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六章 親友と仮恋人-side幽雅-
五話 好きの自覚
しおりを挟む「ま、正茂は私の祖父だ。毎日元気に仕事をしているが……」
動揺しつつも、どうにか私は答える。
ヤマは人の良さそうな笑みを浮かべた。
「へー、そっかそっか。奥さんが亡くなってかなり精神的に参ってたから心配だったんだよ。生きてるなら良かった」
お爺様が精神的に参っていた、だと。それは初耳だ。
しかも悪鬼であるヤマに生死を心配されるレベルとは。
お爺様は全くそんな素振りを見せていなかったものだから、私はヤマの言葉にとても驚いた。
「た、確かにとても仲の良い夫婦だったが……お婆様が亡くなった時もお爺様は気丈だった印象しかない……」
「そりゃ孫に弱った所なんて見られたくないだろうさ。でもその時期にあいつの能力全部無くなったろ。そういうの全部俺に渡してしまうくらい、マジでしんどかったみたいだ」
ヤマいわくお爺様は『どうせもう私が生きている間にあいつが再生して悪鬼としてすら姿を現す事は無い。ならば視える力などあっても意味はない』と言って、ヤマに全ての霊力を明け渡したそうだ。
幽雅一族の被害者であったヤマを選んだのも、力を付けた悪鬼にその場で殺して貰える事を期待したから。
悪鬼退治のスペシャリストであるお爺様が特殊悪鬼を自ら生み出すなんて、普通では考えられない。
次々にヤマの口から出てくる情報に私は大混乱だ。
ヤマは当時を思い出しながらなのか、眉をハの字にして言った。
「でも俺は幽雅を恨んでないからさ、正茂はしょんぼりしてたなぁ。俺に殺す気が無いとわかっても正茂はずっと死んだ目をしてたよ。あぁ、近いうちに自殺するのかなぁって思うくらいには」
「ま、まさか……いつも明るいお爺様がそこまで死を望んでいたなんて……」
会長として頂点に君臨する強く気高い姿と、孫を可愛がる優しい姿しか知らない私には信じ難い。
しかし、当然だがお爺様もただの人間なのだ。ヤマの言葉を疑ってはいない。
お爺様のそんな変化に気付けなかった自分に少なからずショックを受けていると、ヤマは気遣わしげに言った。
「ユウガが気にする必要無いと思うよ。むしろ怒っていい。奥さんも正茂を愛していたんなら、ユウガが贄の神子に選ばれたのって正茂のせいかもしれないし」
「お爺様のせい……?」
そう言われてすぐに私もハッとした。
自暴自棄になって途方に暮れている人間は忙しくさせるに限る。
死を考える余地を与えなければ良い。
「そうか。お婆様が呪いを残した事で、お爺様は私の世話に注力しなければいけない。お婆様はお爺様に生きる目的を作ったわけだな」
お婆様が申し訳なさそうにしていたのはそういう事だったのか。
すべてが腑に落ちた。
まさかの事実を知ってしまったが、私に負の感情は湧いてこなかった。
孫に苦労をさせるかもしれないとわかりつつも、お婆様はそれを選んだ。お爺様だって呪いの発現の原因に気が付いているのだろう。
お爺様は私への罪悪感に苛まれているかもしれない。
しかし、呪いがお婆様とお爺様を繋ぐ愛の証なのだと私には感じられた。
呪いによって制限された生活がまったく辛くなかったと言えば嘘になるが、直接理由を説明されて贄の神子になれと言われても私は断らないだろう。
私の存在でお爺様の命を繋ぎとめられるのであれば嬉しい限りだ。
お爺様は能力が無くなっても幽特を作ったり、悪鬼対策の後継者を発見・育成する体制を整えたりと、活躍がずっと続く。
家族の情を抜いたとしても、お爺様は長生きするべきと私は判断を下すだろう。
────何より呪いがあったから、灯屋君と出会えた。
限られた生活だったからこそ私は深夜に出掛け、少年の言葉に胸を打たれたのだ。
もしも私が贄の神子でもなく、ただ普通の御曹司だったなら。
もっと高慢で自分を磨く事もせずに低い位置でも満足できる人間だっただろう。
私は今の自分が好きだ。
だから私は自然と自信に満ちた言葉が出ていた。
「私は贄の神子で良かったと思っているよ」
そう微笑めば、ヤマも嬉しそうに笑った。
「そっか。それでアカリとも会えたもんな」
「なにっ!? ヤマ君は人の心が読めるのか!!?」
「いや、そんな感じの顔してたから……恋する乙女みたいな……?」
乙女だと。
男らしさを目指している私には複雑な表現だが、それ以上に『恋する』に反応した。
「ヤマ君は恋がどういうものかわかるのだな!? 是非とも詳しく教えて欲しい!」
「えっ……教えるも何も、直接ユウガと会って確信したけど。ユウガはとっくにアカリに恋してるし愛してるよ」
「具体的にはどんな所だろうか!?」
ヤマは私の勢いに驚きながらも素直に感じた事を答えてくれる。
「恋してないなら俺をライバル視したりしないだろ。ユウガがアカリを誰かに奪われたくないと思った時点で、それはもう友情を超えてるな」
「むぅ……そうなのか」
「あとは~、そうだなぁ」
そう言ってヤマが私の両肩を掴んでゆっくりと顔を近付けてきた。
そんなに距離が縮まってもいないのに、私はすぐにヤマの胸元に両腕を突き出してこれ以上接近できないようにしていた。
ヤマに対して嫌悪がある訳でもないのに、体が勝手に動いていたのだ。
相手が灯屋君だと一切そんな事が起きないため、自分でもこの反応に驚いてしまう。
「この差、かな?」
そう言ってヤマはパッと私から両手を離してベンチに座り直す。
まさかの実演に動揺はしたものの、一番理解しやすかったのは確かだ。
小路君にもセックスについて同じような事を言われたが、どこか実感が薄かった。
好きな相手でもできる事とできない事がある。
それは、好きの種類が違うということ。
やっと私もそれが身に沁みて理解できた。
やっぱり、私はどうしようもなく灯屋君が好きなのだ。
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