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インテルメッツォ-7 理由/利有
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「それで、これは一体何のつもりだ」
男は同じ言葉をもう一度、今度ははっきり口にする。
替わりではなく訊くでもなく、少女に向かって問い質す。
その答えに、少女の真意があるなど欠片も期待することなく。
「さぁねぇ、何でしょうねぇ。あなたのそんな顔を見ていたら、わたしの太くて固いモノが勝手に暴れちゃっただけかもしれませんねぇ」
未だ奇矯の残滓が棚引く見たこともない銃を構えたままで、少女は笑い混じりの道化た冗句ではぐらかす。
予想通りの、その重厚から立ち上る硝煙ように中身のない答えだった。
この状況を、予見していなかった訳ではない。
男の静かな声音から、狼狽や混乱といった感情は読み取れない。
男が歩み続けてきた道程の最中、重ね合わせて積み上げてきた経験値。
それが思考すら必要とせず無意識下にある意識が自律的かつ合理的に、想定出来る限り全ての可能性を予測する。
幾度も死線を乗り越えて。
あらゆる修羅場を潜り抜け。
どんな地獄からでも生き延びてきた。
恐ろしく凄絶で途轍もなく濃密な、最早数え切れぬ程夥しい数の活きた戦闘経験、
その膨大な蓄積が「予知」と呼ばれ分類される希少な異能、それを微かとはいえ彷彿とさせる程度の先見を実現させた。
だからこそ初手も先手も取られ尚且撃たれるまで自分が撃たれたことに全く気付かず解らなくとも、音すら追い抜く死の宣告から耳を塞ぐことが出来た。
冗談のような気紛れがもたらす死という現実を、洒落で済ませることが出来たのだ。
例え少女がいつのか間に銃を抜き、気付かぬうちに構え、撃たれるまで解らなくとも撃たれてしまえばいくらでも反応出来る。
男の読みと身体能力があればいくらでも対処出来る。
たかが音の速さを超えた程度では、男を凌駕するには遅すぎる。
それを十二分に解っていながら、それでも少女は撃ったのだ。
理由は、恐らく男の想像通り。
それを理由と呼ぶことすら烏滸がましい、何の意図も無い無意味な衝動。
突き詰めつてしまえば、そんなことはただの嫌がらせに過ぎないのだから。
昔から、この少女はそうだった。
人の嫌がることを自ら率先して行っていた。
男は以前、どうしてそんなことを己の意志で出来るのか? と問うたことがある。
そのとき少女はクスクスと笑いながら、つまらなそうな目をしていた。
まるで砂を噛むように、解りきっていること答えなくてはならい苦痛に耐えるように。
「そんなことをするのに理由なんてありませんよ。それともあなたは理由があればどんなことでも出来るのですか?」
と答え、逆に問い返される始末だった。
男はその問いに、明確な答えを返せなかった。
さあ、どうだろうなと、曖昧に言葉を濁すことしか出来なかった。
それを訊いた少女はしたり顔で。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。きっとあなたはそうなんでしょうね。どんな理由があったとしても、あなたは他人の為にだけ自分の出来ることしかしない人なんですから」
そう、つまらなそうな目をしたまま言うのだ。
つまらないものを見る醒めきった目をしたままで。
鬱陶しそうに胸の中の不愉快を、言葉と一緒に吐き捨てていったのだった。
男は同じ言葉をもう一度、今度ははっきり口にする。
替わりではなく訊くでもなく、少女に向かって問い質す。
その答えに、少女の真意があるなど欠片も期待することなく。
「さぁねぇ、何でしょうねぇ。あなたのそんな顔を見ていたら、わたしの太くて固いモノが勝手に暴れちゃっただけかもしれませんねぇ」
未だ奇矯の残滓が棚引く見たこともない銃を構えたままで、少女は笑い混じりの道化た冗句ではぐらかす。
予想通りの、その重厚から立ち上る硝煙ように中身のない答えだった。
この状況を、予見していなかった訳ではない。
男の静かな声音から、狼狽や混乱といった感情は読み取れない。
男が歩み続けてきた道程の最中、重ね合わせて積み上げてきた経験値。
それが思考すら必要とせず無意識下にある意識が自律的かつ合理的に、想定出来る限り全ての可能性を予測する。
幾度も死線を乗り越えて。
あらゆる修羅場を潜り抜け。
どんな地獄からでも生き延びてきた。
恐ろしく凄絶で途轍もなく濃密な、最早数え切れぬ程夥しい数の活きた戦闘経験、
その膨大な蓄積が「予知」と呼ばれ分類される希少な異能、それを微かとはいえ彷彿とさせる程度の先見を実現させた。
だからこそ初手も先手も取られ尚且撃たれるまで自分が撃たれたことに全く気付かず解らなくとも、音すら追い抜く死の宣告から耳を塞ぐことが出来た。
冗談のような気紛れがもたらす死という現実を、洒落で済ませることが出来たのだ。
例え少女がいつのか間に銃を抜き、気付かぬうちに構え、撃たれるまで解らなくとも撃たれてしまえばいくらでも反応出来る。
男の読みと身体能力があればいくらでも対処出来る。
たかが音の速さを超えた程度では、男を凌駕するには遅すぎる。
それを十二分に解っていながら、それでも少女は撃ったのだ。
理由は、恐らく男の想像通り。
それを理由と呼ぶことすら烏滸がましい、何の意図も無い無意味な衝動。
突き詰めつてしまえば、そんなことはただの嫌がらせに過ぎないのだから。
昔から、この少女はそうだった。
人の嫌がることを自ら率先して行っていた。
男は以前、どうしてそんなことを己の意志で出来るのか? と問うたことがある。
そのとき少女はクスクスと笑いながら、つまらなそうな目をしていた。
まるで砂を噛むように、解りきっていること答えなくてはならい苦痛に耐えるように。
「そんなことをするのに理由なんてありませんよ。それともあなたは理由があればどんなことでも出来るのですか?」
と答え、逆に問い返される始末だった。
男はその問いに、明確な答えを返せなかった。
さあ、どうだろうなと、曖昧に言葉を濁すことしか出来なかった。
それを訊いた少女はしたり顔で。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。きっとあなたはそうなんでしょうね。どんな理由があったとしても、あなたは他人の為にだけ自分の出来ることしかしない人なんですから」
そう、つまらなそうな目をしたまま言うのだ。
つまらないものを見る醒めきった目をしたままで。
鬱陶しそうに胸の中の不愉快を、言葉と一緒に吐き捨てていったのだった。
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