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【五章】仙人と魔物

二十四話

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「結局女装じゃねーか!!」


 俺は叫んだ。
 部屋に到着するなりミニ丈の純白ウェディングドレスを着せられた。
 肩も首も腕も出ているからルーシャンでも普通にゴツい。だが俺用に仕立てているのかサイズはピッタリでなんとも言えない気持ちになる。
 白いヒールまで用意されてるし、新品だから足に合わないという事もなく履き心地は抜群だ。
 エダムもちゃっかり白いタキシードを着こんでいる。エダムはフォーマルな装いが一番似合うタイプなので文句なしに格好良い。
 いつ用意した?
 まるで予期していたような準備の良さに唖然としてしまう。
 エダムはドレッサーに座らせた俺の髪をセットしながら反論する。


「違うよ。ルービン様には女装して欲しいけど、ルーシャンにはこの恰好をして欲しかっただけ」
「何が違うんだ……」
「こっちの国の結婚衣装を着てるルーシャンも見たいだけだよ。タキシードだとどうせ下は脱ぐことになるし、それならドレスの方が合理的だな~って」
「お、おう……?」


 わかるようなわからないような。
 セックスしやすけりゃ何でも良い、という潔さを感じて言葉が見付からない。
 そうこうしているうちに、横髪を垂らし、残りは後ろの上でお団子状にまとめられたアップスタイルが完成した。
 髪が上がってスッキリとした俺の首元に、エダムが赤い小さな宝石が付いたシンプルなネックレスをつける。少し意外で思わず手を伸ばして感触を確かめてしまう。


「アクセサリーまで用意してんのかよ」
「ふふ、これはね。ルーシャンが僕達のために用意していたアミュレットの縮小改良版だよ」
「嫌味か」


 俺はアミュレットの補助がなければ大それたことができないくらいの魔力しかない。
 どうにかこうにか簡単に作れる補助具を開発したのに、稀代の魔術師にかかればこんなにも目立たないアクセサリーになる。俺にこれくらい魔法技術があれば犯される事もなく穢れが吸えたんだろうな。
 俺が唇をわざとらしく尖らせていると、エダムが宥めるように言った。


「とんでもない。僕達は何でも自前の魔力でやってしまうから、ルーシャンがアミュレットを用いた中継具を開発してくれなきゃこんなアイテム作れなかった」
「……ん? これはどんな効力なんだ?」
「ルーシャンの魔核から溢れ出る穢れを引き受けて浄化してくれる装置だよ。ルービン様の塔の浄化システムも小さくして取り入れてね」
「は!?」


 えっと、それは、つまり。
 鏡越しに背後のエダムを見た。エダムは感情がよくわからない笑顔を俺に向ける。


「うん。もう僕達とセックスする必要がないってこと」
「……は? いつの間に……こんな研究を……?」


 今まさにセックスするって時に、何を言っているんだ。自分でも驚くほど動揺している。声が震えているのを抑える事もできなかった。
 そんな俺とは正反対に、エダムは穏やかに説明を始める。


「浄化のためにも、魔力補充のためにも僕達とセックスしなければいけないとルーシャンに告げた時、リヴァロが早くセックスの回数を減らせるように研究するって言ってただろ? いくらルーシャンが現状を受け入れてくれても、皆なるべく早くルーシャンを救うために動いていた。僕だってただブルーミーにいた訳じゃない。仕事の合間にあっちで有志を募って研究を進めていたんだ」


 マジか。異様にエダムが疲れて帰ってきたのは、俺が指示した以外の研究を独自に進めていたからだったのか。
 そんな事にも気付けていなかった情けなさが俺を襲う。
 俺の変化を知ってか知らずか、エダムは俺を背後から抱き締めた。


「でもまあ、この装置もルーシャンには必要なかったようだけどね」
「え……?」
「何をするかまではわからないけど、悪魔との契約の代償にラグリマを渡すんでしょ。そうすると魔核ごと取り除かれて穢れも無くなり、ルーシャンの人魔化も解かれて……ルービン様と同じ、魔力無しの王になる。貴方はその覚悟でいる……そうだろ?」
「……それは……」


 俺は言葉に詰まるが、その通りだった。
 あれからフィオーレと会えていないし具体的な話は進んでいないが、大きな争いが起きる前にカースを無力化するには悪魔の人知を超えた力が必要だ。
 そんなものに頼らないのが一番だが、人をやめたカース相手では悠長な事も言っていられない。何よりもう誰も危険に晒したくない。かといって俺自身の能力は高く無いのだ。それを正しく理解しているからこそ、俺は悪魔との契約をもちかけたし、最終的にはエダムの言った通りの結末になると思っている。
 それなのに、四人に対してこれからはずっと一緒だと言い、俺だけが人間になるかもしれないと伝える事ができずにいた。俺よりもよっぽど頭の良い四人はとっくにそれに気付いていて、何も言わずにいてくれたのだ。


「……怒って、いるか?」


 掠れた声になってしまったが、聞かずにはいられなかった。
 だが、エダムは不安に染まっている俺を笑い飛ばして言った。


「全然。ルーシャンが人間に戻るなら、僕達も人間になるよ」
「すげー自信……」
「そりゃあ、貴方に選ばれた最高峰の魔術師ですから。昔と違って魔法技術もかなり発展してるし、仙人なんて存在まで知れた。塔の中では限界があっても、広い世界の中でなら選択肢が沢山あるし僕達ならば必ず解決策を見つけられますよ」
「そうだな……。ほんと、俺の魔術師は頼りになる」


 ここまでキッパリと言い切られてしまえば俺から何も言えないではないか。

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