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インテルメッツォ-23 感嘆/簡単
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そこに奔った埒外の戦慄、その一閃を知覚出来た者など居はしない。
それは刹那より尚速く、須臾よりも更に短い。
一瞬と呼ぶことすら永久に等しい、限界をも超えた零への近似。
ほぼ無に親しいその時間、男は指先ひとつ動かすことが出来なかった。
知覚出来ずとも身体の芯を射抜かれた衝撃に、如何なる反射も反応も封じられる。
瞬きすら忘れて目を見開いて見入ることのみが、男に可能な唯一の機能。
しかし男の持ち得る全感覚機能を注ぎ込んで傾注しても、その現象を捉えることは敵わない。
その閃きは男の理解と既知を、意識する遥か以前に遠く置き去りにしていった。
荘厳と清澄が融和した、聖座頂く神域の幽寂閑雅。
いと尊き幽玄に高く細く鳴り響く、鈴の音の如き澄んだ音階。
その小さな鐘の音が、張り詰めた静寂を美しく震わせる。
震えは微かな号砲として呼び水となり、硬直した時間は解けてゆく。
同時に静止していた男の歯車も動き出す。
そこで初めて、男は何が起こったのかを認識した。
遂に男が見切る事が出来なかったその事象。
それがもたらした結果に、男の心は瞠目で塗り潰される。
あまねく不浄を拒むかのように、仄かに光を放つ地の鏡面。
足を踏み入れた者を映し出す、自分が何者なのかを識らせる写し身の合わせ鏡。
そこに転がる、二つに分かたれた鈍色の輝き。
その切り口は、冷気を幻視する程に凍えた鋭さ。
その切断面は、油脂に滑るような滑らかさ。
まるでそれこそが在るべき形であったよう。
どちらも初めからそうであったが如き自然な姿。
それを目にしたとき、少女が何を為したのか理解する。
瞬間、流れる血と混ざり合うように全身からぬるりとした汗が噴き出した。
男が認識出来たのは起因と結果。
起こり為された因果のみ。
元は一つであったはずの弾丸を、男は少女に向かって投げ渡した。
それは回転しながら緩い放物線を描いて宙を舞い、少女の手へと渡るはずだった。
しかしそれはある一線に到達した瞬間、あらゆる動作を停止した。
それは、まるで時間が凍結したかのように。
そして撥ねることなく地に触れた音を響かせ、初めて二つに両断されたことを識らせたのだ。
まさに、それは魔法と同種の次元。
誰でも為せる成果を、誰にも為し得ぬ術を以て結果と成す。
恐るべきという言葉では遥かに足りない、超絶を凌駕した技倆。
階層ではなく次元が違う。
男には少女が何をしたかは理解している。
それはひどく単純で簡単なことだからだ。
だが何故それが可能であるのか理解することが出来ない。
それは為し得ぬ者には永遠に解せぬ領域。
道理を超えて条理を破り到達した者のみが観ることを許される境地。
誰もが願いながら心折られ、選ばれた者のみが潜る扉を叩き壊した果ての先。
その極地は間違いなく少女の手の中にあった。
それは刹那より尚速く、須臾よりも更に短い。
一瞬と呼ぶことすら永久に等しい、限界をも超えた零への近似。
ほぼ無に親しいその時間、男は指先ひとつ動かすことが出来なかった。
知覚出来ずとも身体の芯を射抜かれた衝撃に、如何なる反射も反応も封じられる。
瞬きすら忘れて目を見開いて見入ることのみが、男に可能な唯一の機能。
しかし男の持ち得る全感覚機能を注ぎ込んで傾注しても、その現象を捉えることは敵わない。
その閃きは男の理解と既知を、意識する遥か以前に遠く置き去りにしていった。
荘厳と清澄が融和した、聖座頂く神域の幽寂閑雅。
いと尊き幽玄に高く細く鳴り響く、鈴の音の如き澄んだ音階。
その小さな鐘の音が、張り詰めた静寂を美しく震わせる。
震えは微かな号砲として呼び水となり、硬直した時間は解けてゆく。
同時に静止していた男の歯車も動き出す。
そこで初めて、男は何が起こったのかを認識した。
遂に男が見切る事が出来なかったその事象。
それがもたらした結果に、男の心は瞠目で塗り潰される。
あまねく不浄を拒むかのように、仄かに光を放つ地の鏡面。
足を踏み入れた者を映し出す、自分が何者なのかを識らせる写し身の合わせ鏡。
そこに転がる、二つに分かたれた鈍色の輝き。
その切り口は、冷気を幻視する程に凍えた鋭さ。
その切断面は、油脂に滑るような滑らかさ。
まるでそれこそが在るべき形であったよう。
どちらも初めからそうであったが如き自然な姿。
それを目にしたとき、少女が何を為したのか理解する。
瞬間、流れる血と混ざり合うように全身からぬるりとした汗が噴き出した。
男が認識出来たのは起因と結果。
起こり為された因果のみ。
元は一つであったはずの弾丸を、男は少女に向かって投げ渡した。
それは回転しながら緩い放物線を描いて宙を舞い、少女の手へと渡るはずだった。
しかしそれはある一線に到達した瞬間、あらゆる動作を停止した。
それは、まるで時間が凍結したかのように。
そして撥ねることなく地に触れた音を響かせ、初めて二つに両断されたことを識らせたのだ。
まさに、それは魔法と同種の次元。
誰でも為せる成果を、誰にも為し得ぬ術を以て結果と成す。
恐るべきという言葉では遥かに足りない、超絶を凌駕した技倆。
階層ではなく次元が違う。
男には少女が何をしたかは理解している。
それはひどく単純で簡単なことだからだ。
だが何故それが可能であるのか理解することが出来ない。
それは為し得ぬ者には永遠に解せぬ領域。
道理を超えて条理を破り到達した者のみが観ることを許される境地。
誰もが願いながら心折られ、選ばれた者のみが潜る扉を叩き壊した果ての先。
その極地は間違いなく少女の手の中にあった。
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