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インテルメッツォ-25 無用/無要

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「そうですかぁ? 、あなたがそこまで仰る程にご大層ものではないのですけどねぇ」
 男のに億劫そうに応える少女の声は、長雨の曇天を思わせるように昏く重たい。
 まるでと言わんばかりの、気怠げな風情に満ちている。
 賛嘆とも尊大ともつかぬ、真意を見せぬ男の茫洋たる言葉。
 どちらとも言い難い不明瞭な朧。
 どちらかを判断し難い不鮮明な曖昧。
 そのどちらでもあるようでいながら、だが本心は何処にない虚ろなから
 己の真なる想いを意地で打ち固めた鍍金の産物。
 そんなものを向けられた少女はやや鬱陶しげにしながらも、それでも律儀に受け留めた。
 しかしそれに言葉を返す少女の口調は、男のものとは対角にして対極にある。
 そこには虚勢もなければ虚飾も一切存在しない。
 その必要が、ないからだ。
 ただ隠そうともしない退屈と倦怠が、見せるまでもなく明らかに滲み出ているだけに過ぎない。
 砂を噛んでいるかのような少女の表情、そのからは何も窺い知ることは出来ない。
 その眼差しと声色には、男の言葉の裏にある心情を慮っている様子は欠片も見受けられない。
 弛緩しきった態度からは、言葉に出来ぬ想いを感じ取った気配は微塵もない。
 だが、それは当然であり必然だった。
 男を睥睨する磨き抜かれた黒曜の瞳には、他者に対する共感性など全く存在していないのだから。
 誰かの心を思い遣ることなどありはしない。
 何かに勘づくこともない。
 他人の感情を推し量ることなど出来はしない。
 何かを察することもない。
 そんなものは少女にとって、全ては塵芥と変わらぬ同じものでしかないのだから。
 何故なら、少女は自らをつるぎと定義する。
 自らの意志で己の全てを唯ひとりに奉じた、一振りの刃。
 少女にとってこの世界で唯ひとりだけの大事なひと。
 少女の全ては、その至高のひとのものなのだから。
 そうして少女の心は単純な二択に分断される。
 少女の唯一の無上にして極点は永遠に変わることなく既に決定されている。
 それ以外の有象無象、その如何なる想いも言葉も少女の心には響かず理解しない。
 それはかつて同じ時間を共に生きた、未だ少女の思い出に残る男であろうと例外ではない。
 そして男の言葉も想いも届きはしない。
 だからこそどれ程の極地に己が至ろうと、少女自身は自分が何処に立っているかなど顧みることはない。
 少女は真実まことに心の底から、己の如何なるわざにも価値があるなどとは思っていないのだから。
 何故ならそれは、己の為に振るう為のものでありはしない。
 少女の修めたわざの全ては、少女が想い焦がれる唯一のひとの為のもの。
 そのひとの願いと望みを実現する、ただそれを為すときにのみ振るわれる為のもの。
 そこに無要な総てのものを、必要なだけ狩り尽くす。
 その為の、己自身も含めた全ては道具に過ぎない。
 目的を達し、結果を残し、成果を得る。
 その為の手段でさえあればいい。
 それを為せる、力でさえあればいい。
 そこに至りさえするのなら、あらゆる必要を全うする。
 到達さえ出来たなら、そこまでの過程など最早一顧だにしない。
 あらゆる研鑽も、練磨も、鍛錬も、辿り着いた時点で無意味と化す。
 故に少女自身が、己の持てる全てに価値を見出さない。
 だが仮に、自分の持てる何かに価値があるのだとしたら。
 己が存在していることに意味が生まれることがあるのなら。
 それはたったひとりの大事なひとの望みを果たし、願いを叶えたそのときのみ。
 そのひとに遣われ、自分を活かされたときだけが、己が生きている意味を感じられる瞬間。
 自分が想う大事なひとの為に自分は在るのだと、魂に刻み付けること出来る何よりも幸せな時間。
 そんな少女を遣えるのは、想いを重ね心と結んだ唯一大事なだけが出来ること。
 肉体でもわざでもない、想いと心を繋いだ言葉で少女を振るえる彼女のみ。
 少女こそ、この世界で唯ひとりしか遣えない最強のつるぎ
 幾度折れても決して曲がることなく打ち直し、自分で自身を鍛え続け乗り越える無二の一振り。
 森羅万象触あまねく事象を斬り捨てる、つかもない刃そのものなのだから。
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