22 / 26
一番大事な仕事の基本~その二十一~
しおりを挟む
何故こうなってしまったのだろうか。どうしていればこうはならなかったのだろうか。
こういうとき、何時も何時でも何度でもどうしよもなく否が応にも頭に浮かんできてしまう女々しい疑問と無為な憧憬。
以前から姉に始まりその他さまざまな相手から言われ指摘されてきたことだが、どうやら俺は後悔だけをするばかりで反省も学習もしないらしい。
自分ではそんな認識は全くなく、あらゆる経験を全て活かして次に繋げているつもりだった。
だがそこに一度でも結果が伴ったことがあったのかと訊かれれば、首を横に振るしかなく相手の指摘には縦にしか振らざるをえない。
何より誰より姉からそう言われ、今でも変わることなく指摘されているのだ。きっと今でも直ることなくそのままなのだろう。
ならば事が済んだあとにそして終わってしまったあとに、何を考えようと何を思おうと、そんなことは無意味でしかないことは分かりきっているとだというのに。
たとえ正しい手順を踏襲し、適切な工程を経て、的確に行動に移そうとも、望んだ成果が得られなければそれはどこかでなにかが間違っているということである。
ならば答えは簡単で、そんなものは探すまでもなければ見直すまでもなく、間違っているのも間違えているのも常に自分自身に他ならない。
今回も、今まさに、今までがそうだったことを思い出すには十分な状況だった。
この膠着した状態を打開するため、そしてとにかく言葉を交わし、会話を成立させ、意志の疎通を図るという困難極まる難易度の指示を達成するため最善の選択をしたはずだった。
人間関係の構築における初期段階において最も重要な要素な一つである挨拶と自己紹介という自己紹介自己紹介手段を採ったはずなのに、返ってきたのはより一層の警戒と怪訝な視線、そして不審と困惑の沈黙だった。
もとよりこの無駄に破棄されていくだけの時間をなんとか有意義なものへと変異させ事態を進展させるべく打った会心の一手。
と思ったのだが結果はご覧の有様。
元の木阿弥というならまだいい。
しかし困難を乗り越えるためにこちらから仕掛けた結果、難易度が上がるどころかさらに深まった。
まるで蟻地獄のよう、というよりは自分の足下に自分で穴を掘っているというほうが近い。
ああ、これが世に云う墓穴を掘るというものか。真逆こんなところで学ぶことになるとは。
それならこのまま埋めてくれれば楽なんだがなと思った矢先、微かに耳に届く音があった。
それは沈黙と膠着を破る鋭く細い小さな針のようだった。
しかしそのために元は丸く滑らかで柔らかなものを無理矢理削ぎ落とし叩き出したような不自然さを持っていた。
それは高く澄んでいながらも、長く風雨に晒された拭えぬ錆の浮いた声だった。
「こ……こんばんは。私はヴュセル。ヴュセル・フェプレイヒャー……です」
警戒も怪訝も不審も困惑も変わることなく未だその全身に纏ったままだ。
しかしその控えめな芯の通った挨拶と自己紹介が彼女の被る本当の仮面に罅が入り、素顔を覗かせた初めての瞬間だった。
こういうとき、何時も何時でも何度でもどうしよもなく否が応にも頭に浮かんできてしまう女々しい疑問と無為な憧憬。
以前から姉に始まりその他さまざまな相手から言われ指摘されてきたことだが、どうやら俺は後悔だけをするばかりで反省も学習もしないらしい。
自分ではそんな認識は全くなく、あらゆる経験を全て活かして次に繋げているつもりだった。
だがそこに一度でも結果が伴ったことがあったのかと訊かれれば、首を横に振るしかなく相手の指摘には縦にしか振らざるをえない。
何より誰より姉からそう言われ、今でも変わることなく指摘されているのだ。きっと今でも直ることなくそのままなのだろう。
ならば事が済んだあとにそして終わってしまったあとに、何を考えようと何を思おうと、そんなことは無意味でしかないことは分かりきっているとだというのに。
たとえ正しい手順を踏襲し、適切な工程を経て、的確に行動に移そうとも、望んだ成果が得られなければそれはどこかでなにかが間違っているということである。
ならば答えは簡単で、そんなものは探すまでもなければ見直すまでもなく、間違っているのも間違えているのも常に自分自身に他ならない。
今回も、今まさに、今までがそうだったことを思い出すには十分な状況だった。
この膠着した状態を打開するため、そしてとにかく言葉を交わし、会話を成立させ、意志の疎通を図るという困難極まる難易度の指示を達成するため最善の選択をしたはずだった。
人間関係の構築における初期段階において最も重要な要素な一つである挨拶と自己紹介という自己紹介自己紹介手段を採ったはずなのに、返ってきたのはより一層の警戒と怪訝な視線、そして不審と困惑の沈黙だった。
もとよりこの無駄に破棄されていくだけの時間をなんとか有意義なものへと変異させ事態を進展させるべく打った会心の一手。
と思ったのだが結果はご覧の有様。
元の木阿弥というならまだいい。
しかし困難を乗り越えるためにこちらから仕掛けた結果、難易度が上がるどころかさらに深まった。
まるで蟻地獄のよう、というよりは自分の足下に自分で穴を掘っているというほうが近い。
ああ、これが世に云う墓穴を掘るというものか。真逆こんなところで学ぶことになるとは。
それならこのまま埋めてくれれば楽なんだがなと思った矢先、微かに耳に届く音があった。
それは沈黙と膠着を破る鋭く細い小さな針のようだった。
しかしそのために元は丸く滑らかで柔らかなものを無理矢理削ぎ落とし叩き出したような不自然さを持っていた。
それは高く澄んでいながらも、長く風雨に晒された拭えぬ錆の浮いた声だった。
「こ……こんばんは。私はヴュセル。ヴュセル・フェプレイヒャー……です」
警戒も怪訝も不審も困惑も変わることなく未だその全身に纏ったままだ。
しかしその控えめな芯の通った挨拶と自己紹介が彼女の被る本当の仮面に罅が入り、素顔を覗かせた初めての瞬間だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる