Lovely Eater Deadlock

久末 一純

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一番大事な仕事の基本~その二十三~

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 そんな人を喰ったような、明らかに何を訊かれたか分かっていながら、わざと間違えたことが分かる答えを聞いても、彼女は何の反応も見せなかった。
 ただしそれは表面上だけに限った話だ。
 その取り繕った仮面から覗く凪を湛えた湖面の瞳の水底では、感情が大時化の海のように渦を巻いているのがよく見えた。
 どう見ても日の当たらない世界に生きる者の出で立ちをしていながら、そんな汚れ仕事、裏仕事をこなすにはが見ているだけで分かるほど中途半端に下手だった。
 何より自分が何者かを示すにはこれ以上ないほど分かりやすい名刺代わりとなる、黒一色の面妖な装備が彼女には
 それはほとんど見たことがない程度には見た目が変わっているだけの、間違いなく性能と機能性だけはお墨付きの折り紙つきであろう最上級で最高級な装備であったとしてもだ。
 いや寧ろだ。
 だからこそ彼女の拭いきれない、消しきれていない、風と土の匂いを感じる牧歌的な雰囲気とはただ相反するのみで、覆いきることも隠しきることもできず却って浮き彫りとなっていた。
 そのちぐはぐな姿は見る者にどうしょうもなく危うい印象を与える。
 
 真逆それを狙った訳ではなかろうが、あいつは一体どんな育成方針でもってここまで育てたのか、今度機会があれば訊いてみようかと一瞬ふと考えがよぎったが、それと同時に止めておこうと思い留まる。
 そんな機会はあって欲しくない上、どうせ訊きたい答えが聞けるまで非常に面倒なことになるのは考えるまでもなく目に見えている。
 それはあいつに答える気があろうとなかろうとどちらにせよ変わることはなだろう。
 この状況ではそんなひとのことなど一ミリも言えた義理ではない自分のことなど全く省みることなく、勝手な予測を考える。
 完全に自分のことは全部まとめて棚上げしているが、自分に限らずそうでもしなければひとに何かを言うる者も語れる者もこの世にほとんどいないだろう。
 それは人類でも人外でも同じこと。
 たとえそれが
 それ以前にあいつは人じゃないからまあいいかと適当な結論で若干言い訳じみた思考を締めくくる。
 適当の意味については自分自身で御高説をのたまっていたのだから、それが自分に適用されても文句はあるまい。
 そうした益体のない考えに脳を浸していたごく僅かな瞬間にも、俺から距離をとった彼女の構は微動だにせず髪の毛一筋ほどの乱れない。
 緊張と脱力が最適の比率で調和した、いっそ美しいとさえ言える精確で正道の構え。
 これもまた自身の格好と全く合っておらずそのをより強く印象付ける。
 だが構えとは裏腹にその湖面の瞳は内心の激情と苛立ちが滲みでて、凪の水面を波打たせ始めている。
 わざと間違いだと分かっていて口にしても、世辞もなければ嘘偽りもない俺の答えはどうやらお気に召さなかったらしい。
 まあそれはそうだろう。
 その理由は分かりきっている。
 彼女の”どうして”の質問の意味、出題者の意図、それを完全に無視するかたちで答えを返したのだから。
 彼女にしてみれば侮辱されていると思われても仕方ないだろう。
 何故なら彼女の”どうして”は”どうしてまだ自分を殺していないのか”を俺に問うものなのだから。
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