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四章 相棒の資格-side幽雅-

四話 マズいことになっている

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 小路君は私の反応を見て、照れたように小さく笑った。


「普通は何があっても男との……そ、それをOKしないですよ。僕もボスを大切に思ってますし好きですけど、セッ、クス……はさすがに断固拒否ですもん。好き嫌い以前に男同士は誰であってもできないです。僕はそういう作りなので。まずそこがお互いクリアしているというのは幸せな事ですね」
「それは、確かに……」


 幸せなこと。
 そう言ってくれる小路君の優しさに自然と私も笑みが浮かんだ。


「でもですよ。そこが同じであっても誰とでもしたいなんて思わないでしょう。中には世界中全ての男女を……だっ、抱きたい……なんて人もいるかもしれませんが、僕は一方的ではなく、心が通じた同士でしたいですよ……」


 苦手な話題のはずなのに、小路君は必死に話してくれる。本当にありがたい。
 私はデスクチェアの背もたれに体重を預けて考えた。

 つまり灯屋君は私としたいと思っているが、心が通い合った場合のみという事だ。
 それを私は仕事上必要なら構わないと言ったため、灯屋君を傷付けたのだ。


 私は特殊な環境だし、恋愛とは無縁な生活だった。
 呪いの存在など知らない相手でも、男女問わず権力者からのアプローチは常にある。

 幽特関係者のみが集まる極秘のパーティーなどでは、滅多に現れない私目当ての来賓の対応が大変だった。
 だが、そこには愛情は絡んでいない。
 金、権力、外見。
 私という人格に興味が無いのは、話してみればわかるものだ。

 こんな世界では簡単に気を許せるはずもない。だから感情よりも合理性で物事をなるべく判断する必要があった。
 何より、一つのミスで私だけでなく幽雅財閥全体を危機に晒すのだ。
 肉体関係を匂わせた、嫁候補、ビジネスパートナー、投資など、様々な誘いがあった。
 その数多の誘いを利用すれば、私はもっと楽に生きられたかもしれない。
 そうだとしても、私には行動に移すだけのメリットを感じられなかった。だから私は今まで男女共に関係を持った事がない。

 しかし、灯屋君が求めるのならば。


「灯屋君だから良しとしたのだがな……」


 私がそう呟くと、小路君は諭すように言った。


「ドン……多分ボスに“仕事のためなら誰とでも寝る男”だと思われてますよ」
「なんだと!?」


 考えとは真逆のイメージを持たれるなんて心外だ。
 しかし、小路君は呆れたように言った。


「ドンの考えをボスが勝手にわかるわけないんだから。ちゃんと話さないと」
「そ……そう、だな……」


 そこまで言われて私も気付いた。
 灯屋君に伝わっている私の情報なんて『好きでストーカーしている』『だがそれは恋愛感情ではない』『だから付き合うつもりはない』『でも必要ならセックスしても良い』だけじゃないか。
 確かにこれでは遊び人というか、ライクの相手なら誰とでも寝そうだ。


「……マズイな……」
「ようやくわかったようで。ではお先に失礼しますね」


 小路君は私への差し入れのためだけに残ってくれていたようで、そのままあっさり帰っていった。
 私はデスクに突っ伏し、己の浅はかさにしばらく悶えるしかなかった。

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