分でもよく分からないが、どうせ大した理由じゃあるまい。
まあ、あれだ。
ここまで筋トレを続けたのだから、今更辞めたら無駄になるとか。
これだけポイントを貯めたのだから、今ではもう捨てられないとか。
どうせそんな、つまらない類のものだろう。
そんなことより、最優先で考えなければならないことが俺にはある。
我が愛しの妹である斗雅に、果たしてどうやって謝罪と弁解をするのか、それが問題だ。
さっきから漏れ聞こえてくるニュースの内容などまったく問題にならない。
これは俺にとっての最重要かつ、今現在における最大の懸案事項だ。
まずは状況を整理しよう。
一見どんなに複雑に絡み合った事柄も、ひとつずつ順序立てて紐解いていけばいつの間にか片付いているのものだ。
ではまず状況その一。
俺は定刻に目覚めることが出来ず寝坊した。
うむ、これはどう言い繕っても好意的な解釈が出来ない。
よって、悪いのは全て俺となる。
これはもう、必然だ。
最早理由からして帰結は決まっているような気がする。
そこに思いを馳せるだけで、猛烈な悪寒と寒気を感じるほどに。
だが、俺はこんなところでは挫けない。
諦めたらそこで試合終了だと、何処かの誰かも言っていたしな。
しかしこの言葉を聞くたびに、諦めてしまえばそこで試合終了に出来るのになあと思ってしまう。
これは我が愛しの妹にも言えない、俺の胸のなかにだけしまっておくべき秘密だ。
そうは言っても、別に墓まで持っていくほどのものでもないのだが。
まあそんな無駄思考は屑籠にダンクして、いま考えるべき状況その二。
時間を守るという人間として最低限の行儀作法もなっていない俺こと愚兄。
それに対して、我が愛しの妹は大層お冠のご様子である。
ああ、これは当然ながら全ての責任は俺にある。
なので、俺が全ての責を受けるべきとなる。
こんなことは、当然だ。
今度こそ死ぬかもしれんな、これは。
だが今際の際に見るものが我が愛しの妹の笑顔なら、いっそそれこそが本望だ。
おそらく、いや確実に、我が愛しの妹斗雅は笑顔で俺を殺せるだろうから。
と、そこまで思考が至ったときが、我が愛しの妹の待つ居間へと続く扉に手をかけたときだった。
そこで俺は思い直し、違う扉に向けて歩みを進める。
念のため、準備と心構えだけはしておこう。
それに折角さっき感謝したばかりなのだ。
我が愛しの妹の怒りを鎮めるための、詫びと言い訳。
その言葉を思いつく、悪あがきの時間稼ぎの間くらいは生きていたい。
いまはまだ死にたくないから、なんていう消極的な理由からじゃない。
俺はただ、まだ生きていたいんだ。
人間が生きる理由に、それ以上の御託は必要あるまい。
そのための案も言葉も何も浮かばないまま、俺は開けてもなかに誰もいない扉へと手をかけた。
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