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インテルメッツォ-39 求愛/旧愛
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「そうか。あの頃から何ひとつ変わることはないのだな、お前は」
少女の人を喰ったような言葉を受けても、魔王の心に些かの感慨も抱くことはない。
その声音には、郷愁に揺さぶれた響きは微塵もない。
去来する懐古に、その眼差しを細めることもありえない。
ただ事実を確認しただけの言葉。
そこには一片の感情も宿っていない。
口元に走る亀裂のような微笑にも、髪の毛一筋たりとも変化は見られない。
だが、その笑みの名は違う。
愉悦という名の歪みから、安心という名の調和へと。
「らしくもない姿ばかりを見せられ少々辟易していたが、漸くお目にかかることが叶ったな。お前の本来の姿、その本質の顕現にな」
魔王は己が心の裡の十全さを示すように、ひとつ小さく頷き言葉を続ける。
「ふむ、しかしなかなかどうして、満たされるものだな。俺のもとを去ったお前に、俺が為せることなど最早何もないと見切りをつけていた。如何なる助力も干渉もお前に行う資格などないのだと、そう割り切っていたのだがな。だがそれは心に想っていただけの、ただの思い違いだったようだ。煮え切らぬ想いが、心の何処かで燻っていたのだろう。成程、これが未練というものか。全く、何と滑稽な。今更、このような感傷に気が付くとはな。今となって、俺の本当の望みに思い至るとはな。どうやら、俺はまだまだ至らぬようだ。真なる魔王の玉座は、未だ遥かに久遠の彼方、か」
その言葉は男の常となっていた自嘲のそれだが、そこには自らを嗤う陰はない。
あるのは己の内面と向かい合い、新たに見出された可能性への純粋な喜びのみ。
「そんなことは当然ですよぉ。たとえどれ程の時間が流れようと、わたしが変わることなどあるはずがないのですからぁ。でも、あなたがそのように思っていてくださったこと、わたしは本当に嬉しく存じます。あなたの変わることのなかった想い、確かにわたしの心に届き伝わりました。ふふふ、これではあなたとわたし、似たもの同士のようですねぇ。お互いにまだまだ未熟だというのなら、尚更同じようなものですねぇ」
その言葉は偽りもまやかしもなく現された、透明なる少女の心。
「お前と同じ、か。それは確かに悪くないかもしれぬな。そしてお前の素直な言葉を聴けるとは以外だったが、存外に落ち着くものだな。お前が俺と袂を分かってからも、変わることなくお前はお前自身のままでにいられたのだと、それを知ることが出来たというのは。そして俺が此処まで辿り着き、相対している者こそがあの頃のままのお前なのだと、認識を改にすることが出来たというのだから。うむ、誠に善きことだ。やはりお前は、そうでなくてはな。自身に価値を見出さず、己にのみ生を誇る。さればこそ、お前はあまねく天壌を、神すらも見下ろす高みへと至ることが出来たのだろう。故に、お前は、そうあるべきなのだ。それこそが、お前の在るべき姿なのだから。お前は、変わる必要などないのだ。何故ならそんなお前のことが、間違いなく俺は好きなのだからな」
少女の人を喰ったような言葉を受けても、魔王の心に些かの感慨も抱くことはない。
その声音には、郷愁に揺さぶれた響きは微塵もない。
去来する懐古に、その眼差しを細めることもありえない。
ただ事実を確認しただけの言葉。
そこには一片の感情も宿っていない。
口元に走る亀裂のような微笑にも、髪の毛一筋たりとも変化は見られない。
だが、その笑みの名は違う。
愉悦という名の歪みから、安心という名の調和へと。
「らしくもない姿ばかりを見せられ少々辟易していたが、漸くお目にかかることが叶ったな。お前の本来の姿、その本質の顕現にな」
魔王は己が心の裡の十全さを示すように、ひとつ小さく頷き言葉を続ける。
「ふむ、しかしなかなかどうして、満たされるものだな。俺のもとを去ったお前に、俺が為せることなど最早何もないと見切りをつけていた。如何なる助力も干渉もお前に行う資格などないのだと、そう割り切っていたのだがな。だがそれは心に想っていただけの、ただの思い違いだったようだ。煮え切らぬ想いが、心の何処かで燻っていたのだろう。成程、これが未練というものか。全く、何と滑稽な。今更、このような感傷に気が付くとはな。今となって、俺の本当の望みに思い至るとはな。どうやら、俺はまだまだ至らぬようだ。真なる魔王の玉座は、未だ遥かに久遠の彼方、か」
その言葉は男の常となっていた自嘲のそれだが、そこには自らを嗤う陰はない。
あるのは己の内面と向かい合い、新たに見出された可能性への純粋な喜びのみ。
「そんなことは当然ですよぉ。たとえどれ程の時間が流れようと、わたしが変わることなどあるはずがないのですからぁ。でも、あなたがそのように思っていてくださったこと、わたしは本当に嬉しく存じます。あなたの変わることのなかった想い、確かにわたしの心に届き伝わりました。ふふふ、これではあなたとわたし、似たもの同士のようですねぇ。お互いにまだまだ未熟だというのなら、尚更同じようなものですねぇ」
その言葉は偽りもまやかしもなく現された、透明なる少女の心。
「お前と同じ、か。それは確かに悪くないかもしれぬな。そしてお前の素直な言葉を聴けるとは以外だったが、存外に落ち着くものだな。お前が俺と袂を分かってからも、変わることなくお前はお前自身のままでにいられたのだと、それを知ることが出来たというのは。そして俺が此処まで辿り着き、相対している者こそがあの頃のままのお前なのだと、認識を改にすることが出来たというのだから。うむ、誠に善きことだ。やはりお前は、そうでなくてはな。自身に価値を見出さず、己にのみ生を誇る。さればこそ、お前はあまねく天壌を、神すらも見下ろす高みへと至ることが出来たのだろう。故に、お前は、そうあるべきなのだ。それこそが、お前の在るべき姿なのだから。お前は、変わる必要などないのだ。何故ならそんなお前のことが、間違いなく俺は好きなのだからな」
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