そして白く濁りし世界は無色となりて

久末 一純

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インテルメッツォ-36 差異/再意

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真逆まさかあなたが自の意志でわたし達のもとへと来て下さるとはぁ。これぞまさしく、なんという恐悦至極なのでしょうかぁ。わたしの小さな胸はあまりの感激に打ち震え、途方もない感動に声を漏らすことすら出来ませんよぉ。その代わりという訳ではないのですがぁ、わたしの昂り続ける心のままに、それ以外の色々なものがとめどなく溢れてきてしまいそうですようぉ。ですが恥じることなど何ひとつありませんよぉ。何故ならそれすらも歓喜の現れ、それこそがわたしの想いの結晶なのですからぁ。と、本来ならば両手もろてを叩いて小躍りしながらわたしの心の裡に満ちる、あなたにこれでもかとお伝えしたいところなのですがぁ。残念ながら、違うのですね。あなたの定められた真意はそうではないのですね。あなたがお決めになられた覚悟は、そのようなものではないのですね。あなたの想いは、わたし達とは違うのですね。たとえあなたがわたし達のもとへと辿り着いても、あなたはわたし達とは一緒に生きてはくださらないのでしょう。それくらい、解りますよ。あなたの目を見るだけで、十分です。あなたは心の裡がすぐに顔に、特にその目に現れてしまうのですから。このくらいは、解るのですよ。あなたと別れていた時間はとても永いものでしたが、それ以上の時間をあなたと共に在り、駆け抜けてきたのですから。その時間を再び、新たに刻み始めることが出来るのだと。そう望み、願っていたのですが。そうなっていればどれだけ善いことかと、心の底から思っていたのですが。ですから本当に、残念でなりません。わたしは今、とても哀しいです。そしてとても、悲しいです」
 魔王は一歩ずつゆっくりと、だが力強く確実に歩みを進めてゆく。
 そこには立ち止まる様子もなく、ましてや後ろへと引き返す気配など微塵も感じられはしない。
 少女と色だけは同じ黒いその瞳は、ただ前のみを向いている。
 そうして歩む一歩毎に、何かを確かめていくように。
 あるいは、何かを問い掛けているように。
 魔王は、少女のもとへと近づいてゆく。
 そんな男へと正面から瞳を結び、少女は己の心を真っ直ぐに言葉にする。
 そのからでもうつろでもない偽り無き少女の想いは、間違いなく魔王の心へと届き伝わった。
「残念、か。またしてもお前らしくもないことを云うではないか。そのようにしおらしい手弱女振りたおやめぶりなど、それこそお前には似合わんぞ」
 男の声は何処までも優しく、包み込むような暖かさに満ちていた。
「だが、俺はそうは思わん」
 しかし魔王の言葉は大地に根を張る鋼の如く、少女の想いを弾いて砕く。
「故に、此度のお前の言は間違っていない。俺は、何ひとつ諦めてなどいないのだから。お前の心の臓を自らの手で貫くその瞬間ときまで。そしてお前をこの手にかけたその後までも。お前と共に過ごしたあの時間を取り戻すまで、この俺が何も為さずに投げ出すなどありえはしないのだからな」
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