上 下
27 / 46

インテルメッツォ-27 拒否/虚秘

しおりを挟む
「お断りさせて頂きます」
 少女の応えはただ一言、底の見えない澄んだ微笑みと共にある。
 その整った面差しに、数瞬前とは全く異質なものが宿っている。
 むせ返る程に漂っていた妖艶な匂いなど、煙のように跡形もなく霧散している。
 目に見えるようだった淫靡な風情など、蝋燭に揺れる炎のように吹き消えてしまっている。
 その無垢にして純なる笑みこそが、幼気な少女の容姿に見事に合致し、途方もなくよく似合っていた。
 まさしく人知れぬ山奥にそっと咲く、紅葉のように可憐かつ質素な花。
 日向の土の匂いが薫る素朴な趣の少女には、これこそが本来の姿に相応しい。
 そんな無垢にして純、そして虚無をその心に飼う少女が一刀で断じる言葉。
 先に見せた一閃に勝るとも劣らない鋭さを持ちながら、真に目には映らぬ無明の刃。
 発するに一呼吸すら必要としない、意味を持ち得る為に必要なだけの最小限の音節。
 瞬き程の時間も要しない、伝えるべき意味を必要なだけ伝えるだけの最低限の音階。
 そこにあったのは一息に、そして一方的に刺し込まれた言の刃。
 これまでの長広舌など、まるでまやかしであったかのように思わせてしまうような。
 そんなものは最初から要らなかったのだと、全ては陽炎や蜃気楼だったのだと感じさせてしまうように。
 あらゆる無駄と一切の徒爾とじが削ぎ落とされ排除された、殻と中身が同義の言葉。
 それは短く、端的で、取り付く島が何処にもない。
 そこに込められた意味を、取り違える余地など何処にもない。
 何故なら苛烈なまでの拒絶の意志が、黒曜の瞳の奥で熾火の如く燃えている。
 その燐光にくべられているのは、果たして如何なる感情か。
 殺意か、敵意か、悪意か、害意か。
 あるいはそのどれとも違う、全く別種のなのか。
 男には、窺い知ることすら敵わない。
 理解することなど不可能だ。
 少女の心の裡に巣食ううつろが、一体如何なる意志を持つかなど。
 裏も表のない言葉とは裏腹に、少女の灼けつくように凍えた目からは何も伝わってこないからだ。
 その触れるもの全てを斬り捨てるような黒曜の刃が、如何なる憶測も推測さえも許しはしない。
「勘違いなさらないで下さい。わたしはあなたが欲しいのであって、あなたのものになりたいとは思ってはおりません。わたしは既に自分の立つべきところを定めています。自分の在るべき姿を定義しています。それは決してあなたの隣にはありません。ですから誠に申し訳ないのですがぁ、あなたの意に沿うことは叶いませんよぉ。こういった状況では、巷の乙女達は殿方に何と応えて差し上げているのでしっけぇ? ああ、そうそう思い出しましたぁ! ごめんなさい、添い遂げることは出来ません。ですが勘違いをしないで下さいね? あなたが、何時でも、今すぐにでもあなたを受け容れます。わたし達三人で何時迄も何処までもご一緒に、生きましょう。きっとそれが誰にとっても、誰よりもあなたにとって、最も正しく善い未来だとわたしは確信しているのですから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

Lovely Eater Deadlock

久末 一純
ファンタジー
 俺の全ては姉のために存在していると確信している。  生命とは姉のために使い尽くすものであり、人生とは姉に消費されるためにあるものだ。  生きる意味も生き続ける目的も生き続けなければならない理由も全ては姉のためにある。  だから毎日今日だけを力の限り精一杯に生きるのだ。  いつか必ず訪れる俺が終わるその瞬間まで。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...