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インテルメッツォ-27 拒否/虚秘
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「お断りさせて頂きます」
少女の応えはただ一言、底の見えない澄んだ微笑みと共にある。
その整った面差しに浮かべて見せた笑顔には、数瞬前とは全く異質なものが宿っている。
むせ返る程に漂っていた妖艶な匂いなど、煙のように跡形もなく霧散している。
目に見えるようだった淫靡な風情など、蝋燭に揺れる炎のように吹き消えてしまっている。
その無垢にして純なる笑みこそが、現れ見える殻だけは幼気な少女の容姿に見事に合致し、途方もなくよく似合っていた。
まさしく人知れぬ山奥にそっと咲く、紅葉のように可憐かつ質素な花。
日向の土の匂いが薫る素朴な趣の少女には、これこそが本来の姿に相応しい。
そんな無垢にして純、そして虚無をその心に飼う少女が一刀で断じる言葉。
先に見せた一閃に勝るとも劣らない鋭さを持ちながら、真に目には映らぬ無明の刃。
発するに一呼吸すら必要としない、意味を持ち得る為に必要なだけの最小限の音節。
瞬き程の時間も要しない、伝えるべき意味を必要なだけ伝えるだけの最低限の音階。
そこにあったのは一息に、そして一方的に刺し込まれた言の刃。
これまでの長広舌など、まるでまやかしであったかのように思わせてしまうような。
そんなものは最初から要らなかったのだと、全ては陽炎や蜃気楼だったのだと感じさせてしまうように。
あらゆる無駄と一切の徒爾が削ぎ落とされ排除された、殻と中身が同義の言葉。
それは短く、端的で、取り付く島が何処にもない。
そこに込められた意味を、取り違える余地など何処にもない。
何故なら苛烈なまでの拒絶の意志が、黒曜の瞳の奥で熾火の如く燃えている。
その燐光にくべられているのは、果たして如何なる感情か。
殺意か、敵意か、悪意か、害意か。
あるいはそのどれとも違う、全く別種の何かなのか。
男には、窺い知ることすら敵わない。
理解することなど不可能だ。
少女の心の裡に巣食う虚が、一体如何なる意志を持つかなど。
裏も表のない言葉とは裏腹に、少女の灼けつくように凍えた目からは何も伝わってこないからだ。
その触れるもの全てを斬り捨てるような黒曜の刃が、如何なる憶測も推測さえも許しはしない。
「勘違いなさらないで下さい。わたしはあなたが欲しいのであって、今はもうあなたのものになりたいとは思ってはおりません。わたしは既に自分の立つべき処を定めています。自分の在るべき姿を定義しています。それは決してあなたの隣にはありません。ですから誠に申し訳ないのですがぁ、あなたの意に沿うことは叶いませんよぉ。こういった状況では、巷の乙女達は殿方に何と応えて差し上げているのでしっけぇ? ああ、そうそう思い出しましたぁ! ごめんなさい、あなとだけでは添い遂げることは出来ません。ですが勘違いをしないで下さいね? あなたがわたし達の処まで来られるなら、何時でも、今すぐにでもあなたを受け容れます。わたし達三人で何時迄も何処までもご一緒に、幸せに生きましょう。きっとそれが誰にとっても、誰よりもあなたにとって、最も正しく善い未来だとわたしは確信しているのですから」
少女の応えはただ一言、底の見えない澄んだ微笑みと共にある。
その整った面差しに浮かべて見せた笑顔には、数瞬前とは全く異質なものが宿っている。
むせ返る程に漂っていた妖艶な匂いなど、煙のように跡形もなく霧散している。
目に見えるようだった淫靡な風情など、蝋燭に揺れる炎のように吹き消えてしまっている。
その無垢にして純なる笑みこそが、現れ見える殻だけは幼気な少女の容姿に見事に合致し、途方もなくよく似合っていた。
まさしく人知れぬ山奥にそっと咲く、紅葉のように可憐かつ質素な花。
日向の土の匂いが薫る素朴な趣の少女には、これこそが本来の姿に相応しい。
そんな無垢にして純、そして虚無をその心に飼う少女が一刀で断じる言葉。
先に見せた一閃に勝るとも劣らない鋭さを持ちながら、真に目には映らぬ無明の刃。
発するに一呼吸すら必要としない、意味を持ち得る為に必要なだけの最小限の音節。
瞬き程の時間も要しない、伝えるべき意味を必要なだけ伝えるだけの最低限の音階。
そこにあったのは一息に、そして一方的に刺し込まれた言の刃。
これまでの長広舌など、まるでまやかしであったかのように思わせてしまうような。
そんなものは最初から要らなかったのだと、全ては陽炎や蜃気楼だったのだと感じさせてしまうように。
あらゆる無駄と一切の徒爾が削ぎ落とされ排除された、殻と中身が同義の言葉。
それは短く、端的で、取り付く島が何処にもない。
そこに込められた意味を、取り違える余地など何処にもない。
何故なら苛烈なまでの拒絶の意志が、黒曜の瞳の奥で熾火の如く燃えている。
その燐光にくべられているのは、果たして如何なる感情か。
殺意か、敵意か、悪意か、害意か。
あるいはそのどれとも違う、全く別種の何かなのか。
男には、窺い知ることすら敵わない。
理解することなど不可能だ。
少女の心の裡に巣食う虚が、一体如何なる意志を持つかなど。
裏も表のない言葉とは裏腹に、少女の灼けつくように凍えた目からは何も伝わってこないからだ。
その触れるもの全てを斬り捨てるような黒曜の刃が、如何なる憶測も推測さえも許しはしない。
「勘違いなさらないで下さい。わたしはあなたが欲しいのであって、今はもうあなたのものになりたいとは思ってはおりません。わたしは既に自分の立つべき処を定めています。自分の在るべき姿を定義しています。それは決してあなたの隣にはありません。ですから誠に申し訳ないのですがぁ、あなたの意に沿うことは叶いませんよぉ。こういった状況では、巷の乙女達は殿方に何と応えて差し上げているのでしっけぇ? ああ、そうそう思い出しましたぁ! ごめんなさい、あなとだけでは添い遂げることは出来ません。ですが勘違いをしないで下さいね? あなたがわたし達の処まで来られるなら、何時でも、今すぐにでもあなたを受け容れます。わたし達三人で何時迄も何処までもご一緒に、幸せに生きましょう。きっとそれが誰にとっても、誰よりもあなたにとって、最も正しく善い未来だとわたしは確信しているのですから」
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