上 下
40 / 46

インテルメッツォ-39 求愛/旧愛

しおりを挟む
「そうか。あの頃から何ひとつ変わることはないのだな、お前は」
 少女の人を喰ったような言葉を受けても、魔王の心に些かの感慨も抱くことはない。
 その声音には、郷愁に揺さぶれた響きは微塵もない。
 去来する懐古に、その眼差しを細めることもありえない。
 ただ事実を確認しただけの言葉。
 そこには一片の感情も宿っていない。
 口元に走る亀裂のような微笑にも、髪の毛一筋たりとも変化は見られない。
 だが、その笑みの名は違う。
 愉悦という名の歪みから、安心という名の調和へと。
「らしくもない姿ばかりを見せられ少々辟易していたが、漸くお目にかかることが叶ったな。お前の本来の姿、その本質の顕現にな」
 魔王は己が心の裡の十全さを示すように、ひとつ小さく頷き言葉を続ける。
「ふむ、しかしなかなかどうして、満たされるものだな。俺のもとを去ったお前に、俺が為せることなど最早何もないと見切りをつけていた。如何なる助力も干渉もお前に行う資格などないのだと、そう割り切っていたのだがな。だがそれは心に想っていただけの、ただの思い違いだったようだ。煮え切らぬ想いが、心の何処かで燻っていたのだろう。成程、これが未練というものか。全く、何と滑稽な。今更、このような感傷に気が付くとはな。今となって、俺の本当の望みに思い至るとはな。どうやら、俺はまだまだ至らぬようだ。真なる魔王の玉座は、未だ遥かに久遠の彼方、か」
 その言葉は男の常となっていた自嘲のそれだが、そこには自らを嗤う陰はない。
 あるのは己の内面と向かい合い、新たに見出された可能性への純粋な喜びのみ。
「そんなことは当然ですよぉ。たとえどれ程の時間が流れようと、わたしが変わることなどあるはずがないのですからぁ。でも、あなたがそのように思っていてくださったこと、わたしは本当に嬉しく存じます。あなたの変わることのなかった想い、確かにわたしの心に届き伝わりました。ふふふ、これではあなたとわたし、似たもの同士のようですねぇ。お互いにまだまだ未熟だというのなら、尚更同じようなものですねぇ」
 その言葉は偽りもまやかしもなく現された、透明なる少女の心。
「お前と同じ、か。それは確かに悪くないかもしれぬな。そしてお前の素直な言葉を聴けるとは以外だったが、存外に落ち着くものだな。お前が俺と袂を分かってからも、変わることなくお前はお前自身のままでにいられたのだと、それを知ることが出来たというのは。そして俺が此処まで辿り着き、相対している者こそがあの頃のままのお前なのだと、認識をあらたにすることが出来たというのだから。うむ、誠に善きことだ。やはりお前は、そうでなくてはな。自身に価値を見出さず、己にのみ生を誇る。さればこそ、お前はあまねく天壌を、神すらも見下ろす高みへと至ることが出来たのだろう。故に、お前は、そうあるべきなのだ。それこそが、お前の在るべき姿なのだから。お前は、変わる必要などないのだ。何故ならそんなお前のことが、間違いなく俺は好きなのだからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

討伐師〜ハンター〜

夏目 涼
ファンタジー
親の勧めで高校進学を黒主学園に決めた増田 戒斗。 しかし、学園に秘密があった。 この学園は実は討伐師になる為の育成学校という裏の顔があったのだ。何も知らずに入学した戒斗が一人前の討伐師になる為に奮闘するストーリー。 「小説家になろう」にも掲載作品です。 

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...