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一番大事な仕事の基本~その十一~
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「わかりやすいな……それに」そう呟いて背中を見せた途端、通路の死角に潜んでいた敵二人が左右から同時に首と心臓を狙い大振りのナイフを突き込んでくる。
いくらなんでもこんな狭い通路内で銃を使うほど安い連中ではないらしい。
だが質と練度はどいつもこいつも十把一絡げ。
値段にすれば二束三文が相場だろう。
そしてもう何度目になるかも忘れたまたかと、という思いに辟易しながらも身体は動きこれまでとほぼ同じように機械的に処理していく。
背後から何の捻りもない直線軌道で突き入れられる刃先は肌どころか服にも届いていない。
それなのに相手は未だに何の反応も見せない俺に対し自分たちの奇襲が成功したと思い込んだ。
その瞬間の呼吸と意識の隙間を完全に読み、前を向いたままゆらりと身体を地面に沈め、連動した右足を後ろに一歩踏み込む。
視線を前に固定したまま陸上選手の走り出しをより極端にしたような深い前傾姿勢とる。
ナイフで突かれる前に穴が開くほど凝視していた目線から身体を外し、滑るような歩法で左の軸足を移動させ四つの眼の盲点へ身体を横に開きするりと入り込ませる。
どれも大した速さの動きではない。寧ろ速さだけなら日常動作とほとんど大差のないごくゆっくりとしたものだ。
それでも二人の目には俺の姿が煙のように消えて見えたのだろう。
確認すまでもなく隠すことのない動揺の気配がありありと伝わってくる。
一瞬も眼を離していないはずなのにと。
だがそれは大きな誤りだ。
しかしそんなことを教える義理も厚意も親切心も年中品切れ入荷予定も一切ない。
ただその結果生まれた隙を利用するだけだ。
一番手っ取り早おざなりなやり方に。
未だ動揺から立ち直っていないことに若干呆れながら、こちらは手のひらサイズのお手軽ナイフでさくりさくりと頸動脈に死ぬには丁度いい程度の傷を必要最小限の手間で引いて終わらせる。
二人揃って何も理解しなまま死んだことを手応だけで確認し、、小さく一つ溜息を吐く。
「わかり易すぎてもう流石に飽きたな」
九区利から新たな指示を受け黒い蝶にひかれて施設の最奥部があると思しき地の底へと降りていくにつれ、それに比例するように敵との遭遇率とその数は着実に増えていった。
この施設内には様々な種類の監視装置が隠すことなくあちこちに設置されている。
この施設の面倒な構造を考慮しても、これでは外部からの侵入を警戒していると言うより内部の行動を看守しているようだ。
亜流呼が開けた穴から施設内に侵入したとき殺した誰か、は監視装置が察知した異常を確かめるために一人でのこのことやってきたのだろう。
真逆とは思うがあそこで鉢合わせしたのは向こうがこの地下の施設内を迷っていたからということはなかろうか。
だとしたらご祝儀袋としか言いようがない。殺したのは俺なのだが。
その後しばらく施設内を歩き回ったが誰一人として出会わなかった。
それが今では正面から背後から、真っ向から奇襲まで手を変え品を変え矢継ぎ早に次々と呼んでもいないのに現れる。
この先に大事なものが隠されていると言わんばかりに、実にわかり易いかたちで教えてくた。
しかしその遭遇率と数に反比例するように質と練度は先へ進めば進むほど下がっていく。
亜流呼が上で適度に暴れてくれているお陰もあるだろうがどうにも妙な感覚が拭えない。
ここに転がっている連中に比べれば俺が屋上で殺した六人のほうがまだしも戦えた。
実力と経験と訓練が全く足りなりないのは一目で明らかだ。
同様に生無気の修行も制御も強度もお粗末なものだ。
さっき処理して間抜けどもと同様に残心にまで至らない。油断とすら言えない。内心の揺らぎがあまりにも駄々漏れな脆い精神。
根拠のない自信と裏付けのない自負のみで戦いに臨む何より自分自信を識らない未熟さ。
そんな連中がそこら中に隠れているのが筒抜けなだけでなくそれに重ねて動きまで予想通りの定石通り。
どれだけ手札が多かろうとあまりの程度の低さと常に予想を裏切ることはないから即座に飽きた。
これで数だけは無駄に多いのだからあとはうんざりするしかない。
手練れは亜流呼に対処に出払っていてここに残っているのは出涸らしの連中ばかりなのか。
だとしたら俺と傷仁が既に施設内部に侵入しているのは把握しているはずなのに悪手としか言いようがない。
ここは社員だけでなく指揮命令者まで程度が低いのか。
それとも外部からの襲撃に対する防衛と内部の警備を担当する社員を分担しているのか。
もしそうならここの警備はこの程度の連中で十分と判断したことになる。
やはりどこか噛み合わない、ちぐはぐな違和感が消えることはない。
しかしこれ以上考えても答えはでない。
敵に対する評価と考察は一度棚上げし、ここまでの状況と見解を九区利に報告する。
そして何より一番面倒なのがここまで進んできて現在も進行中であるこの地下通路そのものだった。
奥に行けば行くほど、下に降りれば降りるほど、細く狭く道の分岐が増え複雑に入り組んでいく。
確かにこれなら外から内への侵入の足を阻むことができる。
だがそれは最初からなかにいる者には同じ意味で逆になる。
こんなところからどうやって手がかりを探し当てたのか、そもそもその判断基準どう設定されているのか。
興味はあるが今はその結果だけを追いかけよう。
そうしてもいい加減うんざりしながら敵を処理し、飽き飽きしながら進んでいくと急に開けた場所に出た。
どうやらここは通路の分岐点が一箇所に集まった広場のようで、古式ゆかしい右か左か真ん中かを選ぶような場所だった。
そこでこの施設に侵入して初めて予想を裏切る事態に直面し、全く予想していないかった顔見知りが場違いも甚だしい存在感をもってそこにいた。
「グーテンアーベント、つくも。今日も変わらずいい夜だな」
友人に向けるものと同種の笑顔を浮かべる、明るい夜の空気を常に纏うその男は紛れもない親しみを込めた挨拶とともに気安い言葉をかけてくる。
確かに腐れ縁と言っていいほどこいつとは数限りなくあらゆる場所のあらゆる状況で顔を合わせてきた。
だが俺は未だ一度もこいつが夜の挨拶以外を口にしたことを聞いたことがなかった。
いくらなんでもこんな狭い通路内で銃を使うほど安い連中ではないらしい。
だが質と練度はどいつもこいつも十把一絡げ。
値段にすれば二束三文が相場だろう。
そしてもう何度目になるかも忘れたまたかと、という思いに辟易しながらも身体は動きこれまでとほぼ同じように機械的に処理していく。
背後から何の捻りもない直線軌道で突き入れられる刃先は肌どころか服にも届いていない。
それなのに相手は未だに何の反応も見せない俺に対し自分たちの奇襲が成功したと思い込んだ。
その瞬間の呼吸と意識の隙間を完全に読み、前を向いたままゆらりと身体を地面に沈め、連動した右足を後ろに一歩踏み込む。
視線を前に固定したまま陸上選手の走り出しをより極端にしたような深い前傾姿勢とる。
ナイフで突かれる前に穴が開くほど凝視していた目線から身体を外し、滑るような歩法で左の軸足を移動させ四つの眼の盲点へ身体を横に開きするりと入り込ませる。
どれも大した速さの動きではない。寧ろ速さだけなら日常動作とほとんど大差のないごくゆっくりとしたものだ。
それでも二人の目には俺の姿が煙のように消えて見えたのだろう。
確認すまでもなく隠すことのない動揺の気配がありありと伝わってくる。
一瞬も眼を離していないはずなのにと。
だがそれは大きな誤りだ。
しかしそんなことを教える義理も厚意も親切心も年中品切れ入荷予定も一切ない。
ただその結果生まれた隙を利用するだけだ。
一番手っ取り早おざなりなやり方に。
未だ動揺から立ち直っていないことに若干呆れながら、こちらは手のひらサイズのお手軽ナイフでさくりさくりと頸動脈に死ぬには丁度いい程度の傷を必要最小限の手間で引いて終わらせる。
二人揃って何も理解しなまま死んだことを手応だけで確認し、、小さく一つ溜息を吐く。
「わかり易すぎてもう流石に飽きたな」
九区利から新たな指示を受け黒い蝶にひかれて施設の最奥部があると思しき地の底へと降りていくにつれ、それに比例するように敵との遭遇率とその数は着実に増えていった。
この施設内には様々な種類の監視装置が隠すことなくあちこちに設置されている。
この施設の面倒な構造を考慮しても、これでは外部からの侵入を警戒していると言うより内部の行動を看守しているようだ。
亜流呼が開けた穴から施設内に侵入したとき殺した誰か、は監視装置が察知した異常を確かめるために一人でのこのことやってきたのだろう。
真逆とは思うがあそこで鉢合わせしたのは向こうがこの地下の施設内を迷っていたからということはなかろうか。
だとしたらご祝儀袋としか言いようがない。殺したのは俺なのだが。
その後しばらく施設内を歩き回ったが誰一人として出会わなかった。
それが今では正面から背後から、真っ向から奇襲まで手を変え品を変え矢継ぎ早に次々と呼んでもいないのに現れる。
この先に大事なものが隠されていると言わんばかりに、実にわかり易いかたちで教えてくた。
しかしその遭遇率と数に反比例するように質と練度は先へ進めば進むほど下がっていく。
亜流呼が上で適度に暴れてくれているお陰もあるだろうがどうにも妙な感覚が拭えない。
ここに転がっている連中に比べれば俺が屋上で殺した六人のほうがまだしも戦えた。
実力と経験と訓練が全く足りなりないのは一目で明らかだ。
同様に生無気の修行も制御も強度もお粗末なものだ。
さっき処理して間抜けどもと同様に残心にまで至らない。油断とすら言えない。内心の揺らぎがあまりにも駄々漏れな脆い精神。
根拠のない自信と裏付けのない自負のみで戦いに臨む何より自分自信を識らない未熟さ。
そんな連中がそこら中に隠れているのが筒抜けなだけでなくそれに重ねて動きまで予想通りの定石通り。
どれだけ手札が多かろうとあまりの程度の低さと常に予想を裏切ることはないから即座に飽きた。
これで数だけは無駄に多いのだからあとはうんざりするしかない。
手練れは亜流呼に対処に出払っていてここに残っているのは出涸らしの連中ばかりなのか。
だとしたら俺と傷仁が既に施設内部に侵入しているのは把握しているはずなのに悪手としか言いようがない。
ここは社員だけでなく指揮命令者まで程度が低いのか。
それとも外部からの襲撃に対する防衛と内部の警備を担当する社員を分担しているのか。
もしそうならここの警備はこの程度の連中で十分と判断したことになる。
やはりどこか噛み合わない、ちぐはぐな違和感が消えることはない。
しかしこれ以上考えても答えはでない。
敵に対する評価と考察は一度棚上げし、ここまでの状況と見解を九区利に報告する。
そして何より一番面倒なのがここまで進んできて現在も進行中であるこの地下通路そのものだった。
奥に行けば行くほど、下に降りれば降りるほど、細く狭く道の分岐が増え複雑に入り組んでいく。
確かにこれなら外から内への侵入の足を阻むことができる。
だがそれは最初からなかにいる者には同じ意味で逆になる。
こんなところからどうやって手がかりを探し当てたのか、そもそもその判断基準どう設定されているのか。
興味はあるが今はその結果だけを追いかけよう。
そうしてもいい加減うんざりしながら敵を処理し、飽き飽きしながら進んでいくと急に開けた場所に出た。
どうやらここは通路の分岐点が一箇所に集まった広場のようで、古式ゆかしい右か左か真ん中かを選ぶような場所だった。
そこでこの施設に侵入して初めて予想を裏切る事態に直面し、全く予想していないかった顔見知りが場違いも甚だしい存在感をもってそこにいた。
「グーテンアーベント、つくも。今日も変わらずいい夜だな」
友人に向けるものと同種の笑顔を浮かべる、明るい夜の空気を常に纏うその男は紛れもない親しみを込めた挨拶とともに気安い言葉をかけてくる。
確かに腐れ縁と言っていいほどこいつとは数限りなくあらゆる場所のあらゆる状況で顔を合わせてきた。
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