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二章 贄の神子-side幽雅-
三話 特殊な悪鬼
しおりを挟む次の日の夕刻、少年の調査を行った者から連絡が入った。
少年は近所でも有名な存在だったようで、周辺住民への聞き込みで情報はすぐに集まったらしい。
予想通り、少年の怪我は実の父親からの暴力だった。
母親はずっと暴力で支配されているような状態だったが、ある時に少年だけが父親の元に残り、母親と妹はどこかへ身を隠したそうだ。
日に日に怪我が増える少年のために周辺住民も通報などはしているが、成果は全く出ておらず心配の声があがっているとのことだった。
「こんなクズが野放しという事は、あまり良くない組織で父親は重宝されているのかもしれんな」
金の取り立てや、女性を脅して半強制的に裏仕事に流すなど、暴力的な奴が向いている役割は多い。
善人にとっては最悪の存在でも、使う側にとっては手放せない駒だ。
行動にためらいのない者はある種のカリスマ性を備えている。
現に父親を信奉している様子の部下が自宅の周囲をウロチョロしているのも確認できていた。
こいつらがお爺様の知る勢力かどうかは確認しても良いかもしれない。
敵対しているのであれば少年の救出に手を貸してくれるだろう。
思案しているとまた連絡が入った。
「正継様、少年と父親が車でどこかへ出掛けたようです。私一人では追えません。いかがいたしますか」
「わかった。君はそのまま自宅を見ていてくれ。すぐ帰宅する可能性もある」
「はい」
本当にただの買い物程度の外出ならば良いのだが。
しかし、仲良くドライブなんてする親子とも思えない。
どうも胸騒ぎがする。
だが私のような引きこもりの子供ではこれ以上どうにもできない。
すぐさまお爺様に電話すると、普段ワガママを言わない私の願いをすぐに聞いてくれた。
権力の賜物か、数時間で車を特定して親子を見つけ出す事ができたのだ。
──結果としては私の嫌な予感は的中していた。
瀕死の少年と、大小さまざまな穴が全身に空いて死んでいる父親が山奥で発見された。
少年は父親にシャベルで殴打されて殺されかけていた。
気を失った少年を運転席に乗せて崖から落とし、子供が興味本位に運転した末の事故と見せかけるつもりだったようだ。
それが保険金目的の犯行だというのも後々の調べでわかった。
炎上しやすいように車に細工までしてあったそうだ。
しかし、少年ではなく父親が死んだ。
まるでクッキー生地を型抜きしたみたいに、父親の体には複数の丸い綺麗な穴が空いていた。
どう考えても人間ができる所業ではない。
少年は病院に運ばれ、父親はドライブ中の自損事故により死亡という形で幽特が処理した。
父親の車以外のタイヤ痕も残っていたから仲間がいたのかもしれないが、その車は盗難車だったため情報はあっさりと途切れてしまう。
以上な死に方によって幽特案件とわかった事で、私もお爺様も現場へ向かう事になった。
現場に到着した私は異様な雰囲気を感じていた。
「お爺様、オバケの気配がおかしいです」
「ほう、どんな風にだい?」
「変質……ここで、上鬼が特鬼に変化した……みたいです」
特鬼は、封印はできても倒す事はできないと言われている。
神のようなモノになってしまったからだ。
十中八九、疫病神であるのは間違いない。
特は“特殊”という意味で、対応が千差万別になるからそう呼ばれる。
特鬼は人の生活に紛れ込む。
人の姿をしている時に特鬼であると気付くのは難しい。
だが、その特鬼にとってトリガーとなる事象が起きると大変な災いが降りかかると言われている。
周囲一帯が跡形もなく消し飛ぶなどの、天災級の被害が出てしまうのだ。
私はそんな想像に身を震わせた。
「でも、もういないので……残った気配ではこれ以上わからないです」
「そうか。じゃあ生き残った少年が心配だな」
「……どういうことですか?」
お爺様いわく、少年がキッカケで悪鬼が進化した場合。
その少年に憑りついている可能性が最も高いのだと言う。
そうなると今後の少年の行動で、天災級の悪鬼被害が起きるかもしれないのだ。
あの少年がとんでもない爆弾を抱えてしまったのだと私は理解した。
私が少年を最後に見たのは、病院のベッドで眠っている包帯だらけの痛々しい姿だ。
少年からは悪鬼の気配が感じられなかった。
しかし、今だけどこかに隠れ潜んでいる可能性もある。
もしもの脅威に迅速な対応をするためにも、お爺様は少年を保護下に置くことにした。
それから私は少年とは会っていない。
私にはやるべき事が沢山あったからだ。
贄の神子であっても、私は自由になると決めたのだ。
もしも悪人に拉致されそうになってもすぐに逃げられるように鍛錬を重ねた。
仮に大勢に囲まれても抵抗できるよう、格闘技は可能な限り習った。
運動し、よく食べていると身長は今まで以上に伸びた。
体力もつき、全身に程よく筋肉がついて顔だってどんどん男らしさが出てきた。
髪が長かろうとも、もう誰も私を女だと間違う事はないのだ。
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