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インテルメッツォ-45 鏡面/共鳴
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「そうでしたかぁ、もう既にご存知でいらっしゃいましたかぁ。これはまた差し出がましいことを申してしまいましたねぇ。どうか魔王様の寛大な御心を以てして、何卒ご容赦くださいましねぇ。しかしあなたがそこまで言い切るとは、少々意外でしたねぇ。きっと、余程お辛いご経験ばかりなされてきたのでしょうねぇ。心より哀悼の意を捧げさせて頂きますよぉ。あなががどのようなご経験を経て此処まで辿り着いたのか、わたしは一切存じ上げません。ですがたとえ何があったしても、あるいは何を失ってきたとしても、その全てがあなたの血肉となっているのなら、それで良いではありませんかぁ。そのようなお言葉を仰ることが出来るようになられたならば、それは善いことではありませんかぁ。大変に素晴らしく、誠にご立派なことで御座いますよぉ。あなたご自身の自信となさっても最早誰も何も言うことは出来ないだろうと、どういうわけかわたしははそう確信することができますようぉ。ですがその無残極まる有り様をお見受けする限り、またわたしの預かり知らぬところでわたしの存じている通りに、随分と存分に要らぬご苦労だけを背負って刻み込まれてきたご様子のようですねぇ。あなたのことですから、ひと目見れば解るのですよぉ。全く、本当に呆れてものも言えません。あの頃からあなたが一切お変わりになられていないというのは、正直に申しまして心から安心致しました。そして同時に、心底不快にも感じております。そのようなお姿に成り果てるまでに、確実に何処かで学ぶ機会はあったはずです。そこまで変わり果ててしまう前に、何処かに必ず選択肢はあったはずです。あなたがそうなってしまわれない為に決断する好機が、あなたには間違いなくあったはずです。だというのに、結果がその体たらくとは。見ているだけで不愉快です。そんな在り様になられてしまうくらいなら、あなたには変わっていて欲しかったと願わずにはいられません。それでもあなたもまだ人間の端くれなのでしょう? でしたらご自身の得た尊いご経験から学び、選び、そして決心し、自らが幸せになる道を歩まれるのが人間の在り方というものでしょう? そうして自らを変えていくのが、人間の生き方というものでしょう? そんな身体でも、あなたにはわたしと同じ赤い血が流れているのですから」
少女の言葉に、魔王の口もとがふっと緩んだ。
男の身体のあらゆる箇所に刻まれてきた傷跡。
最早流すべき血を流し尽くした、歪に残り続ける歪んだ記録。
それが何よりも雄弁に、男が歩んでき生き方と辿り着いた在り方を物語っていた。
そこに重ねるようにして開かれ、裂かれ、抉られた、此処に至るまでに負った新たな傷。
そこから流れた落ちた血は既に乾いて黒く風化し、男の身体にまるで錆のようにこびり付いている。
しかし少女が己の想いと共に放った銃弾。
それを受け止めた細く繊細な二本の指からは、未だ鮮烈な赤い血が流れ続けていた。
「お前の言う通りだ。そんな機会はいくらでもあったさ。故にそれを唯のひとつも逃すことなく、諦めなかった果てにこの姿を得たのだ。後悔など、何処にもあろうはずがない」
ひとを笑顔にすることができ、ひとの為に生きることが出来たのだ。
そこに後悔など、あろうはずがない。
たとえ誰を笑顔にし、何の為に生きていたのか解らなかったとしても。
最早魔王にとってそんなものは誰でもよく、そんなものはどうでもよいことなのだから。
ただ己が為し遂げた記憶と、そこに己の確信さえあれば。
それ以外など、あらゆる全ては魔王にとって要らないものでしかない。
そんなものは、最早人間の在り方ではなかったとしても。
「お前と同じ、か。確かにあの頃のお前は俺と同じ赤い血が流れていたな。しかしそれは果たして、今のお前ではどうなのであろうな? お前を疑うことなどありえない。だが己の目で見極めもせずに盲のままにその言を受け容れるなど、不実という他にあるまい? これでも、己の言葉には責任を持ちたいのでな」
そう少女に告げながら、魔王は一振りの剣をゆっくりと懐から抜き放つ。
その鈍く輝く数多の傷が刻まれた剣身に映りしは、宵闇を裂く細き三日月。
それは待ち焦がれていた瞬間の顕現に心踊らせる、少女の純粋な笑顔がそこにはあった。
少女の言葉に、魔王の口もとがふっと緩んだ。
男の身体のあらゆる箇所に刻まれてきた傷跡。
最早流すべき血を流し尽くした、歪に残り続ける歪んだ記録。
それが何よりも雄弁に、男が歩んでき生き方と辿り着いた在り方を物語っていた。
そこに重ねるようにして開かれ、裂かれ、抉られた、此処に至るまでに負った新たな傷。
そこから流れた落ちた血は既に乾いて黒く風化し、男の身体にまるで錆のようにこびり付いている。
しかし少女が己の想いと共に放った銃弾。
それを受け止めた細く繊細な二本の指からは、未だ鮮烈な赤い血が流れ続けていた。
「お前の言う通りだ。そんな機会はいくらでもあったさ。故にそれを唯のひとつも逃すことなく、諦めなかった果てにこの姿を得たのだ。後悔など、何処にもあろうはずがない」
ひとを笑顔にすることができ、ひとの為に生きることが出来たのだ。
そこに後悔など、あろうはずがない。
たとえ誰を笑顔にし、何の為に生きていたのか解らなかったとしても。
最早魔王にとってそんなものは誰でもよく、そんなものはどうでもよいことなのだから。
ただ己が為し遂げた記憶と、そこに己の確信さえあれば。
それ以外など、あらゆる全ては魔王にとって要らないものでしかない。
そんなものは、最早人間の在り方ではなかったとしても。
「お前と同じ、か。確かにあの頃のお前は俺と同じ赤い血が流れていたな。しかしそれは果たして、今のお前ではどうなのであろうな? お前を疑うことなどありえない。だが己の目で見極めもせずに盲のままにその言を受け容れるなど、不実という他にあるまい? これでも、己の言葉には責任を持ちたいのでな」
そう少女に告げながら、魔王は一振りの剣をゆっくりと懐から抜き放つ。
その鈍く輝く数多の傷が刻まれた剣身に映りしは、宵闇を裂く細き三日月。
それは待ち焦がれていた瞬間の顕現に心踊らせる、少女の純粋な笑顔がそこにはあった。
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