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八章 エピローグ

番外編 ファンサービス-side幽雅-

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 国内で大きく注目された私と灯屋君の結婚式を無事に終え、一か月ほどが経った。

 入籍に性別が関係無くなった社会での同性婚第一号だからしばらくは取材が殺到し、私はメディアに引っ張りだこだ。
 幽雅財閥の御曹司である私と違い、灯屋君は一般男性という事であまり表に出ていない。

 彼の情報がネットに上がろうものなら瞬時に消されるし、出版社にタレコミがあればによって出版できなくなるらしい。
 私は何もしていない。
 毒を以て毒を制すとでも言うか、灯屋君を全力で守る裏社会の監視が行き届いている証拠だ。

 そんなこんなで世間の盛り上がりも落ち着いてきた。
 灯屋君は比較的普段と変わらぬ生活となっている。

 しかし、私がテレビや雑誌に頻繁に顔を出すようになり、芸能人ばりに人から声を掛けられるようになった。
 せっかく普通に外に出られるようになったのだから、今日の私は出勤前にコーヒーショップに寄った訳だが。


「おい、あれまごサマじゃね?」
「ツグ様だ~♡」
「サイン貰えるかな」
「名刺は普通にくれるらしいぞ」
「はは、無理無理。緊張して声かけれねぇよ」


 などと、そこかしこから声が聞こえる。
 会長の孫という七光りを私は全面に押し出しているので、孫サマと男子から呼ばれており、女子はツグ様と呼ぶ事が多い。しかし何故様付けなんだ。

 コーヒーをカウンターで受け取り、名刺を欲しそうにしていた青年のテーブルに名刺を置いてから店を出ると、待ち構えていた女学生グループに声を掛けられた。


「ツグ様! 一緒に写真いいですか!?」
「ああ、構わない」
「やったー! ネットに載せてもOKなんですよね!」
「大丈夫だ」
「ありがとうございましたー!」


 私はレンズに向かって即座に最高の笑顔と角度でポーズをとるのにも慣れてしまった。
 一組目が終わってからも複数の女性に同様の願いをされ、人が減ったのを見計らって待たせていた車に乗った。
 私が男と結婚しているという安心感からなのか、女性からの接触がとにかく多い。
 別に女性が苦手とか特別興味が無いという訳でもなく、単純に『灯屋君』か『その他』というグループ分けなだけなのだが。
 レディ達の警戒心の無さを心配してしまう日々だ。


「さっそくあがっているな」


 簡単に検索するだけで、先ほど一緒に撮影した子達のSNSが簡単に見つかった。
 本当にもう少し警戒した方が良いと思うが、画像に添えられた興奮を感じさせる嬉しそうな文章を見ると私も嬉しくなってしまう。
 幽雅グループの良いプロモーションになるから、私は基本的にこういった頼み事は断らないようにしている。
 そう言い訳しつつも、私という存在が隠れる必要が無くなった事を実感し、こっそりと喜んでいるのだ。


 ◇◇◇


「ドンってば、今日も女子とくっついて写真撮ってる~。若くてカワイイ子ばっかりですねぇ」


 登坂が休憩時間にスマホをいじりつつそう言ってきた。
 ニヤニヤとわざとらしく大きな声を出して面倒な奴だ。


「私は時の人だからな。幽雅グループの代表として好印象を抱いて貰うためならば必要経費だろう」
「まぁ、それもわかりますけどぉ。新婚でこれはどうなんですかねぇ灯屋さん~?」


 こんな事で灯屋君が嫉妬したり心配したりしないと思っているが、登坂の言う事の方が世間の常識としては何も間違ってはいない。
 私の無神経で灯屋君を怒らせた実績がそこそこあるため急に不安になってきた。
 登坂は本当に人を揺さぶるのが上手いな。
 つい感心してしまうが、そんな場合ではない。
 デスクでPCに向かっている灯屋君を見ると、彼は顔を上げる事も無くキッパリと言った。


「俺の方が可愛いんで大丈夫です」


 その場にいた者の時間が止まって静寂が広がる。
 自ら話を広げた登坂すらも真顔だ。
 静かになった事で、灯屋君は慌てて顔を上げて弁明を始めた。


「ぁ……いや、外見の話じゃなくて! 幽雅さんにとってって話ですからね!?」


 自分で言っていて恥ずかしくなったのか、灯屋君の全身が赤くなってくる。
 そう、そうなのだ。
 私の灯屋君が一番可愛い。
 なんだか目頭が熱くなってきた。


「幽雅さん!?」
「すまない……灯屋君の自己肯定感がここまで育ってくれたんだなと……」
「笑うならまだしも、こんな事で感動して泣くのはやめてください!!」


 しばらくフロアは温かい空気に包まれ、登坂はいつの間にか退勤していなくなっていた。


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みんなの感想(10件)

みやこ嬢
2022.11.20 みやこ嬢

番外編まで読了!

自己肯定感が育ったアカリかわいい〜
幽雅さんの愛情を疑ってない( ^ω^ )

登坂、味方になるとホント有能
ヤマを天敵としてるとこも良き

くろなが
2022.11.20 くろなが

最後までお付き合いくださり感謝です!
感想いつも本当に励みになりました!

アカリは自己肯定感が育ってちゃんと弱音を吐いたりして周りが助けてくれる甘え上手に成長する予定です。
幽雅さんもニッコリですね!

登坂は本当に優秀なので部下からの人気が凄いのに本人は誰かに仕えたいタイプなので微妙に噛み合わない!良いご主人様にいつか出会えますように。

ヤマに好きな人殺されて、しかも助ける行動もできず怖くて現場から逃げちゃったので、ずっとそれが登坂の傷になってるんですよね。
ヤマは登坂のトラウマなんですけど、自分の弱さを認めたくなくてヤマのせいにして逃げている最中なだけです。
登坂本人もわかってるんですけど、完全に正義を吹っ切れた時に少しだけヤマへの態度が変わるかもしれません。

何度もこの作品を読み直してくださり本当にありがとうございました!

解除
みやこ嬢
2022.11.15 みやこ嬢

七章六話まで読了!٩( 'ω' )و

登坂が高度なヘンタイ過ぎて…
アカリは男が好きなんじゃなくて幽雅さんがすきなんだよ!

あと、ヤマはやはり良い男
彼が味方で本当に良かった

1日も経たない間に一気に事態が動いてる〜
あとはハピエンだ〜!(((o(*゚▽゚*)o)))♡

くろなが
2022.11.15 くろなが

いつも感想励みになります、ありがとうございます!

改めて登坂は変態で良かったなと思いました!
登坂もなかなか不遇な人生だったでしょうけど、アカリと感じてる幸福度が違いますもんね。
理解あるパートナーがいつかできて欲しいです。

ヤマがいるだけで安心感違いますね。
幽特内のパパ(ママ?)として見守って欲しい!

ラストスパートです!
結局ちょっとラスト周辺に加筆しただけで番外編増やせませんでした……無念。
登坂とヤマの情報がちょっと増えました!

解除
三冬月マヨ
2022.11.14 三冬月マヨ

はあはあ…。
こちらも、ここまで…。

Twitterでの豆を読んで、本当に身体を奪われなくて良かったと改めて思いました(笑)

アカリは自分を鼓舞する為に乱暴な言葉を使うけど、駄目親父は、ただ自分を大きく見せたいだけですもんね。
こんなのに、愛の塊が負ける訳ない!

くろなが
2022.11.14 くろなが

ママ出せてないですけど、小柄な巨乳清楚をイメージしてます。地味だけどエロさがあるみたいな。
正義はママにぞっこんラブだけど愛し方がクソなので本当に逃げて欲しいですね。若い体でヤり放題だーって思ってます。
ママが老けても愛が変わらないのは唯一褒められる点ですがむしろ老けて興味失って欲しいママ……。

アカリは周りを傷付ける威嚇じゃないですもんね。
正義は現状人に頼らなきゃいけない状態なのにそれでも偉そうなのが敗因な気がします。
もう少し謙虚であれば……(絶対無理)

解除
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