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七章 父と息子の決着-side灯屋-

十一話 甘い時間*

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 ずっとこの時を望んでいた。
 涙が零れそうなくらいの幸福感に包まれる。


「ふっ……ぅ、ぐっ……ん、んぅ」


 動きに合わせて、重なる唇が離れた部分から幽雅さんのくぐもった喘ぎが漏れる。
 何度も内壁を擦りあげるとこちらもどんどん息が荒くなった。
 気持ち良い。
 口も性器も皮膚の触れ合う場所も、全てが気持ち良い。
 でも、何よりも心が満たされている。
 唇を離すと幽雅さんの声が大きくなった。


「っ……ぁ、あぅ、ん……あぁ」


 普段の生活では絶対に聞く事のない、俺だけが知る艶のある声。
 低くてよく通る男らしい声が、俺の動きに反応して少し高くなる。
 それを聞いてゾクリと快感が増した。


「はぁ……幽雅さんの、中も、声も……最高……」
「バッ……あっ、ぅう……んぁ!」


 何かを話す余裕は無いみたいだが、幽雅さんは恥ずかしそうに身を捩った。
 ギュッと中も締まって俺の限界が早まるのを感じた。


「アッ、あ、は……ん」
「俺、もう、イきます……あと、少し……」


 腰を掴んで動き速めると、幽雅さんは眉を寄せて呻いた。


「んっ、ん、ン、ぁ、あ……っんぁ!」
「幽雅さん……きもちぃい……イく……ん、ぅ……!」


 射精感に合わせて深く激しく打ち付けると、精液がドクドクと放たれる感覚がした。
 しばらく射精の快感に身を委ね、全て出し終えるのを感じるとゆっくりと動きを止めた。
 二人の乱れた呼吸がやけに耳に残る。

 一つになれた。

 俺は幽雅さんを力強く抱き締め、その幸せを噛み締めた。



 ◆◆◆
 

「……おはよう」
「おはようございます」


 一つの布団に裸で目覚めるというのは気恥ずかしいものだ。
 俺は調子に乗って何度しただろう。
 幽雅さんもどんどん慣れていって大胆さが増していき、俺も歯止めがきかなかった。

 昨夜の情事の痕跡を残す幽雅さんの肌を見て、俺の欲がまたムラムラと疼き出す。
 思春期の頃ですらここまでさかりがついた事はなかったから焦ってしまう。
 距離が近いから誤魔化す事も難しく、幽雅さんも下半身の変化に気付いたようだ。


「ふっ……それはまた食事の後でな」
「え」


 幽雅さんは布団から出て浴衣を羽織ってお手伝いさんを呼んだ。
 俺も慌てて浴衣を掴んで人が来る前に不格好でも着直す。
 どう頑張っても俺達がした事はバレバレなのだが、最低限のマナーとして布団の周りに散らばっているゴミくらいは集めて近くにあった木製のゴミ箱に入れた。
 自分の余裕の無さを思い出して少し恥ずかしい。

 失礼致しますという声と共にお手伝いさんが入ってきて、俺と幽雅さんは別々に移動した。
 俺はまた昨日のお手伝いさんにお風呂で綺麗に洗われ、新しい浴衣に着替えさせられてから別室に案内される。
 そこで幽雅さんと朝食をとることになった。とても穏やかな時間だ。
 いつもの休憩時間のように、食事をしながら他愛もない話をしていた。


「そういえば……幽雅さんって、なんで髪を伸ばしているんですか?」


 世間話のついでに、俺は前々から気になっていた事を聞いてみた。
 俺の言葉に幽雅さんは少し視線を上げてから微笑んだ。


「ん……あぁ。男児が贄の神子に選ばれるから、髪を伸ばして女児のように見せる事で回避しようとしていた迷信の名残だな。現代ではもう誰もしていないが、私に似合うというのもあって両親は私を長髪にさせた訳だが、結果として親族で私だけが呪いを受けた事でちょっとした笑い者になったな」
「想像していたより悲しい事件が起きてる……」


 幽雅さん本人は全く気にしていないようでケラケラと笑っているのが救いだ。


「ふははは。その後も切る理由も切らぬ理由も無くてそのままだったが……そんな時、君に出会ったんだ」
「俺?」


 まさか俺が話題の中心に出てくると思わなくて驚いてしまう。口に運ぼうとした漬物が箸から零れ落ちそうになった。


「少年の君にお姉さんと言われて、私の中で闘争心が湧いた。絶対に髪が長いまま男らしくなってやろうと思ってな。つまり、今もそのまま伸ばし続けている理由は灯屋君なんだよ」


 子供の俺にそんな負けず嫌いを発揮しているとは。
 幽雅さんは俺に影響を受け過ぎじゃないだろうか。長い髪も鍛えた身体も、俺の存在が陰にある。
 独占欲が満たされて自然と口元が緩んでしまうが、それを誤魔化すように俺は正直な感想を言った。


「……幽雅さんって、やっぱり重いですよね」
「死に時を指定してくる君に言われたくないな」
「それは確かに」


 重さが釣り合っているなら問題ない。
 最初に仕事で相棒になった時はこの人とは絶対に合わないと思っていたのに。今では幽雅さんが俺の全ての中心だ。
 好きだなと思うと同時に、再び幽雅さんの隅々にまで触れたいという欲求が湧き上がる。


「幽雅さん、この後って……えーっと……」


 さすがに食事の場で『セックスして良いんですか』とは言えずに口ごもっていると、幽雅さんはニッと口の端を上げた。


「せっかくの休みだぞ。でも何でも君の望むままだ」


 幽雅さんの妖艶な笑みに俺は完全に視線を奪われてしまう。
 それから俺達は、ほとんど一日中抱き合った。
 軟禁なんてとんでもない。上げ膳据え膳をありがたく享受し、最高の蜜月を過ごす事ができた。
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