灯は幽かに鬼を照らす‐嫌われていたはずの相棒に結婚を迫られています‐

くろなが

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四章 相棒の資格-side幽雅-

三話 好きだけど

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 私は一人寂しく幽特に戻った。
 就業時間を過ぎているのもあり、大半の職員は先程の現場へ向かっているため誰もいなかった。
 報告書だけ書いてしまおうと自分のデスクに座ったがやる気が出ない。
 灯屋君に嫌われてしまっただろうか。そればかり考えてしまう。
 そんな時、誰かがフロアに入ってきた。


「どもっす」
「ああ、小路しょうじ君か」


 小路小春しょうじこはる君は、下鬼専門の現場組だ。
 全身に満遍なく鍛え上げられた筋肉がついている大柄な男で、私の一つ年下である。
 明るく豪快だが、ガサツという事は無くしっかりと気配りができる好青年だ。
 コンビニ袋を持った小路君が私のデスクに近付いた。


「これ、ボスから」
「……灯屋君?」
「さっき電話がかかってきて、エグい現場だったから幽雅さんが落ち着けるような物を差し入れろって。お茶とかのど飴とか色々指示されたので全部ボスからです」
「あ、ありがとう……」


 袋を受け取るとノンカフェインのお茶や、ハーブのど飴、ゼリー飲料が入っていた。
 私が気に入っている物ばかりだ。どうやら嫌われた訳ではないらしい。
 安心はしたものの、灯屋君の謎は深まるばかりだ。
 つい溜息が零れてしまい、小路君が反応した。


「ドン、元気ないですね」
「いや、その……ここに戻る前に灯屋君を怒らせてしまってな」
「えぇ!? ボスを怒らせるってよっぽどじゃないっすか。あんなにドンLOVEなのに」


 灯屋君は周りへの牽制も兼ねているのか、社内でも私を好きだという気持ちを隠していない。
 最初は皆も驚いていたが、仕事一筋のボスに明るい変化が現れたのが嬉しかったらしく、社員は応援&見守りモードだ。
 冷やかすでもなくただニコニコと灯屋君を見守っている。本当に彼は部下に愛されているな。
 そういう事なので、私も特に隠す事なくさっきの出来事をそれとなく話すことにした。


「仮にだ。君の意中の相手が夜の誘いをしてきたらどう思う?」
「なっ、な、なななんですか突然!!」


 小路君はこれだけの発言で全身が真っ赤になって慌てている。意外と純だったらしい
 このご時世、同性といえど猥談を突然振るのは良くなかったと反省する。


「すまない、セクハラだったな」


 謝罪と共に頭を下げると、小路君は慌てたように否定した。


「い、いえ、ビックリはしましたけど! えっとぉ、ま、まあ……嬉しいんじゃないですかね」
「……そうだよな」


 私も喜ぶと思ったのだ。だからこそ灯屋君が怒りだした理由が本当にわからない。
 小路君の同意を得た事で謎が更に深まっただけだ。
 しかし、小路君が何か思い当たったらしく『あっ』と声をあげた。


「相手も自分の事が好きなら嬉しいですけど、そうじゃないなら嬉しくないかなぁ」
「む……普通に好きなんだが」
「あ~はいはい、なるほど。なんとなくわかりました」


 小路君は何故か苦笑して私を見た。


「多分ですけど……仕事上しょうがないからしてもいいよ~、みたいなニュアンスの事を言ったんじゃないですか?」
「あそこに監視カメラでもあったのか!?」


 小路君のあまりに正確な指摘に私は目を見開いた。
 それに対して小路君は大袈裟に大きく息を吐いてみせる。


「ドンには人の心が無いんですか」
「何故私は小路君にまで怒られているのだ」


 そんなに私は駄目だったのか。なるべく波風の立たない平和な選択をしたつもりが大荒れである。
 仕事とプライベートの区別が難しい状況だから、マネジメントが困難を極めている。
 困り顔の私に小路君は質問を投げかけた。


「ドン、ボスの事好きですよね?」
「??? 好きだが……」


 そう答えると頬を染めながら小路君は小声で言った。


「セッ……せせせ、セックス、できるくらい好きなんですね?」
「……まあ、そうなるかな」


 正しくは彼のためなら何でもできると言った方が近い。
 幼心に『この少年を幸せにしたい』と思ってから、それが生きがいのようになっていた。

 何の努力をするにしても、この行動がいつか彼のためになると思うと苦労も苦難も全てが楽しかった。
 贄の神子でも御曹司でもない、ありのままの自分がそこにあったのだ。
 誰の思惑も無い、自分だけの大切な感情だった。


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