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第16話 引き続き魔法の研究
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一日の行動をみれば、その人の生きざまがわかる。
そんな言葉がある。
ラシャンスの一日は、魔法の研究に始まり、魔法の研究に終わる。
まさに魔法使いであるラシャンスの人生を反映していた。
もちろん、その途中でご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレに入ったりする。また時には市場に出かけたり、図書館に通ったり、素材の採集に出かけたりする。けれども、それらは魔法の研究の一環にすぎず、一日の大半を魔法の研究に費やしているのは間違いなかった。
直近の課題は変身を行う古代魔法の解明だ。
正確に課題を分けると2つになる。
1、変身できる魔法(魔法陣と呪文)の究明
髪の色や瞳の色など、希望に応じて容姿を変えることには成功した。あとは年齢を自在に変えることができれば、当初の目的を達成できる。
2、回復できる薬の改良
魔法の実行後、7歳から15歳に戻すことはできた。これを当初の29歳にまで戻すことができるようにする。そして現状、約5時間しか保てない戻る時間を少しでも長くする。仮に永遠に戻ることができれるようになれば、当初の目的を達成できる。
1か2のどちらか一方でも達成できれば、ラシャンス・シトロナードは旅先から自宅に戻れるようになる。
「元の姿に戻ったご主人様が自宅に帰れたら帰れたで、大きな騒動が起きそうな気がするんですけどね」
メリナの言葉は事実だ。王族とは縁の無かったラシャンスにとって、グリーノール国王陛下やティノロッシ王太子殿下から来た婚姻の申し出を断るのは難題だった。
「ファルツァーだけなら、何とでもなるんだけどなあ」
「ご主人様、ファルツァー様の申し出を断るんですか?」
「だって…」
ラシャンスにとってファルツァーはお似合いの相手とメリナは見ていたが、ラシャンスがファルツァーを見る目は旅の途中で抱いた“怠け者”と、あまり変わっていなかった。
「やっぱりねえ、相手に選ぶのであれば、もうちょっとしっかりしていた方が良いかなって」
「そんなこと言って選り好みしていたら、永遠に結婚できませんよ。そもそもファルツァーさんくらい強くって、ドラゴンキラーの称号まで持ってる人って、世界的にも歴史的にも相当な優良物件なんですからね」
「それは分かってるって。だから、この魔法の研究をしてるんだけど…」
「随分遠回りしてますよね」
あまりの冷たい言葉にラシャンスがメリナを冷たい目で見る。ラシャンスの視線に気づいたメリナがサッと姿を消した。
「私だって分かってるんだけどなー」
そう言いつつ、ラシャンスは魔法陣の組成式を見直した。
魔法陣を描くのに古代語、そして呪文の中でも古代の言葉を使っているため、現代の言葉に翻訳したところで、微妙に意味が変わってしまう場合があるらしい。
「呪文の発音も、ちょっと違う可能性があるよね」
ラシャンスは魔法の研究を進めれば進めるほど、奥行きの深さを実感した。
そこにやりがいを覚える一方、『いつになったら旅から帰れるんだろう。そして結婚できるのかな』との思いも強くなる。
後悔先に立たず
そんなことわざが思い出される。あの時、「もう一度実験をしましょう」とのメリナの忠告に従っていたら、今頃どうなっていただろうか。少なくとも7歳にはなっていないだろう。
「でも、少なくともグリーノール国王陛下とティノロッシ王太子殿下からの申し込みはあったと思うのよね」
ラシャンスにとって、王妃や王太子妃になることは考えづらかったが、男性から結婚を申し込まれることにあこがれる気持ちは大きく持っている。
「ファルツァーはどうしていたのかなあ」
ファルツァーはラシャンスが旅に出たと聞いて、忙しい中を自宅まで訪ねてきてくれた。
「じゃあ、もし私が旅に出なければ、何にも進展がなかったってこと?」
その可能性は高かった。
特別職や名誉職をいくつも受け取ってしまったラシャンスにとって、それらの任務を果たすのが最優先になっている。それはドラゴン退治に向かう時も同じだった。
「悪い人ではないのよねー、お人よしだけど」
「はい、ですから、私もオススメです」
突然、湧き出してきたメリナが割り込んでくる。
「…!びっくりしたあ!」
「ですので、ここはファルツァー様で手を打ちませんか?」
「手を打つって…」
「もう!ご主人様ったら、分かってるくせに…」
メリナがラシャンスの頬を突っつく。ラシャンスはそんなメリナをちょんと指先で払いのけた。“ちょん”であっても、メリナにとっては大きな一撃であり、壁近くまで飛ばされる。
「ご主人様、痛いですー」
「ファルツァーが良い人ってのは分かってるの!でも…」
「でも?」
「何だか、異性と言うより、仲間って感じが強くって…」
「それでも良いのではありませんか?」
「一度でも良いからトキメいた相手と結婚したいなって…」
メリナが肩をすくめる。
「ご主人様、そんなことを言ってると、どんどん時間が過ぎていくばかりですよ」
「分かってるんだけど…」
ブツブツ言いながら、ラシャンスは別の魔法書に手を伸ばす。びっしりと書き込まれた魔法について、解読していくと、あっという間に時間が過ぎてしまう。そうしていることについて、ラシャンス自身は魔法の研究も一種の逃避になっているとの自覚はある。しかしながら魔法の研究は好きで取り組んでいるだけに、中途半端なところで投げ出す気にはなれなかった。
「あれ?この魔法って…」
古代の魔法書を広げたラシャンスは、変身の魔法で使った魔法陣に似たものを見つける。仮に似ていても、その効果は全くの別物となる魔法陣や呪文も多いのだが、それは魔法の体系を勉強することで、容易に見分けがつくようになる。
ましてアカデミーで10年も勉強したのに加えて、卒業して以降もさらに魔法の研究を重ねてきたラシャンスにとっては、その魔法陣や呪文が単に似ているだけなのか、それとも何らかの関連性を示しているのはを見分けるのは難しくなかった。
ただし古代の魔法ともなると、ラシャンスであっても一筋縄で行かないところもある。慎重に慎重を重ねて、魔法陣の解読を重ねていく。
「うーん…違うか」
今回は残念な結果だったようだ。しかしそれはそれで、ラシャンスの魔法使いとしての蓄積につながっていた。
そんな言葉がある。
ラシャンスの一日は、魔法の研究に始まり、魔法の研究に終わる。
まさに魔法使いであるラシャンスの人生を反映していた。
もちろん、その途中でご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレに入ったりする。また時には市場に出かけたり、図書館に通ったり、素材の採集に出かけたりする。けれども、それらは魔法の研究の一環にすぎず、一日の大半を魔法の研究に費やしているのは間違いなかった。
直近の課題は変身を行う古代魔法の解明だ。
正確に課題を分けると2つになる。
1、変身できる魔法(魔法陣と呪文)の究明
髪の色や瞳の色など、希望に応じて容姿を変えることには成功した。あとは年齢を自在に変えることができれば、当初の目的を達成できる。
2、回復できる薬の改良
魔法の実行後、7歳から15歳に戻すことはできた。これを当初の29歳にまで戻すことができるようにする。そして現状、約5時間しか保てない戻る時間を少しでも長くする。仮に永遠に戻ることができれるようになれば、当初の目的を達成できる。
1か2のどちらか一方でも達成できれば、ラシャンス・シトロナードは旅先から自宅に戻れるようになる。
「元の姿に戻ったご主人様が自宅に帰れたら帰れたで、大きな騒動が起きそうな気がするんですけどね」
メリナの言葉は事実だ。王族とは縁の無かったラシャンスにとって、グリーノール国王陛下やティノロッシ王太子殿下から来た婚姻の申し出を断るのは難題だった。
「ファルツァーだけなら、何とでもなるんだけどなあ」
「ご主人様、ファルツァー様の申し出を断るんですか?」
「だって…」
ラシャンスにとってファルツァーはお似合いの相手とメリナは見ていたが、ラシャンスがファルツァーを見る目は旅の途中で抱いた“怠け者”と、あまり変わっていなかった。
「やっぱりねえ、相手に選ぶのであれば、もうちょっとしっかりしていた方が良いかなって」
「そんなこと言って選り好みしていたら、永遠に結婚できませんよ。そもそもファルツァーさんくらい強くって、ドラゴンキラーの称号まで持ってる人って、世界的にも歴史的にも相当な優良物件なんですからね」
「それは分かってるって。だから、この魔法の研究をしてるんだけど…」
「随分遠回りしてますよね」
あまりの冷たい言葉にラシャンスがメリナを冷たい目で見る。ラシャンスの視線に気づいたメリナがサッと姿を消した。
「私だって分かってるんだけどなー」
そう言いつつ、ラシャンスは魔法陣の組成式を見直した。
魔法陣を描くのに古代語、そして呪文の中でも古代の言葉を使っているため、現代の言葉に翻訳したところで、微妙に意味が変わってしまう場合があるらしい。
「呪文の発音も、ちょっと違う可能性があるよね」
ラシャンスは魔法の研究を進めれば進めるほど、奥行きの深さを実感した。
そこにやりがいを覚える一方、『いつになったら旅から帰れるんだろう。そして結婚できるのかな』との思いも強くなる。
後悔先に立たず
そんなことわざが思い出される。あの時、「もう一度実験をしましょう」とのメリナの忠告に従っていたら、今頃どうなっていただろうか。少なくとも7歳にはなっていないだろう。
「でも、少なくともグリーノール国王陛下とティノロッシ王太子殿下からの申し込みはあったと思うのよね」
ラシャンスにとって、王妃や王太子妃になることは考えづらかったが、男性から結婚を申し込まれることにあこがれる気持ちは大きく持っている。
「ファルツァーはどうしていたのかなあ」
ファルツァーはラシャンスが旅に出たと聞いて、忙しい中を自宅まで訪ねてきてくれた。
「じゃあ、もし私が旅に出なければ、何にも進展がなかったってこと?」
その可能性は高かった。
特別職や名誉職をいくつも受け取ってしまったラシャンスにとって、それらの任務を果たすのが最優先になっている。それはドラゴン退治に向かう時も同じだった。
「悪い人ではないのよねー、お人よしだけど」
「はい、ですから、私もオススメです」
突然、湧き出してきたメリナが割り込んでくる。
「…!びっくりしたあ!」
「ですので、ここはファルツァー様で手を打ちませんか?」
「手を打つって…」
「もう!ご主人様ったら、分かってるくせに…」
メリナがラシャンスの頬を突っつく。ラシャンスはそんなメリナをちょんと指先で払いのけた。“ちょん”であっても、メリナにとっては大きな一撃であり、壁近くまで飛ばされる。
「ご主人様、痛いですー」
「ファルツァーが良い人ってのは分かってるの!でも…」
「でも?」
「何だか、異性と言うより、仲間って感じが強くって…」
「それでも良いのではありませんか?」
「一度でも良いからトキメいた相手と結婚したいなって…」
メリナが肩をすくめる。
「ご主人様、そんなことを言ってると、どんどん時間が過ぎていくばかりですよ」
「分かってるんだけど…」
ブツブツ言いながら、ラシャンスは別の魔法書に手を伸ばす。びっしりと書き込まれた魔法について、解読していくと、あっという間に時間が過ぎてしまう。そうしていることについて、ラシャンス自身は魔法の研究も一種の逃避になっているとの自覚はある。しかしながら魔法の研究は好きで取り組んでいるだけに、中途半端なところで投げ出す気にはなれなかった。
「あれ?この魔法って…」
古代の魔法書を広げたラシャンスは、変身の魔法で使った魔法陣に似たものを見つける。仮に似ていても、その効果は全くの別物となる魔法陣や呪文も多いのだが、それは魔法の体系を勉強することで、容易に見分けがつくようになる。
ましてアカデミーで10年も勉強したのに加えて、卒業して以降もさらに魔法の研究を重ねてきたラシャンスにとっては、その魔法陣や呪文が単に似ているだけなのか、それとも何らかの関連性を示しているのはを見分けるのは難しくなかった。
ただし古代の魔法ともなると、ラシャンスであっても一筋縄で行かないところもある。慎重に慎重を重ねて、魔法陣の解読を重ねていく。
「うーん…違うか」
今回は残念な結果だったようだ。しかしそれはそれで、ラシャンスの魔法使いとしての蓄積につながっていた。
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