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第32話 ケルナーの告白
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マジョール王国に朝が来れば、王都タランガにも朝が来る。
もちろんフロール伯爵邸にも朝が来る。
「おはようございます」
食堂に入ったケルナー・ド・フロール伯爵令嬢が朝の挨拶をしたものの、「おはよう」と返ってきた声は1人分だけ。見ると、ハーロウ・ザ・フロール伯爵と3人の兄が居ない。
「お母さま、お父様とお兄様達はどちらへ?」
グルース・デ・フロール伯爵夫人はゆったりと微笑みを見せる。
「急ぎのお仕事が入ったの。執務室で食べながら…ですって」
「そうですか」
ケルナーは自分の席に座る。
メイドがケルナーの前に温かいスープの入った皿を置く。
「ちょっと寂しいけど、いただきましょう」
グルース伯爵夫人に言われたケルナーは「はい」と答える。簡単な祈りの後、スプーンを手にした。
ともに2口3口スープを口に運んだところで、グルース伯爵夫人が尋ねる。
「お父様に何かご用?」
ケルナーは「いいえ…」と口ごもる。
娘に何かあったと察したグルース伯爵夫人は、言葉で問いかけないまま優しい視線を送り続ける。
「実は…」
ケルナーが切り出す。
やはりグルース伯爵夫人は何も言わないまま『話しなさい』とばかりに見つめる。
「魔法が使えるようになったんです」
グルース伯爵夫人のスプーンがスープ皿にカツンと当たる。
「えっ!」
伯爵夫人らしからぬ声を出したグルース伯爵夫人は、席を立ってケルナーのところに駆け寄る。
「本当?」
問われてうなずいたケルナーに、グルース伯爵夫人は「何か使って見せて」とせがむ。
ケルナーは右手を広げて静かに念じる。少し後、ケルナーの手のひらから風が巻きおこる。ケルナーとグルース伯爵夫人を取り巻いて2人の髪をいくらか乱す。
「素敵!」
グルース伯爵夫人がパンと両手を合わせてケルナーを褒める。そのままグルース伯爵夫人軽く人差し指を数回振ると、同じように2人を取り巻く風が起こる。風は2人の乱れた髪を整えた。
グルース伯爵夫人が風を完璧に操ったのとは対照的に、ケルナーが使ったのはも単純に風を起こす、もちろん初歩の風魔法。しかし昨日まで魔法のマの字も使えなかったケルナーからずれば大きな進歩だ。偶然、食堂に居合わせたメイドも驚きの表情を見せつつ「お嬢様、素敵です」とばかりに小さく拍手している。
グルース伯爵夫人はケルナーの手を引っ張って立ち上がらせた。
「さ、行きましょう」
「どこへ?ですか?」
「もっちろん、旦那様のところ」
ケルナーは心配そうに眉をひそめる。先ほどの言葉を思い出したからだ。
「でも、急ぎのお仕事って…」
グルース伯爵夫人は笑顔で首を振る。
「こんなに素敵なことが起こったんだもの、すぐに知らせるべきよ」
ケルナーの背中を押して食堂から出ていった。と、グルース伯爵夫人が顔だけ食堂に覗かせる。
「朝食は戻ってから食べるわ。温めておいてね」
メイドは「かしこまりました」と頭を下げた。
「あなた!」
ノックもなしに飛び込んできた妻と娘に、ハーロウ・ザ・フロール伯爵は一瞬険しい表情を見せた。しかし妻の晴れがましい笑顔と娘の控えめな笑顔を見て、とがめる言葉を飲み込んだ。婚約者となった頃から往々にして彼女の言動を妨げない方が良いと理解してきたからだ。
それでも長男のサラバンドが「母様…」と言いかけたところで、グルース伯爵夫人が「黙りなさい」とばかりに人差し指をサラバンドの口に押し付けた。
「大変な…、いいえ、本当に素晴らしいことなの。だからあなたに知らせたくって」
「急用と伝えたはずだが…」
フロール伯爵は机に置いたカップを横にずらす。一応抵抗するふりを見せて腕組みした。
「何があったんだ?」
グルース伯爵夫人は、もったいぶらせるように微笑んだまま、ケルナーの背中を押した。
「さ、あなたから報告なさい」
フロール伯爵と兄3人の視線がケルナーに集まる。
「魔法が使えるようになりました」
一瞬の静寂の後、フロール伯爵と兄3人が「おお!」と声をそろえて叫んだ。
「何か、使えるのか?」
フロール伯爵の言葉に、ケルナーは右手の人差し指に意識を集中する。ひと呼吸おいて指先に炎が浮かんだ。
「おお!」
またも4人の声がそろった。
すぐにケルナーの指先から炎は消えたものの、4人の興奮は止まらない。
ただしグルース伯爵夫人は「あら!」とケルナーの肩を抱いた。
「さっきは風だったのに火も使えるの?」
ケルナーは「はい」とうなずく。
「先ほどはお母さまが風属性なので風を、今はお父様に合わせて火を出してみました。どうやら風と火の適性があるようです」
「おお!」
またまた4人の声がそろった。
フロール伯爵が椅子から立ち上がってケルナーを抱きしめる。その上からグルース伯爵夫人が、そしてサラバンド、ニューディ、アリンカの兄3人も真似して抱きしめてくる。その場にフロール伯爵家の団子ができた。
「ちょっと、苦しいです」
埋もれたケルナーの言葉に家族が離れる。
「いつから、そうしたことが分かったんだ?」
最後にケルナーから離れたフロール伯爵が尋ねた。
そう!それなの!
なんかロージィ・スカーレットって変なコがいてね
変なコって言っても、相当魔法が使えるのは間違いないの
あ、そうそう、そのロージィがこないだ誘拐された時助けてくれたんだよね
まあ、それは置いとくね
で、昨日の夜、いつの間にか私の寝室で寝てたんだから
その上、お父様の結界を道端の水たまりとか小石と変わらないなんて言うの
もっとも2度も侵入を許してるんだから、そう言われても仕方ないけどね
もう一度結界を見直してみたいんだけど、どうお父様に伝えたら良いのかなあ
良い方法がないかしら…
でもって、そのロージィに任せたら、一晩で魔法を使えるようにして見せるって
実はポー・ドゥース様にも相談したのだけど
ポー様は一年かかるって言うのよね
一年はさすがに長いなあって思うのよ
お父様やお母様なら、そっちを選んだかしら
ただ、ロージィが自信ありげだったから任せてみたの
そうしたら死ぬかと思ったわ!
体が動けなくなるし、髪は逆立つし、涙やよだれは垂れ流しになるし
おしっこは…ゴホンゲホン
とにかく死にそうな目にあったのに、ロージィが私に何て言ったと思う?
「そう思えるのは生きてる証拠」って
この時ほど魔法が使えないのを残念に感じたことは無かったわ
魔法が使えたら、もう何が何でも…
でも、まあ、ロージィのおかげで使えるようになったのは事実
その時に火と風の適性があるってことも教わったの
それにロージィの勘で火を中心に補助で風を練習するのも決めたのよ
うーん、ロージィの勘ってなんか無視しちゃいけない気がするの
それでなんだかんだあって帰ってきたんだけど
魔法を使えるようになった時、魔力を一気に解放したことで、夜着が吹き飛んじゃったのね
涙とかでぐしゃぐしゃになった顔をきれいにして股も洗ったけど
あ、股は何とも無いのよ、ええ、本当に何とも無いの、絶対よ
裸のままでは居られないじゃない
で、強引にロージィのマントを引っぺがして巻いてたの
そしたらロージィの奴、帰る時に浮かび上がったらマントを取っちゃうのよ!
当然、私は素っ裸よね!
わざと家の上をゆっくり飛び回るし、もう恥ずか死するかと思った
それをロージィったら、私が目覚めたとか言うのよ
これって侮辱よね!
この時ほど魔法が使えないのを残念に感じたことは無かったパートツーよ
そんなわけないじゃないの!ねえ!
まあ、もう1回くらい裸で飛んでみても良いかなとか…エッヘンオッホン
こんなこと話せる訳はないから、いろいろ考えたんだけど…
「昨晩、少し眠れなかったので以前読んだ魔導書にならって瞑想してみたんです」
フロール伯爵が「ほぉ」と興味深そうな顔をする。
「そうしたら、何かの拍子に体の中で流れがつながったような気がして…」
「ふむ」
「それから右手に意識を集中すると、今のように火が出せたんです」
グルース伯爵夫人「風も、なの?」と聞く。
「はい。そして、水と土も念じてみたのですが、何も起きなかったので」
「なるほどな。まあ、間違いないだろう」
ポー・ドゥースやロージィがしたように、フロール伯爵がケルナーの両手を握る。
ケルナーは透明な指輪を気づかれるかと思ったものの、ロージィの偽装が効いているようで、フロール伯爵は気づかなかった。
「かなりの魔力だな」
一旦閉じた目を開けたフロール伯爵は「アリンカと同じくらい、まあ私の10分の1といったところか」とも付け加える。
「もう追いつかれたかあ」
言われたアリンカが苦笑して嘆く。ケルナーにとってすぐ上の兄であるアリンカは一番近い目標だ。魔力だけでも追いついたのは嬉しいが、気になる点もあった。
『今の私の魔力ってロージィの指輪で10分の1に抑えてるのよね。じゃあ指輪が無かったら、お父様と同じくらいってこと?まさか…でも…」
ケルナーはロージィが嘘をついたとは思えなかった。
「それで、ケルナーはどうするんだ?火と風をどう訓練していく?」
「もちろん風よね。私が教えてあげられるし」
グルース伯爵夫人がケルナーを抱きしめる。
「いや、しかし…」
フロール伯爵も口を挟む。
「火も良いんじゃないかな。火なら私が…」
全部を言い終わらないうちに、グルース伯爵夫人がにらむ。
「あなたはお仕事があるでしょ。現に今日も朝食すらご一緒できなかったじゃないの」
「そ、それは…」
グルース伯爵夫人はさらに力強くケルナーを抱きしめる。
「ね、風にしましょう」
「ごめんなさい。お母様」
ケルナーはゆっくり母親の手を振りほどいた。
「慎重に考えて、火を9で風を1くらいの割合で練習しようって決めたんです」
一転グルース伯爵夫人は悲しそうな顔をする。
「あなたがそう決めたのなら仕方ないけど、どうしてそう考えたの」
「そうだな、私もそれを知りたいな」
大きくうなずいてフロール伯爵もケルナーの答えを待った。ただしこちらは今にも喜びで飛び上がりそうな雰囲気だ。もちろんケルナーが「火を9で風を1」と言ったのが理由。
「あなたはお仕事がありますよね。私がちゃんとした火の教師を見つけます」
グルース伯爵夫人の強めの言葉に、フロール伯爵は肩を落とす。
「あ、風は私が教えますから、楽しみにしててね」
ケルナーよりもグルース伯爵夫人の方が楽しみにしている様子なのは言うまでもない。
「はっきりとした理由はないんですけど、勘でしょうか」
3人の兄の誰かから「うーん」とため息が生まれた。
しかし両親を含めて、「ケルナーが決めたのなら」と反対の意見を口に出す者は居なかった。
もちろんフロール伯爵邸にも朝が来る。
「おはようございます」
食堂に入ったケルナー・ド・フロール伯爵令嬢が朝の挨拶をしたものの、「おはよう」と返ってきた声は1人分だけ。見ると、ハーロウ・ザ・フロール伯爵と3人の兄が居ない。
「お母さま、お父様とお兄様達はどちらへ?」
グルース・デ・フロール伯爵夫人はゆったりと微笑みを見せる。
「急ぎのお仕事が入ったの。執務室で食べながら…ですって」
「そうですか」
ケルナーは自分の席に座る。
メイドがケルナーの前に温かいスープの入った皿を置く。
「ちょっと寂しいけど、いただきましょう」
グルース伯爵夫人に言われたケルナーは「はい」と答える。簡単な祈りの後、スプーンを手にした。
ともに2口3口スープを口に運んだところで、グルース伯爵夫人が尋ねる。
「お父様に何かご用?」
ケルナーは「いいえ…」と口ごもる。
娘に何かあったと察したグルース伯爵夫人は、言葉で問いかけないまま優しい視線を送り続ける。
「実は…」
ケルナーが切り出す。
やはりグルース伯爵夫人は何も言わないまま『話しなさい』とばかりに見つめる。
「魔法が使えるようになったんです」
グルース伯爵夫人のスプーンがスープ皿にカツンと当たる。
「えっ!」
伯爵夫人らしからぬ声を出したグルース伯爵夫人は、席を立ってケルナーのところに駆け寄る。
「本当?」
問われてうなずいたケルナーに、グルース伯爵夫人は「何か使って見せて」とせがむ。
ケルナーは右手を広げて静かに念じる。少し後、ケルナーの手のひらから風が巻きおこる。ケルナーとグルース伯爵夫人を取り巻いて2人の髪をいくらか乱す。
「素敵!」
グルース伯爵夫人がパンと両手を合わせてケルナーを褒める。そのままグルース伯爵夫人軽く人差し指を数回振ると、同じように2人を取り巻く風が起こる。風は2人の乱れた髪を整えた。
グルース伯爵夫人が風を完璧に操ったのとは対照的に、ケルナーが使ったのはも単純に風を起こす、もちろん初歩の風魔法。しかし昨日まで魔法のマの字も使えなかったケルナーからずれば大きな進歩だ。偶然、食堂に居合わせたメイドも驚きの表情を見せつつ「お嬢様、素敵です」とばかりに小さく拍手している。
グルース伯爵夫人はケルナーの手を引っ張って立ち上がらせた。
「さ、行きましょう」
「どこへ?ですか?」
「もっちろん、旦那様のところ」
ケルナーは心配そうに眉をひそめる。先ほどの言葉を思い出したからだ。
「でも、急ぎのお仕事って…」
グルース伯爵夫人は笑顔で首を振る。
「こんなに素敵なことが起こったんだもの、すぐに知らせるべきよ」
ケルナーの背中を押して食堂から出ていった。と、グルース伯爵夫人が顔だけ食堂に覗かせる。
「朝食は戻ってから食べるわ。温めておいてね」
メイドは「かしこまりました」と頭を下げた。
「あなた!」
ノックもなしに飛び込んできた妻と娘に、ハーロウ・ザ・フロール伯爵は一瞬険しい表情を見せた。しかし妻の晴れがましい笑顔と娘の控えめな笑顔を見て、とがめる言葉を飲み込んだ。婚約者となった頃から往々にして彼女の言動を妨げない方が良いと理解してきたからだ。
それでも長男のサラバンドが「母様…」と言いかけたところで、グルース伯爵夫人が「黙りなさい」とばかりに人差し指をサラバンドの口に押し付けた。
「大変な…、いいえ、本当に素晴らしいことなの。だからあなたに知らせたくって」
「急用と伝えたはずだが…」
フロール伯爵は机に置いたカップを横にずらす。一応抵抗するふりを見せて腕組みした。
「何があったんだ?」
グルース伯爵夫人は、もったいぶらせるように微笑んだまま、ケルナーの背中を押した。
「さ、あなたから報告なさい」
フロール伯爵と兄3人の視線がケルナーに集まる。
「魔法が使えるようになりました」
一瞬の静寂の後、フロール伯爵と兄3人が「おお!」と声をそろえて叫んだ。
「何か、使えるのか?」
フロール伯爵の言葉に、ケルナーは右手の人差し指に意識を集中する。ひと呼吸おいて指先に炎が浮かんだ。
「おお!」
またも4人の声がそろった。
すぐにケルナーの指先から炎は消えたものの、4人の興奮は止まらない。
ただしグルース伯爵夫人は「あら!」とケルナーの肩を抱いた。
「さっきは風だったのに火も使えるの?」
ケルナーは「はい」とうなずく。
「先ほどはお母さまが風属性なので風を、今はお父様に合わせて火を出してみました。どうやら風と火の適性があるようです」
「おお!」
またまた4人の声がそろった。
フロール伯爵が椅子から立ち上がってケルナーを抱きしめる。その上からグルース伯爵夫人が、そしてサラバンド、ニューディ、アリンカの兄3人も真似して抱きしめてくる。その場にフロール伯爵家の団子ができた。
「ちょっと、苦しいです」
埋もれたケルナーの言葉に家族が離れる。
「いつから、そうしたことが分かったんだ?」
最後にケルナーから離れたフロール伯爵が尋ねた。
そう!それなの!
なんかロージィ・スカーレットって変なコがいてね
変なコって言っても、相当魔法が使えるのは間違いないの
あ、そうそう、そのロージィがこないだ誘拐された時助けてくれたんだよね
まあ、それは置いとくね
で、昨日の夜、いつの間にか私の寝室で寝てたんだから
その上、お父様の結界を道端の水たまりとか小石と変わらないなんて言うの
もっとも2度も侵入を許してるんだから、そう言われても仕方ないけどね
もう一度結界を見直してみたいんだけど、どうお父様に伝えたら良いのかなあ
良い方法がないかしら…
でもって、そのロージィに任せたら、一晩で魔法を使えるようにして見せるって
実はポー・ドゥース様にも相談したのだけど
ポー様は一年かかるって言うのよね
一年はさすがに長いなあって思うのよ
お父様やお母様なら、そっちを選んだかしら
ただ、ロージィが自信ありげだったから任せてみたの
そうしたら死ぬかと思ったわ!
体が動けなくなるし、髪は逆立つし、涙やよだれは垂れ流しになるし
おしっこは…ゴホンゲホン
とにかく死にそうな目にあったのに、ロージィが私に何て言ったと思う?
「そう思えるのは生きてる証拠」って
この時ほど魔法が使えないのを残念に感じたことは無かったわ
魔法が使えたら、もう何が何でも…
でも、まあ、ロージィのおかげで使えるようになったのは事実
その時に火と風の適性があるってことも教わったの
それにロージィの勘で火を中心に補助で風を練習するのも決めたのよ
うーん、ロージィの勘ってなんか無視しちゃいけない気がするの
それでなんだかんだあって帰ってきたんだけど
魔法を使えるようになった時、魔力を一気に解放したことで、夜着が吹き飛んじゃったのね
涙とかでぐしゃぐしゃになった顔をきれいにして股も洗ったけど
あ、股は何とも無いのよ、ええ、本当に何とも無いの、絶対よ
裸のままでは居られないじゃない
で、強引にロージィのマントを引っぺがして巻いてたの
そしたらロージィの奴、帰る時に浮かび上がったらマントを取っちゃうのよ!
当然、私は素っ裸よね!
わざと家の上をゆっくり飛び回るし、もう恥ずか死するかと思った
それをロージィったら、私が目覚めたとか言うのよ
これって侮辱よね!
この時ほど魔法が使えないのを残念に感じたことは無かったパートツーよ
そんなわけないじゃないの!ねえ!
まあ、もう1回くらい裸で飛んでみても良いかなとか…エッヘンオッホン
こんなこと話せる訳はないから、いろいろ考えたんだけど…
「昨晩、少し眠れなかったので以前読んだ魔導書にならって瞑想してみたんです」
フロール伯爵が「ほぉ」と興味深そうな顔をする。
「そうしたら、何かの拍子に体の中で流れがつながったような気がして…」
「ふむ」
「それから右手に意識を集中すると、今のように火が出せたんです」
グルース伯爵夫人「風も、なの?」と聞く。
「はい。そして、水と土も念じてみたのですが、何も起きなかったので」
「なるほどな。まあ、間違いないだろう」
ポー・ドゥースやロージィがしたように、フロール伯爵がケルナーの両手を握る。
ケルナーは透明な指輪を気づかれるかと思ったものの、ロージィの偽装が効いているようで、フロール伯爵は気づかなかった。
「かなりの魔力だな」
一旦閉じた目を開けたフロール伯爵は「アリンカと同じくらい、まあ私の10分の1といったところか」とも付け加える。
「もう追いつかれたかあ」
言われたアリンカが苦笑して嘆く。ケルナーにとってすぐ上の兄であるアリンカは一番近い目標だ。魔力だけでも追いついたのは嬉しいが、気になる点もあった。
『今の私の魔力ってロージィの指輪で10分の1に抑えてるのよね。じゃあ指輪が無かったら、お父様と同じくらいってこと?まさか…でも…」
ケルナーはロージィが嘘をついたとは思えなかった。
「それで、ケルナーはどうするんだ?火と風をどう訓練していく?」
「もちろん風よね。私が教えてあげられるし」
グルース伯爵夫人がケルナーを抱きしめる。
「いや、しかし…」
フロール伯爵も口を挟む。
「火も良いんじゃないかな。火なら私が…」
全部を言い終わらないうちに、グルース伯爵夫人がにらむ。
「あなたはお仕事があるでしょ。現に今日も朝食すらご一緒できなかったじゃないの」
「そ、それは…」
グルース伯爵夫人はさらに力強くケルナーを抱きしめる。
「ね、風にしましょう」
「ごめんなさい。お母様」
ケルナーはゆっくり母親の手を振りほどいた。
「慎重に考えて、火を9で風を1くらいの割合で練習しようって決めたんです」
一転グルース伯爵夫人は悲しそうな顔をする。
「あなたがそう決めたのなら仕方ないけど、どうしてそう考えたの」
「そうだな、私もそれを知りたいな」
大きくうなずいてフロール伯爵もケルナーの答えを待った。ただしこちらは今にも喜びで飛び上がりそうな雰囲気だ。もちろんケルナーが「火を9で風を1」と言ったのが理由。
「あなたはお仕事がありますよね。私がちゃんとした火の教師を見つけます」
グルース伯爵夫人の強めの言葉に、フロール伯爵は肩を落とす。
「あ、風は私が教えますから、楽しみにしててね」
ケルナーよりもグルース伯爵夫人の方が楽しみにしている様子なのは言うまでもない。
「はっきりとした理由はないんですけど、勘でしょうか」
3人の兄の誰かから「うーん」とため息が生まれた。
しかし両親を含めて、「ケルナーが決めたのなら」と反対の意見を口に出す者は居なかった。
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「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
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